はい(語るに落ちた人)
「……いや、強いな、ヒカリさん」
「シバリさんこそ……」
現在、ヒカリは場に残ったマンムーを含め残り2匹。シバリは5匹目のポケモンを倒され、残り1匹の状況だった。
ポケモンの数ではヒカリの方が有利ではある。だが……。
(ついに出てくるんだ。あのムクホークが……)
ずっとシバリの隣でバトルを観ていたムクホークが、遂にフィールドへと降り立った。
ヒカリのマンムーと対峙し、両者が睨み合う形になる。
「さて。気張ろうぜ、ムクホーク」
「ホーッ!!」
「気をつけてマンムー。気を抜いたら一瞬でやられちゃうからね」
「ムー……!」
マンムーの体力も万全ではない。恐らく今のマンムーではムクホークは倒せないということはヒカリにもわかっていた。
それでも、次のポケモン……ヒカリのエースに繋げるために少しでもムクホークを削る。それが今のマンムーに出来る最大限の貢献だろう。
(でも、シバリさんだってやりづらいはず……!)
ヒカリがそう思うのは当然だ。何故ならシバリにはもう後がない。それだというのに、ムクホークの決め手は"ブレイブバード"や"インファイト"など、デメリットのあるものが目立つ。
仮にそれらの技でマンムーを倒したところで、あとから万全のポケモンが出てくることを考えれば、シバリも消極的にならざるをえない。ヒカリはそう考えていた。
──だからこそ、虚を突かれてしまった。
「ムクホーク、
「うそ──────」
ヒカリは目で追うのがやっとだった。それだけムクホークのブレイブバードは疾く、そして──
(──なんて、威力……)
先程までマンムーが居たところの地面が酷いくらいに抉れていた。当然マンムーは耐えられるわけもなく、その場で戦闘不能になっていた。
「……驚きました。まさか恐れずにブレイブバードを即打ちしてくるとは思いませんでした」
「ムクホークと言ったらブレイブバードみたいなとこありますし、ついね」
「ふふっ。でもいいんですか? 私にはまだエースが残ってますし、ブレイブバードで傷ついたムクホーク1匹じゃ厳しいかもしれな……へ?」
ヒカリがフィールドに目を向けると、そこにはめちゃくちゃピンピンしたムクホークが居た。
(あ、あれだけの威力のブレイブバードを打ってまだそんなに元気なの!? あまりにもタフすぎない!?)
流石はエースポケモンと言うべきだろうか、シバリのムクホークはブレイブバードを打ったというのに、まるで何事もなかったかのように涼しい顔をしていた。
(削れてはいるはず……。でも、全然そんな風には見えない。あのムクホーク、どこにそんな体力が? こっそり"はねやすめ"で傷を回復したとか……?)
いや、そんなことをしていたら見逃すわけがない。と、ヒカリはひとり首を横に振った。
一体自分は何を見逃している? あのムクホークのカラクリは一体──。
(……あ)
ムクホークを凝視して、ヒカリは気付いてしまった。あのポケモンの身体に、かすり傷一つ付いていないということに。
もしこれが、技やアイテムの回復によるものではないのだとしたら──
(……まさか、
むちゃくちゃだ。今まで出してきた5匹のポケモンも凄かったが、一段抜けてこのムクホークが一番とんでもない。
加えて、ブレイブバードの威力自体はタネもしかけもなく、しっかりムクホークのフィジカルによって引き出されているということを忘れてはならない。
一体どうやって、あのムクホークは鍛えられたのだろうか。
シバリについて知りたいと思う気持ちが、ヒカリの中から溢れ出してくる。
「……ヒカリちゃん? その、次のポケモンを出してほしいんだけど……」
「あっ、すみません!」
いけないいけない。と、ヒカリは気持ちを正す。
今はポケモンバトルの最中だ。この相手にそれ以外のことを考えている余地はない。
「……おいで、久しぶりの出番よ」
「エンペェ!!」
エンペルト。ヒカリが初めて手にしたポケモンで、彼女の
彼女の手持ちの中でも特に強いエンペルトを、ヒカリはチャンピオンになってからは意図的に使わないようにしていた。
理由は簡単。すぐに終わってしまうからだ。他のポケモンと違って、このエンペルトは強すぎて手加減が出来ない。
だから、ポケモンバトルでエンペルトを出せる日はもう来ないと思っていた。それを今、目の前の少年が覆してくれている。
(……凄い。エンペルトを出したはずなのに、心の何処かで『負けるんじゃないか』って思ってる)
勝って当然。万一にも負けることはない。チャンピオンになってからそんなポケモンバトルばかりしていたヒカリにとって、この焦燥感はとても懐かしいものだった。
(シロナさんもこんな気持ちだったのかな)
ヒカリが思い出すのは、シロナとチャンピオンの座をかけて戦った時のこと。
あのときはお互い本気でぶつかって、ギリギリのバトルをして──。
「ふふ、ふふふふふ……」
「……えっと、ヒカリ、さん?」
シロナと比べて、ヒカリはチャンピオンになってからまだそこまでの歴はない。だが、それでもあのときチャンピオンの座をかけて戦ったときのシロナの気持ちが、ヒカリにも理解できていた。
だからだろうか。ヒカリの口からは不思議と、あのときのシロナと同じ言葉が出てきてしまった。
「
「!」
聞き覚えのある言葉に、シロナはピクリと反応した。それはまさしく、あのときの──。
「まだまだ! こんなに楽しい勝負、簡単に終わらせないんだから!」
ああそうだ。こんなバトル、まだ終わらせてたまるか。
こんなバトルこそ、
「……なぁムクホーク。あのエンペルトやばくない?」
「ホー?」
「いや別に怖気づいてないから。それにお前だってインファイトで抜群とれるし。……見せてやろうぜ、お前の力」
「ホー!!」
間もなく、互いのエースポケモンがぶつかり合う。
勝敗については詳しく語りはしないが、どちらが勝ってもおかしくない。そんな勝負が繰り広げられたということだけはここに記しておくことにする。
────────────────────────
「あーーーーー!! 楽しかった!!」
「私も! 楽しかったです!!」
やばい。何も気にせずにやるポケモンバトルがこんなに楽しいものだとは思わなかった。
毎日はアレだけど、たまにポケモンバトルやるのは全然ありだな。うん。
「ていうかなんですかシバリさんのポケモン達! 特にムクホークのブレバ無反動とかズルじゃないですか!! 何をどうしたらあんなムクホークが育つんですか!?」
「それを全部パッションでどうにかしてきたヒカリさんが言えることではないんじゃないすかね……」
それにムクホークはまだマシな方だ。
ラズのエレキブルはワイルドボルトを無反動で打った挙句に"でんきエンジン"で加速するからな。
曰く『知ってるシバリ? エレキブルはでんきエンジンで電気技が効かないのよ!!』とのことだったが、自傷技は別にそういうカテゴリーじゃないだろ。マッチポンプやんけ。
挙句の果てには『でんきエンジンを効率化したわ!』とか言って、初発のワイルドボルトで
と、そんなエレキブルを見せられてしまって、つい俺はムクホークに無茶振りを要求してしまったのだ。
『なあムクホーク。お前もブレイブバードを無反動で打てたりしないか?』
『ホァ!?』
ごめんて。まさか解雇通知出されたケンホロウみたいな声出すとは思わんやん。
あのときのムクホークの声と表情は今でも覚えている。多分一生忘れることはないだろう。
「あ、あの……ところでシバリさん」
「はい?」
「そ、その。お互い敬語、やめませんか? ほら、ポケモンバトルもしたことですし、と、友達ってことで……」
「あ、ああ。ヒカリさんが良いなら……」
「やったぁ! あ、それと私には『さん』付けも禁止で! シバリさんのが年上だし!」
「えーっと……ヒカリ?」
「あ、死んでも良いかも」
「ヒカリさん!?」
「なんで戻したの!?」
いやいきなりそんなこと言われたらびっくりしちゃうじゃん。思わずさっきまでの呼び方に戻っちゃったよ。
「ふふ……楽しそうね。シバリくん、もしよければまたヒカリちゃんとバトルしてあげて頂戴?」
「あ、シロナさん。……はい。俺でよければ、是非」
「大丈夫ですよシロナさん! シバリさんのジム巡りが終わったらまたすぐ戦えるじゃないですか!」
「そうね。そのときはよろしくね、シバリくん」
「……えっと」
なんだろう。何故か凄く言い出しづらい。
だけどちゃんと言わないとな。だって俺、観光に来ただけだし……。
「あの、ヒカリ」
「なーにっ?」
「俺、ジム巡りする予定ないんだけど……」
「あ、そうだったんだ! へー!」
「今なんて?」
そう言ったヒカリの目にはハイライトがなかった。
・ムクホーク
無反動でブレバが打てるようになるまで特訓させられた鳥。
・エレキブル
無反動でワイルドボルトして加速するバカ
・ヒカリ
シバリなら『ジム巡り→チャンピオンロード→ポケモンリーグ』をトントン拍子で上がってくるだろうから、シバリとまたすぐポケモンバトルが出来ると思っていた。ジム巡りしないのは話が違う。
・シロナ
完全にジム巡りすると思って安心してたらこの始末。
このままだとヒカリのメンタルがヤバくなりそうで辛い。
・解雇通知出されたケンホロウ
サトシ「ケンホロウにします!」
ケンホロウ「ハァ!?」
のアレ