日本で暮らす外国人が増えるとどうなる 専門家と読み解く五つの疑問

石田耕一郎
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 日本社会で近年、外国人に関する真偽のあやふやな主張が急速に拡散している。実在しない「外国人優遇政策」が、社会保障をめぐる財政の悪化や、経済の停滞、暮らしぶりの落ち込みをもたらす原因だと唱えるものもある。果たして現実はどうなのか。関係する制度や統計とともに、専門家の研究成果を紹介する。

Q:外国人労働者が増えたわけは?

 日本の外国人労働者は、どんな産業で働き、なぜ増えてきたのか。

 厚生労働省がまとめた「外国人雇用状況」によると、日本で働く外国人は2024年10月末で230万人。10年前から約3倍に増えた。

 雇う側は従業員30人未満の事業所が最も多く、62.4%を占めた。産業別に見ると、卸売・小売業が最多で18.7%、食品や自動車といった製造業の16.6%、宿泊・飲食サービス業の14.3%、建設業の13.1%と続く。製造業と建設業で働く外国人は、技能実習生の比率がそれぞれ36.4%、60.3%と高く、宿泊・飲食サービス業には留学生(39.3%)が多いのが特徴だ。

 厚労省の24年の実態調査によると、外国人を雇う理由で最も多い回答は「労働力不足の解消・緩和」(69.0%)。日本人労働者が集まりにくい産業で、外国人が雇われている実態が浮かぶ。

 また、外国人労働者の日本国外での最終学歴は高校が40.6%で最多。大学・大学院が33.7%、短大・専門学校や高卒後に入った職業訓練校が15.4%で続く。一部の政党が優先的な受け入れを求める「高度な技術や専門知識を持つ人材」が、すでに相当程度を占めているとみられる。

 外国人労働者をめぐっては24年、途上国支援を名目に掲げた技能実習制度を廃止し、新たに人材の育成と確保をうたう「育成就労」制度をつくる法改正が行われた。外国人が技術水準を上げ、関連の試験に合格すれば、在留期間の更新に上限がなくなり、永住者への変更も視野に入る制度だ。国会の採決では、自民や公明のほか、日本維新の会、国民民主といった外国人政策の厳格化を求める政党も賛成した。

 全国知事会は今年7月、「地方における人材不足は深刻」と唱え、国に対して、地方の実情に応じた育成就労制度の設計・運用を求める提言を出している。

Q:外国人が増えると治安が悪くなる?

 日本で暮らす外国人が増えると、治安は悪化するのか。

 法務省の犯罪白書によると、日本人を含めた2023年の刑法犯の総検挙者数は18万3269人で、このうち外国人は9726人で5.3%だった。

 ただ、外国人の刑法犯の検挙者数は、最多だった05年の1万4786人から、長期的な減少傾向にある。在留外国人は05年末の201万人から約1.7倍に増えており、外国人の増加と治安悪化の関連性は見いだせない。

 警察庁は犯罪の統計をとりまとめる際、「日本における生活の本拠の有無などにより、捜査実務に違いがあると考えられる」として、外国人を在留資格によって二つのグループに分けている。

 一つ目は在日コリアン特別永住者のほか、日本の永住資格を得た永住者とその配偶者のグループで、「定着居住者」と呼ばれる。

 二つ目は「来日外国人」と呼ばれ、日本にいる外国人のうち、定着居住者と在日米軍関係者、在留資格の不明者を除いた人々を指す。日本で働き、学ぶ外国人のほか、短期の訪日旅行者も含む。

 出入国在留管理庁入管)の資料で05年と23年を比較した。

 定着居住者は計81万人から計122万人まで増えた一方、刑法犯の検挙人数は6281人から3991人まで減っていた。人口1千人あたりの検挙者は7.7人から3.3人と半分以下になっている。

 来日外国人では、最も増加幅の大きい訪日旅行者は673万人から2507万人と4倍近くに増加したが、検挙人数は8505人から5735人まで減少した。

 また、来日外国人の23年の検挙者のうち、旅行者ら「短期滞在」の在留資格は9.3%にとどまる。警察庁はかつて、短期滞在の在留資格で来日し、犯行後に出国するヒット・アンド・アウェー型の犯罪を警戒していたが、近年の訪日旅行者の急増が、治安悪化につながっているとは言えない。

 外国人犯罪をめぐっては、起訴率が日本人より低いといった指摘もネット上で繰り返し拡散してきた。

 しかし、犯罪白書では、23年に検察庁による日本人を含む全刑法犯の処理人数は19万9千人で、起訴率は36.9%だった。これに対し、在留外国人のうち「定着居住者」を除いた「来日外国人」の刑法犯の処理人数7932人の起訴率は41.1%で、日本人より高かった。

在留外国人の刑法犯は減少 来日しているのは「貧困層」ではない

 国立社会保障・人口問題研究所で移民研究に取り組む是川夕・国際関係部長に、在留外国人の現状や、今後の政策議論に必要な視点を聞きました。

Q:外国人が増えると住宅が買いづらくなる?

 日本に暮らす外国人が増えると、不動産価格はどう変わるのか。

 少子高齢化に伴う人口減にもかかわらず、日本の地価は近年、上昇幅が拡大している。国土交通省は3月の公示地価の発表で、住宅地と商業地の双方について、理由の一つに外国人関係の需要を挙げた。

 住宅地の伸びでは、北海道の富良野スキー場に近い富良野市のエリアや、長野県白馬村エリアが1、2位を占めた。白馬村は商業地もインバウンド(訪日外国人旅行者)需要に牽引(けんいん)されたとみられ、半導体産業の進出にわく北海道千歳市の3地点に次ぐ4位だった。東京や大阪、名古屋の3大都市圏も上昇した。

 不動産シンクタンク「都市未来総合研究所」の調べでは、2024年度の国内不動産の売買取引額は4.6兆円。このうち外資系法人の投資は前年度から倍増して1.4兆円に上り、東京都心の東京ガーデンテラス紀尾井町千代田区)や東急プラザ銀座(中央区)という大型案件が総額を押し上げていた。これに対し、三菱UFJ信託銀行は今年9月、東京23区の分譲マンションに限った場合、現時点では外国人による投資がもたらす影響は限定的だとするリポートを公表した。マンションの総供給量に対する25年上期の外国人取得者の割合が、都心の千代田、港、渋谷の3区を除けば、12.7%にとどまったことなどを理由に挙げている。

 経済学者として移民問題を研究する青山学院大学の友原章典教授は「海外の場合、外国人の増加で一時的に不動産価格が上昇しても、長期的には供給が増えて価格の落ち着きが見られた。だが、東京は宅地用の土地に限りがあることもあり、長期的な上昇傾向は変わらないだろう」と分析する。一方、リゾート地の地価高騰は為替次第で反転する可能性があるとみる。

 国土交通省の不動産市場整備課によると、日本では、国内の不動産の売買について、国籍による差は設けられていない。外国資本が日本の土地を買うことを規制していないのが地価高騰の一因だとして、制度を批判する声もある。複数の政党が外資による不動産投資の制限を訴えているほか、高市早苗首相も10月の所信表明演説で、「(外国人の)土地取得などのルールの在り方について検討を進める」と述べた。

 政府は安全保障面での対応を求める声の高まりを受け、21年に自衛隊の基地や原子力発電所など安保上重要な施設周辺の土地利用を規制する土地利用規制法を国会で成立させた。

 一方、同様に懸念の声が大きい水源地については、地方自治研究機構によると、12年以降21道府県で売買の事前届けなどを求める条例が施行されているが、「売買を規制する法律はない」(林野庁)という。

Q:外国人が社会保障にただ乗りしているの?

 外国人が増えると、国民健康保険の財政状況は悪化するのか。

 外国人のうち、3カ月を超えて日本に滞在し、勤務先の健康保険組合に入っていない人は、国民健康保険に加入する必要がある。

 厚生労働省によると、国保の被保険者になっている外国人は2023年度で約97万人おり、全体の4.0%。一方で、国保の総医療費約8兆9268億円(23年3月~24年2月)のうち、外国人は1240億円で全体の1.39%にとどまった。自己負担額が抑えられる高額療養費の支給額も全体の9803億円に対し、外国人は118億円で1.21%だった。数値上は、負担が給付を上回っている形だ。

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 外国人の被保険者は20~30代が約51万人と半数以上を占め、日本人に比べて若年層が多く、健康状態のよいことが背景にあるとみられている。福岡資麿厚労相(当時)も7月の閣議後会見で、こうした点を踏まえ、「外国人の(受給)割合が高いということはないと認識している」と述べていた。

 しかし、SNS上では在留外国人をめぐり、「社会保障で優遇されている」といった偽・誤情報が絶えない。一部の政党からも、外国人に対する公的健康保険の利用制限や、日本人とは別枠の保険制度の創設などを求める声が上がる。

 外国人に対する公的医療保険をめぐっては、これまでにも様々な批判があり、政府は制度変更を重ねてきた。例えば、10年には、医療を受ける目的で来日・滞在する外国人やその介助者に対し、国民健康保険の適用から除外する制度改正が行われた。また、24年にも、永住者が故意に保険料を納めなかった場合に、永住許可を取り消せる規定が設けられた。

社会保障は「外国人ファースト」か 損得で言うなら外国人は「損」

 「外国人の生存権保障ガイドブック」の共著者で、社会保障を研究する立命館大学の桜井啓太准教授に外国人と社会保障についてくわしく聞きました。

Q:インバウンドの利益ってどのくらいあるの?

 訪日外国人旅行者(インバウンド)は、日本経済にどの程度の利益をもたらしているのか。

 日本政府観光局によると、2024年の外国人旅行者は3687万人で、過去最多を記録した。今年も8月までに2838万人を数えており、過去最速のペースで伸びている。

 観光庁は、昨年の外国人旅行者の消費総額を計8兆1257億円と発表している。15年の3兆5千億円から2倍超に増え、国・地域別では旅行者数の多い中国(1兆7265億円)、台湾(1兆897億円)、韓国(9602億円)が上位を占めた。1人当たりの消費額も22.7万円と15年の約1.3倍になっている。国・地域別では英国(38.1万円)、豪州(38万円)が高かった。

 外国人旅行者の消費総額を、昨年の日本製品の輸出額と比べると、半導体などの電子部品(6.1兆円)、半導体などの製造装置(4.5兆円)、鉄鋼(4.4兆円)を上回り、最多の自動車(17.9兆円)の半分に迫る。

 政府は30年に、外国人旅行者を6千万人、消費総額を15兆円(1人当たり25万円)まで増やしたい考えだ。観光庁は「急速に成長するアジアをはじめとする世界の観光需要を取り込むことで、地域活性化、雇用機会の増大などの効果を期待できる」とする。

 一方、昨年の日本人の国内旅行者は延べ5億3995万人で、消費総額は25兆1536億円、1人当たりの消費額は4万6600円(15年は3万4千円)だった。消費総額では、国内旅行者がまだ外国人旅行者の3倍余りあり、日本人をより重視すべきだと訴える政党もある。

 ただ、日本人の国内旅行者数は15年に比べて延べ6500万人減少している。少子高齢化が進む中で、旅行者数を増やすのは容易ではないという指摘もある。

外国人受け入れにも拒否にも「対価」 偏った「ファスト解釈」に懸念

 どんな外国人政策が、日本にとって望ましいのか。著書「移民の経済学」がある青山学院大学の友原章典教授に、判断に向けたヒントを語ってもらいました。

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