──叫び声がする。誰かの助けを求める声が聞こえる。周りは皆一様に地面に倒れ伏し、命の源が地面をじわじわと染めていく。俺は、見ていることしかできなかった。空が黒い。ホロウに飲み込まれただけでは無い。空を覆い尽くす化け物達が空を黒く染めていたのだ。
助けようと必死に武器を振るう兵士達が見える。既に事切れた兵士の抱き抱えた腕の中で同じ様に眠る子供もいた。悲劇があった。地獄を見た。この世の地獄を見た。それらを薙ぎ倒していく女性の姿を見た。側から見ても無理してるってわかる顔で立つ女性を。
それでも、俺はどうしても、この力を振るえなかった。
──この力を振るう資格が、俺にあるのか?
転生者は上条当麻を知っている。何を想い、何の為に戦ったのか。そして何を得て、何を失ったのか。その重みを知っている。ただたまたま同じ姿と同じ力を持っただけの俺が、それを使うのは、良いのか?
──助けて
歯が砕けんばかりに食いしばる。転生者は上条当麻には成れない。あんな風になれない。
──助け、て
だったらどうして、俺は拳を握るのだろうか。どうして逃げないのだろうか。
──助け……
どこに行こうと消えない声に、俺は走り出す。今も明らかな人知を超えた力を振るう女性に向かって。
「資格なんてどうだっていい──!」
泣きたい癖して歯を食いしばって泣くのを我慢してる奴が嫌いだ。何でも無いって顔で助けて欲しいのに声を押し殺してる奴が嫌いだ。
今日母に作ってもらった料理が好物だったとか出かける日がたまたま晴れてくれたとか、そんな些細でどうでもいい幸福が好きだ。また来年もここに来ようって言い合う姿が好きだ。取るに足りない幸福が大好きだ。だったら拳を握ったっていい。走り出していい。それが俺がこの世界に挑む理由だ!
──もし、この世界が悲劇を当然だと思ってるなら
「その幻想をぶち殺す!」
沈んでいた意識から目が覚める。なんだか昔の夢を見た気がする。ゆっくりと瞼を開けると、真っ白な天井が目に入った。体を動かそうとして、ズキリと痛む体にびっくりした。恐る恐る、ゆっくりと首を動かす。自分の体には包帯が至る所に巻かれていた。腕には管が通されて吊り下げられたパックへと繋がっていた。
「……この流れにもはや安心感すらある自分が怖い」
もはや定番と化しているこの展開に、諦め気味に持ち上げていた頭を枕へと落とす。と、その時だ。管のない空いた手に感触がある。何かと見てみればそこには、椅子に座ってベットに寄りかかり、俺の手を握ったまま眠る猫又の姿があった。
「……」
彼女を知っている。散々画面越しに彼女を見てきたのだから。すり抜けでお世話になることもあった。血の涙を流すこともあったが、それでもこうして直接見て、自分に投げかける。
──俺は、ちゃんとこの子を助けられただろうか。
邪兎屋の仲間と過ごす日々を知っている。あれよりも良い、なんて口が裂けても言えないがそれでも、俺に出来たことはあったのかな、なんて思った。
「おや、もう目が覚めたか」
ガチャリと部屋の扉が開く。黒と白が混じった髪に、顔には横断するように斜めに入った縫合跡。いつもお世話になっている先生の顔だ。
「全身の擦過傷に、肋骨が数本、両腕にヒビ……まだまだあるが聞くか?」
「医者にツラツラと病状を説明されて冷静でいられるほど心臓強く無いのでいいです……あれからどれくらい経ちました?」
「二日、だな。事の顛末はそこの彼女に聞きたまえ」
それだけ言って、先生は部屋を出て行った。猫又は会話の中で目を覚ます様子がなかったので、ロボットの様にぎこちない腕を動かし、肩を揺らす。
「ん……」
「おはよう」
「ん……?ん!?」
ガバリと顔をあげこちらを見る。尻尾はぴーんと一直線で、髪の毛も逆立っている様に見える。
「目が覚めたのか!?体は!?大丈夫なのか!?」
「そんな心配しなくてもいい、いつもの事だからな」
「良かった……」
ほっとしたのか、ぐにゃぐにゃに溶ける猫又。苦笑しながら上条も尋ねる。爆発で意識が途切れた後、どうなったのかと。
「あの後、バンダナ巻いた男が説明してくれたんだ。皆助かったんだって」
助かった人々は世間の目を触れ、何があったのかと調べたら出てくるわ出てくるわ証拠が。このスキャンダルによってヴィジョンは多額の負債を背負うこととなったらしい。しかしその社長は今も行方不明との事。事件が明るみになる前に逃げたのだろう、と言われている。治安局も多額の賞金を出して追っている。
「はー、目まぐるしいなぁ」
「本当だぞ。私も大変だったんだ」
赤牙組は元々追われている立場。今回の件で組長含め殆どが捕まったとか。その裏には情報提供者、もとい猫又がいた様で、司法取引の結果猫又は自由の身となった。だが──
「大丈夫か?」
「何がだ?これから忙しくなるんだ、明日の飯の種を探さなきゃな!」
猫又の表情は明るい。明るく、振る舞っている。だが、その奥まではそうとは限らない。
「あーあー、まだ体痛いなー、きぜつしそうだなぁ!」
「へ?」
おもむろに、突然棒読みでそんな事を言い出す上条に、猫又は目をぱちぱちさせる。
「ここからは寝言だ、言いたいだけ言え、吐きたいだけ吐け」
「……」
ピタッと、猫又の表情が固まる。口がわなわなと震えている。
「家族、だったんだ」
静かな病室でポツリと話し出す。目を閉じたまま上条は聞き入る。
「ボロボロで、幼い私を拾ってくれたんだ。腹空いてないか、ってご飯を分けてくれたんだ」
肩を震わせ、俯く猫又。
「暖かくて、幸せだったんだ」
どうしてこうなっちゃったんだろう。もっと出来ることはなかったのかな。そんな風に彼女の口から後悔が漏れ出る。それを、上条はどうしてやることもできない。彼女の積み上げてきたものに報いるものを持たないが故に。
だからせめて、今はこうしてやるのが精一杯だった。
グシャリと、頭を撫でてやる。包帯だらけでうまく動かない手でグジャグジャと。猫又は泣いた。堰を切ったように泣いた。
「──」
これを自分の力などとは思わない。思うことすら烏滸がましい。今まで頑張ってきた少女には、こうしてやる者すら居なかっただけなのだから。そうして暫く経って泣き止んだ。
「拠点に色々荷物が残ってるんだ、取ってくる」
「お、おう」
突然そんなことを言う猫又に、怪訝な表情になる上条だったが、ふっふっふと怪しい笑みで猫又は言うのだ。
「ここまでしといて、キャッチアンドリリースなんて言わせないぞー?猫は一度狙った獲物は逃さないんだぞ?」
「は?え?」
「お前の家に転がり込んでやるから覚悟しろー!」
それだけ言い残して、病室を出て行った猫又に、声をかける暇もなかった。伸ばし損ねた手が宙を切る。
「ふ、不幸だ……」
そんな嘆きの声は、誰にも届くことはなかった。
レオンはとある店へと訪れていた。所狭しとギチギチにビデオが詰められた棚が並ぶ店。random playへと。チリンチリンと、扉を開けると、来店を告げるベルの音が軽快に響く。
「お邪魔するよ」
「レオンさん!?」
突如の来店に驚くのは、店番をしていたリンだった。それもそのはず。こうして直接会うのは旧都陥落以来になる。連絡もしていなかったが、風の知らせでお互い何となく所在を知っていたが、レオンが一方的に距離を置いていたのだ。
「久しぶりだね」
「レオンさんも久しぶりだね!元気にしてた?」
旧都陥落では見たくも無いものを沢山見た。人の死体ならまだいい。苦しみながらエーテリアスへと変貌していく姿も見た。そんな中で出会ったのだから、自分と会うことはその嫌なものを思い出すかもしれない、とレオンが気を遣っていたのだ。しかし、リンもアキラも、そう弱い人間では無かったようだ。明るい調子で話しかけてくれた。
「ああ、俺も出世してね。今じゃ良いところに住んでるよ」
「そうなんだ、良かったー……レオンさん、あのまま消えちゃいそうな感じあったから」
リンは思い出す。あの逃走劇を。宙に浮く巨大なエーテリアスを相手に列車に乗りながら撃退したレオンさんの姿を。勇ましい、正義感のある治安官だった。逃げ延びた私達と別れようと言った時のレオンさんの姿を。
「そうか?あの時はまだ青かったからな」
「そうだよ、でも安心した。噂程度には耳にしてたんだけど、ちゃんとした姿が見れて」
ほっとした様子で微笑むリンに、レオンは忘れていたと、服のポケットから取り出したのはメモだ。
「おっとそうだ、これを渡すつもりで来たんだ」
「え、なになに」
受け取り、そのメモを見る。そこに書かれていたのはきっちりとした綺麗な文字で
──ここで待つ 蛇
何処かを示す座標と、一言だけ添えられたメモだ。彼らしい単直さに思わず笑う。でも、なんでこれをレオンさんが?
「彼とは親しい仲でね、何度か任務も一緒にこなした事がある。でも今は、あれだろう?」
その言葉に思い当たるのは治安局から発表されたニュースだ。その日の新聞の見出しはこうだった
『伝説の英雄、地に墜つ』
なんと、スネークはヴィジョンが起こした不祥事にまつわる実行犯であると発表があったのだ。伝説と呼ばれた彼が今では指名手配犯だ。彼をよく知る私達は大いに怒った。
「そっか、だからこうして回りくどい方法で」
「そう言う事だ。一応、俺も治安側ではあるんだが……正直なところ、今の治安局に信用はないな」
その言葉にびっくりした。元治安官だったレオンさんが、嫌悪感すら顔に浮かべそんな事を言うとは思わなかったからだ。
「君達は、先生をまだ探してるんだな?」
「……うん。あれから手掛かりなんて一つもないけど、それでも」
「だったら、君は零号ホロウと関わると良い。ちょうど今、零号ホロウ独立探索員を探してるんだ。難航してるらしくてね。君さえ良ければ推薦しておくよ」
零号ホロウ。様々な組織が規制を掛けて一般人は見ることすら叶わないホロウ。旧都陥落の全て。そこに入る事ができるなら、手掛かりがあるかもしれない。まだお兄ちゃんが居ないけど、私の判断で即断する。
「いいの?お願い、手掛かりは何でも欲しいから」
「わかった、後で連絡するよ」
はっはっはと笑いあう声が聞こえる。そこは郊外。風にさらされボロボロの外見を晒す建物の中だ。そこに居たのは、バンダナを巻いた男。スネークだ。そして、机を挟んで向き合っていたのは、軍服を身に纏い、胸に花を一輪つけた女性だ。
「これまた、随分と悪評がついたなスネーク」
「なに、今更一つついたところでこうして酒の肴になるだけさ。イゾルデ大佐」
オブシディアン大隊を率いる大佐、イゾルデだった。その後ろには、悪魔の様な二本角が生え、尻尾を生やす女性がいた。
「ふん、それもどうだか。品行方正なやつほど実は、と言うのは定番だろう」
眉を吊り上げ、腕を組む姿でこちらを見るのは彼女が率いる部隊の一つ。オボルス小隊隊長の鬼火だ。
『隊長〜、目の前でそんな事言っちゃダメであります!』
そして、そんな彼女を咎める様に尻尾から声がする。鬼火隊長をサポートする知能構造体『オルペウス』だ。
「だったら次は居ないところで言うさ」
『そう言う意味ではないのでありますぅ!』
そんなやり取りに、イゾルデ大佐は顰めた顔ですまない、とこちらに謝罪してくるが別に気にしたことはないので気にするなと言っておく。
「君は全く……すまない」
「それよりも、本当か?」
こうして人の目がつかない郊外で密会じみた事をしている理由は、イゾルデ大佐からもたらされた情報があったからだ。
「ああ。讃頌会がラマニアンホロウに現れた」
「ラマニアンホロウ……」
馬鹿な、まだ早い。とスネークは内心で考えるもその素振りを見せず顎に手を当て唸る。
「あそこは特殊だ。何かしようとするならうってつけだろう」
しかし、あそこは雲嶽山の足元だ。そう簡単に事を為せるとは思えない。何か別の理由があるはずだ。
「衛非地区には輝磁がある。もしかするとそれで何かするつもりなのかもしれない」
「そうか……情報、感謝する」
「いいさ、君との付き合いも長い。これくらい気にしないでくれ」
そこまで言って、イゾルデ大佐は口篭る。何かを言い辛いような表情だ。言葉を待つ様に見つめるスネークに、腹が決まった様で此方を見る。
「実を言えば……君たちが声を掛けてくれなかったら、私は讃頌会についていたかもしれない」
「──なっ!?イゾルデ、お前」
後ろで驚く様子を見せる鬼火。その心中を吐露するイゾルデ大佐の表情は、少し暗い。スネークは表情を変えないまま静かに聞く。
「旧都陥落。我々はあの日大きなものを失った。多くが助かったとは言え、それでも被害はあった。何故そうなったのか、それを私は探していた」
しかし、防衛軍も一枚岩では無かった。自分の力では真実を知る事ができずにいた。そして、1人では何もできなかった。そんな時、讃頌会からの勧誘、いや誘惑があった。
スネーク、フィランソロピーという組織から声が掛かったものその時だ。讃頌会とフィランソロピー。どちらが真っ当かなんて一目瞭然だ。しかし、私の中ではもはや真っ当な道では真実なんて見つけられないのではないかと思っていた節があった。
「そんな時だ。迷いに迷い、私は街中を歩いていたんだ」
歩いていると、たまたま清掃員が道路に落ちたゴミ拾いに従事している姿が目に入った。迷っていた私は、何気なく聞いてみたくなった。
どうして、ゴミを拾うのか?と。ゴミなんていくら拾ったところでまた汚れる。ゴミが落ちる。なんならズル賢い者はゴミ拾いをラッキーと捉えて敢えて捨てていくかもしれない。なのに、何故ゴミを拾うのか、と。突如の質問に、清掃員は困った様に笑ってこう言ったんだ。
「そうですね……俺は、結果だけを求めてはいないんです」
ゴミ拾いをしたところで無駄かもしれない。だけど、必ず前に進んでいる。
「結果だけを求めてたら、いつか自分の見たい真実ってやつを見失うかもしれない。大切なのは、その真実に向かおうとする意思だと思うんです」
その言葉に、ハッとした。私は、いつの間にか真実を求めていたつもりがそれだけになっていたのではないか。
「こうしてゴミ拾いだって、していればいつかずっと綺麗なままになるかもしれない。いつかはそこに辿り着けるはずなんです。向かっているのだから」
私は見失っていたのか、と思った。そして見失ったまま近道をしようとして、行き先が分からなくなっていたのではないか。そう思って、君たちに協力する事を決めた。
「そうか」
私の話を聞いた彼は一言だけ、そう言った。心なしか肩が震えている様に見えたが……。
456:固形蛇
誰だ言ったやつゥ!
457 : zzzを救いたい転生者
原作あんま知らんかったんや……言える機会あったら言いたくなるやん……
【ルール】
・自分の転生キャラになりきること(解釈違いを恐れるなかれ!)
・キャラ達の原作でやらない行動はできるだけ避けること
今回は紹介なし。紹介できる人はいるけどまだ内緒。
心は震えないし燃え尽きない。