消えないデマ、大学の責任は 自死した学生の母親が調停申し立て
上級生にデマを拡散されて部活動を強制退部させられた甲南大学2年生の男性が自殺したのは、大学が適切な対応をしなかったからだとして、男性の母親が19日、学校法人甲南学園(神戸市東灘区)に対し、約8473万円の損害賠償と謝罪を求める民事調停を神戸簡裁に申し立てた。
母親が上級生2人に対して起こした訴訟では、大阪高裁が今年3月、上級生が男性について「学園祭の売上金を横領した」とするデマを流し、名誉を毀損(きそん)したとして賠償金の支払いを命じ、判決は確定した。
確定判決によると、男性は2017年に甲南大に入学し、文化系の部活動に入った。秋に開かれた学園祭で模擬店を出し、自分が考案したドリンクを販売した。18年3月に上級生が「学園祭で模擬店の売上金を男性が横領した」とする内容を、部員のLINEグループに投稿。「領収書などの明確な証拠はないが、先輩との通話記録の中で横領を認める発言はある」などと書かれていた。
男性は横領を否定したが、強制的に退部となり、大学の学生部に相談した。
「学食にも行けない」 ウワサが拡散
さらに上級生は、大学内の文化系部活動が集まる「文化会」に強制退部になったことや、男性から入部希望があっても断って欲しい旨を伝えるなどした。他大学の同じ部活動が集まる組織のLINEグループにも、複数の理由で男性が退部になったと投稿した。男性が新年度に別の部に入部を申し込むと「悪いうわさがある」などと断られたという。男性には2カ月後、大学の仲介で上級生の1人から謝罪文が手渡されたほか、関係者にはデマを否定する趣旨の文書も配られた。
だが母親によると、デマは消えなかった。入部したい部の顧問に「君を要注意人物とみなさざるをえない」と言われたほか、学部や学籍番号を示し「ブラックリストに載っている」などとするメールが学生の間で拡散したという。男性は自宅で「学食にも行けない」「死にたい」などとこぼすようになった。男性は10月、「主な原因は名誉毀損などによる精神的ダメージ」とする遺書を残して自死した。デマが流されたのは、男性が別の上級生の立ち振る舞いを注意したことがきっかけだったとみている。
母親は21年、上級生2人を提訴した。大阪高裁判決は、神戸地裁判決に続いて名誉毀損を認めた一方、大学の関与で一定の名誉は回復されたなどとして、2人に計100万円の賠償を命じた。デマは自死するほど悪質ではないとして、因果関係は認めなかった。
母親は申立書で、息子は繰り返し大学に相談しており「大学側が早く対応していれば拡散は防げた」と指摘。すでにデマが広がっているのに、経緯を公表するなどの積極的な措置をとらなかったと主張している。さらに学内のハラスメント委員会が、今回の件をハラスメントと認定せず「第二の名誉毀損だ」と訴えている。「自分や家族が同じ目にあったとき、これで納得できる人は1人もいない」と訴える。
大学側「可能な限りの対応とった」
大学側は朝日新聞の取材に対し、今回の調停について「現時点で通知は受領しておらずお答えできない」としたうえで「相談を受けた当時から可能な限りの対応をとってきた」と説明。部への指導や名誉回復の措置をとり、男性にも最大限のケアをしてきたとしている。今後については「引き続き適切な対応を行う」としている。