就任後初の衆院予算委員会に臨む高市早苗首相は、初日の7日午前3時に首相公邸に入った。一室にこもると、各省庁が準備した答弁書にひとり赤ペンを走らせた。「ビーッ」。首相がブザーを鳴らしたときだけ隣室に待機する秘書官らが入り、内容を調整した。
自分の言葉で発信することにこだわった首相。答弁準備は3時間半も続いた。「自身のこだわりを盛り込み、高市政権としての新たな答弁ラインを考えていた」。官邸幹部はそう明かす。
仲間と群れずに一人で抱え込む――。就任前からそんな孤高の政治スタイルを指摘されてきた首相。議員らとの会合より、宿舎に資料を持ち込んで読み込むことを好んだ。就任から1カ月、外交や国会対応に追われたこともあり、外での会食は一度もない。そんな決して党内基盤が強くない首相を官邸内で支えるのは、首相の保守的な政治理念に共鳴する側近たちだ。
【連載】「高市政権発足1カ月 見えてきた権力構造」第1回
自民総裁選直後、公明の連立離脱で窮地に陥るも日本維新の会との新たな連立で乗り切り、現在は歴代屈指の高さの内閣支持率を維持する高市早苗首相。政権発足から21日で1カ月。見えてきた権力構造とは何か。
木原官房長官「金額を気にするな」、財務次官に指示
10月末、全府省庁の事務次官を集めた会議。異例の出席をした木原稔官房長官は、今年度補正予算案の説明をする財務次官に対し、首相の肝いり政策を念頭に「金額を気にすることなく、必要な政策を積み上げるように」と指示した。首相の掲げる「責任ある積極財政」を妨げることは許さない――。そんな官邸の意図を居並ぶ霞が関官僚らに浸透させる狙いだった。「政権の肝は木原氏だ。何が起きても首相と心中するくらいの気概がある」。官邸幹部はそう評する。
首相が安倍晋三元首相の後継を自任するように、木原氏も安倍氏の首相補佐官を務めるなど関係は深かった。木原氏は、安倍晋三元首相が事実上創設し、高市首相もメンバーの保守系議員連盟「創生日本」に籍を置き、首相が初挑戦した党総裁選や政調会長時代に事務局長として支えた。防衛相、党安全保障調査会長も歴任し、首相の思い入れが強い安保分野に精通する。木原氏は理想の官房長官として安倍政権当時の菅義偉氏の名を挙げる。
「木原氏の官房長官就任は総裁選の時から決まっていた」と首相側近は明かす。政権発足前に日本維新の会との連立合意の取りまとめに奔走。今も全国で相次ぐクマ被害対策の取りまとめ役など、中心的な役割を担う。
保守理念共有する城内氏も信頼
木原氏と同じく首相の保守理念を共有し、21年総裁選で事務総長として支援した城内実経済財政相も、首相が信頼する政権の大きな推進力だ。
政府が経済対策案を自民党に示す前日。党の「責任ある積極財政を推進する議員連盟」のメンバーに、顧問の城内氏側から「『20兆円規模の補正を求める』発言メモ」が配られた。「規模を誤れば『看板倒れ』『緊縮回帰』と見られ、国民の期待を裏切る」。メモの言葉に呼応し、13・9兆円だった前年度を大きく上回る規模を求める「大合唱」が党内に起きた。
台湾有事答弁「確認甘かった」
首相の結束した同志で固める高市官邸。強く意識するのは、第2次安倍政権の再現だ。当時首相秘書官の今井尚哉氏、外務次官の秋葉剛男氏ら安倍氏を支えた元官僚を参与や特別顧問に据え、長期安定政権に至る知恵を得ようとしている。
ただ、歴代屈指の高支持率を維持するも、安倍政権の「官邸一強」の安定感にはほど遠い。7日の予算委で首相は、台湾有事を「存立危機事態になりえる」と、歴代の政府見解を踏み越える答弁をした。「つい言い過ぎた」。答弁後、首相は周囲にそう漏らしたという。首相側近は「ハレーションがどうなるか、確認が甘いままに答えてしまった」と語り、官邸側のサポートが足りなかったと悔やんだ。別の側近はこう語る。「高市氏個人が力を持っただけで、官邸がチームとして強いわけではない。それがこれからの課題だ」
連載「高市政権発足1カ月 見えてきた権力構造」第2回は、20日(木)に配信予定です。
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