【独占】ノーベル賞受賞者・大隅氏が嘆く、地方大学で「禁句」となった基礎科学の惨状
国ではなく「企業と新たな関係」を構築へ
こうした状況の中で、「国だけに頼ってはいられない」。だからこそ、大隅財団が掲げる目標の1つが「企業とアカデミアとの新しい関係構築」なのである。ただこれを掲げるに至った背景には、大隅氏の個人的な経験もあるという。 「助教授になりたてのころ『あなたの研究は面白い』と、ある醸造関係の企業から毎年研究費をもらっていました。特にプロダクトを目指すわけでもなかったのですが、醸造の現場を見ることで色々と参考になりました。後々、企業からは『先生にはずいぶん儲けさせていただきました』と言われて驚きました。聞けば、その企業の研究開発者との議論が、彼らに色々な気づきを与えていたのだそうです」(大隅氏) このように、大隅氏は「アカデミアと企業の現場の人間が交流することで、色々な視界が開けてきます」と指摘する。ただし、大隅氏は「アカデミアと企業が共同でプロダクトを研究・開発することはあり得ない」とも指摘する。 「大学の研究室は大きくても30人くらいで、平均すれば10人程度です。その大半が卒業生やマスターの学生であり、そもそも製品開発のプロがいるわけではありません。しかも、それぞれが異なるテーマで研究しているわけですから、大学で企業のプロダクトを開発することなどできませんし、やるべきではありません」(大隅氏) したがって、企業側も大学にそうした開発を期待すべきではないと大隅氏は強調する。むしろ重要なのは、大学が果たすべき役割と企業が果たすべき役割を明確に分けた上で、お互いにとってメリットとなる信頼関係を築くことだ。そこでポイントになるのが「目利き力」だと大隅氏は指摘する。 「企業側は、大学が持つ自由な発想力から自分達のビジネスのヒントを得ることを考えることが大切だと思います。そこで求められるのが、大学に対する“目利き力”です。同様に大学にも、企業に対する“目利き力”が求められます。両者がお互いに“目利き力”を養うことが大切ではないでしょうか」(大隅氏) 大隅財団が取り組んでいることも、まさにこうした関係の構築だ。かつての日本企業には、基礎科学の研究者を社内に抱える余裕があった。しかし現在は、経営の効率化や短期的な成果指向によって、その余裕がなくなっている。 大隅氏は「それはマズい、という意識が企業にもあるのではないでしょうか」と述べる。だからこそ、大隅財団が進めている新しい関係構築の取り組みに、企業側もぜひ注目していただきたい。