[論説]農業外国人材のいま 法令順守し待遇改善を
外国人政策に関心が集まっている。治安維持に向けた規制強化や受け入れ制限などを主張する政党もあるが、人手不足が深刻化する農業現場において、外国人の力は欠かせない。求められているのは、法令に沿った適切な受け入れと待遇改善で、共生の道を探ることではないか。 【表で見る】農林業の外国人労働者は給与少なく労働時間長い 今夏の参院選以降、外国人政策が争点に浮上している。「日本人ファースト」を掲げる参政党が躍進し、各党が主要政策の一つに掲げるようになった。先の自民党総裁選でも、外国人への対応を巡り、各候補が持論を展開した。 背景には、外国人の急増がある。出入国管理庁によると、2025年6月末時点の在留外国人は395万人と過去最多を更新した。インバウンド(訪日外国人)も、政府観光局によると24年に3687万人と過去最多となり、25年もこれを上回るペースで推移している。それに伴い、急増する外国人による違法行為やトラブルが交流サイト(SNS)を通して拡散され、不安を募らせた国民が、政治家を後押ししている側面がある。 一方、農業や建設、介護、飲食業などの現場では、外国人材は貴重な戦力となっている。即戦力を受け入れる在留資格「特定技能」で滞在する外国人は増えている。同庁によると6月末で33万6196人となり、過去最多を更新。うち農業は3万5454人に上る。こうした外国人材に対し、国内では十分な労働環境を整えていない実態もある。 厚生労働省によると、24年に特定技能外国人を雇用し、立ち入り調査を受けた事業所5750カ所のうち、約8割の4395カ所で労働基準関係法令の違反があり、安全への配慮不足や割増賃金の不払いなどが多かった。 技能実習生が働く事業所でも、過去最多の8310カ所で法令違反があった。技能実習制度では、長時間労働や賃金未払いなどがたびたび問題になり、米国務省の人身売買に関する報告書でも毎年批判を受けている。外国人の違法行為が許されないのと同様に、外国人材の処遇についても、法令に反した対応があってはならない。 SNS上では、真偽不明の情報や感情に訴える強い言葉が飛び交い、不安をあおって支持につなげようとする政治家の動きも一部ではある。国際協力機構(JICA)のアフリカ・ホームタウン構想を巡っては、誤情報から関係する自治体に抗議の電話が殺到し、同構想を撤回する事態となった。冷静になって情報を見極める姿勢が必要だ。 言葉や外見、文化、習慣などの違いを理由に誰かを排除しようとする社会は、日本人にとっても、住みやすい国とは言えない。
日本農業新聞