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買春の犯罪化は問題解決をもたらすのか?

割引あり

 高市首相が買春の規制を進めるように指示したというニュースが飛び込んできた。高市に限らず、自民党は男尊女卑の旧来的価値観に固執している一方、強姦罪の改正など性犯罪関係の改革に関してはフェミニズムに結構親和的な動きを進めてきた。

 その謎はまた追って考えたいが、ひとまず買春規制の話だ。買春を規制すべきか否かという問題はフェミニストの間ですら意見が割れている。一方では買春が女性への搾取であり禁止することで女性を守るべきだという主張があり、もう一方で買春規制による地下化や公然と保護を要求しにくくなることへの懸念がある。

 この件について、私はまだ自身の結論を持っていない。なので、ここでは様々な主張を検討しながら、現時点でどう考えるべきかを記事を書きながら模索したい。さしずめ、私の頭の中の思考回路がそのまま現れたようなまとまりのない記事になるかもしれないが、こういう難しい問題にすっぱりとした結論を急ぐのは危ういし誠実とも思えない。買春を合法化した国も違法化した国もあるのだから、それぞれの現状をよく把握して日本の行くべき道を考えるべきだろう。

エビデンスを集める

買春の合法化を支持する情報

 まずは考えるベースとなる情報を集めていこう。先に、買春の合法化を支持する立場の主張、すなわち今回高市政権が進めるような規制を否定する立場の情報をかき集める。

 買春の合法化を支持する主張は、どうもそれを直接訴えるというよりは、買春を規制するモデルの失敗を批判する文脈で現れやすい印象がある。例えば、欧州人権委員は、買春の犯罪化がセックスワーク自体の犯罪化を含まないとしてもセックスワーカーへのスティグマ化をもたらすなどして彼女たちが安全な環境から疎外されることを指摘している(リンク)。

 またアムネスティも買春が犯罪化されたアイルランドの現状を指摘し、違法化が孤立を強め警察からの迫害も増す結果になったと主張している。

 ほかにも様々な団体からの主張があるが、基本的な内容は同じである。犯罪化はセックスワーカーを罰さないとしても、活動を公然とできなくなることで被害を防ぐことや訴えることがしにくくなるということが指摘されている。

買春の違法化を支持する情報

 一方で、買春の違法化を支持する情報もある。買春を違法化して10年がたつフランスでは、買春を許されるべきではないことだと答える人々が8割近くにのぼっている。

「セックスワーク」という言葉は「現実を隠蔽」
 オリビエさんは「セックスワーク(性的労働)という言葉は、性搾取の現実を隠蔽(いんぺい)するためのプロパガンダ用語だ」と喝破する。「性売買は経済的な理由で強制され、隷属状態におかれる行為。労働ではありえない」
 買春処罰法は来年、制定10年を迎える。「法律ができて意識が変わった」とオリビエさん。19年に実施された世論調査では78%の市民が法律を良いものと評価し、79%が他人の体や性交を「買う」ことは許されるべきではないと答えたという。
 当初は腰が重かった警察も、特に未成年者を保護するために、法律の施行を優先的な課題とするようになった。24年末までに約1万人の男性が違反調書を取られた。被害者は1579人で、うち659人が未成年だった。1342人が社会復帰支援の恩恵を受けたという。また、23年には、性売買からの脱却を支援する組織がようやく全県に設置された。

買う人がいるから売る人がいる 仏の買春処罰法の立役者が語る性売買

 また、買春の経験が性犯罪に結びつくと指摘する研究もある。(ただし、研究の対象となった韓国はそもそも買春が違法な国であり、単に違法行為の経験や距離の近さが影響している可能性は否定できないが)

Cho, S-Y. (2018). An Analysis of Sexual Violence - The Relationship between Sex Crimes and Prostitution in South Korea. Asian Development Perspectives, 9, 12-34.

 ともあれ、少なくとも買春行為は性犯罪に結びつき得る階段のひとつとなっている懸念も否定できない。買春の違法化は、潜在的な加害者がその階段を登ることを防ぐとともに、階段を登りやすい風潮を否定することにも一躍かっていることは間違いないだろう。

 もっとも、買春の違法化を支持するにせよ批判するにせよ、そもそも明瞭な統計や情報が出てきにくい問題だということは考慮する必要がある。買春の違法化を否定する立場の人々はセックスワーカーが被害を通報しにくいことを主張するが、これは必然的に被害が統計に表れにくいことを意味している。一方、彼らの主張の多くは実際にセックスワークに従事する人々の証言からなるが、そもそも買春の違法化の恩恵によってセックスワークに従事しなくてよくなった人々はそうした証言をすることはない。

 同様に、買春の是とするかどうかの世論調査や、実際に買春の経験があるかどうかの回答についてもバイアスを考慮しなければならない。匿名の調査でも向社会的な回答をしようとする傾向が人間にはある。また、買春が違法化されていれば、正直に買春の経験を回答する人間はぐっと減ることになるだろう。

買春違法化は本当に不利益を生じさせるのか

 記事の冒頭で、買春の規制について結論を持っていないと書いた。だが、私の考えはどちらかといえば違法化すべきではないかという方向に傾いているのも事実だ。というのも、セックスワークの合法化を支持、あるいは違法化を否定する主張にはいくつか無理筋なものがあると思われるからだ。

被害を訴えられないのは違法化のせいか?

 買春の違法化を否定する主張の中心は、違法化によってセックスワーカーが仕事中に受けた被害を訴えにくくなるというものだ。だが、その現象が本当に違法化によるものなのか疑問がある。

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