「気雲流?」
「うん、ここ<
長い長い階段。
それをゆっくりと、いや本当にゆっくりと頑張りながら登っている。
MeeKingからセト店長の出してくれた車に乗って少し。
町並みを抜けていき、なだらかな坂を昇ることちょっとで辿り着いたのがこの見上げるほど高い階段だった。
「ぜぇーぜぇー」
登り始めてもうどれぐらい経ったんだろう。
私は足が痛い、疲れた。
なのにサレンさんはスタスタと、セト店長もスタスタと登っていて。
「こんなところにあったんだ」
なんで私だけ遅いのか、いや、二人がおかしいんじゃないだろうか。
「はぁ、はぁ……有名なの、そこぉはぁはぁ」
「ユウキちゃん、大丈夫?」
「なんで店長はぁ……平気なの……ハァ」
おかしい。
色々超人なサレンさんはともかく、セト店長はムチムチボインなだけの一般人のはずなのに。
「これでも重いものを持ったり運ぶ力仕事だからねー、それなりの運動もしてるよ」
「ダイエットとかいって走ってるし」
「色々食べたりするとねえ相応に走らないとすぐお尻がでかくなっちゃって……ってそれナイショって約束したよねサレンちゃん!?」
「勝手に自爆したのを言われても困る」
憎しみを覚える。
いや、いいよ? 別に私まだ中学上がりたてだし、成長期はこれからだし、ぐんぐん伸びてバインバインになるからね。
サレンさんなんて私より三年も上なのにすらっとそんなデカくなくてちょっと凄い美人なだけで……チクショゥ。
≪私も先の姿になればきっとデカくなるんだよねぇ≫
「ちょっと先ぽかった
≪なんてことをいうの、マスター≫
事実だよ。
でもアリーシャとか精霊って成長するのかな。
カードが変わったら若返っちゃったし、どういうことなんだろう。
カードごとに時間というか時代とかが違う、とか? そんなのありえるのかな。
「気雲流は古流」
「えっ?」
唐突なサレンさんからの言葉にちょっと首を傾げる。
「歴史のある流派ってこと。ユウキちゃんも、カード塾とかカード道場って知ってるよね」
「はい。たまに見かける塾とかだよね?」
カード塾。
それは文字通りカード……Lifeの技術、デッキの組み立てとかプレイとかを教わる塾だ。
私の学校とかはファイトの先進校とかじゃないから詳しく知らないけど、この間倒した先輩とか、ファイトの強い学校に入学する人は塾に通ってるらしい。
どういうことを教えているのかっていうと、塾によって差があるらしいけど。
【
【
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確かこの7つのテーマを掲げている塾が多かったと思う。
この世のテーマ、デッキは全てこの七色……“
あとストラちゃんから聞いたのだとメタ……
あとはカードに対する知識、どういう時にカードを出すとか、有名なカードに対する暗記だとか、色々実践的な教育をしてくれるらしくて。
エレウシスっていう有名なところだと入学試験でもその知識、カード効果のテキスト問題とか、昔あった有名なファイトとかのシチュエーションとかでのやり取りに対する問題とか、そういうのが必要なんだって。
だからそこを入学するための勉強に塾がいるんだとか。
まあ頭がいいとか、勉強をしたい人のための塾で間違いないと思う。
で、道場だけど。
「道場って確か格闘技とか教えてたりするんでしたっけ」
「そう。よくありふれてるのが実践型ファイターの育成ってお題目の施設」
サレンさんの口調は少しトゲがあった。
なにかあったのかな。
「道場系の大半は、経営不振でやっていけない施設が門下生を増やすための苦肉のインチキ」
「えっ」
「殆どの新興道場はまともにカードなんて教えない。ファイトの強さじゃなくて、共鳴率を上げるテクニックだなんていってドローの素振りをさせたり。デッキを持ち歩けば愛着から引きが強くなるとか、ドローで滝を斬れとかそんなあんまり意味のない練習ばかりさせる。無駄骨だった、ぷんすこした」
ぷんすこって。
サレンさん、表情変わらないのに結構ぶりっこみたいなこと言い出すよね。
「あんなのに通うぐらいなら普通にマーシャルアーツとか、キックボクシングのトレーニング受けて、ファイトはファイトで勉強したほうが遥かにいい」
サレンさん……
なんかひどい目にあったことがあるみたい。
「あはは、まあ古くからやってるところはまだわかるところもあるんだけどね」
「うん。気雲流はその点、かなりガチ」
「そうなの? どんなこと教えてるんだろ」
「気雲流が教えているのは殆どが身を守る術だよ。走り方、身の守り方、凶器や暴力から防いで捌く術と身体操作術」
「……? 護身術ってやつなの?」
セト店長の説明に、いまいちピンとこない。
私の言葉に、セト店長は困ったような笑顔で。
「うん、分類としてはそうなるかな。雲のように掴ませず、雲のように流れるように生きる術を教えるっていってね。一般的には健康体操とか、護身術とかで広まってるよ」
「はえ……ん?」
≪一般的?≫
「うん。でも本質は超実戦的なファイターの指導をしてる」
「具体的に言うと、学んでるやつはボードファイトでめちゃくちゃ強い」
「どういうこと?」
なんか凄いデッキとか、モブさんみたいなファイト馬鹿とかなんだろうか。
「ざっくりいうと
「??」
「護身術、受け身とか、ガードとかが優れてるのにはそれが強いんだよ。気雲流の達人なら車で撥ねられてもかすり傷で凌げる人がいるからね」
「なにそれ」≪人間ってそんな頑丈だっけ?≫
「古流の、ファイターが納めてる武術とかは大体それを重視してるね。攻撃まで大体省いてるのは気雲流ぐらいだけど」
「それで勝てるの?」
「どっちかというと倒しにくい」
倒しにくい?
「ミスをしないってこと」
一つ上の段差からサレンさんは振り返って行った。
「ん。落ち着いてファイト出来る奴は強い、十分に実力を出すには体力に余裕があって、焦らず、カードをこぼさない奴は負けない。武器術とかはしっかりやってるから攻撃はそれ任せで崩しにくいから足止めされるし」
「そうだね。じっくりと腰を据えて応じられればミスが減るよ、平常心が大事。あと体力もね、疲れてるとどうしても余裕がなくなっちゃうから」
「なるほど~」
そういわれるとなんとなくわかった。
つまり実力をしっかり出せるようになろうぜ! というのがここの道場の教えなんだろうな。
……地味だけど、これって大事なんじゃないかな。
地味だけど。
それとサレンさんのなんか違くない?
「まあ
負けないだけだと勝てない?
「それと他流ファイトを歓迎してるのが強い」
「他流ファイト?」
「そう、道場内部だけじゃなくて外とも積極的にファイトをしてる。それでノウハウや経験を積ませてる、Lifeのファイトはなんといっても数を重ねてその経験をしっかり覚えることが強くなる秘訣。それを大々的にやってるところは珍しい。普通は閉鎖的に、手の内を隠す方針をやってる」
「たしかに、たくさんファイトしたほうが強くなれるよね……ってサレンさん結構辛辣だよね」
「事実だし」
でもまあMeeKingとかでみんなとファイトしてると学べることも多い。
あと感想戦……部活だとあまりしてなかった子も多いんだけど、するようにしていったらみんな上達が早くなった。
ストラちゃんとも楽しくやれてるし、レンタルデッキ同士だとたまに追い詰められて成長凄いんだよなぁ。
「師範の方針だよ。気門道場は、ここ以外にも全国に幾つかあるんだけどどこも他流の、繋がりのある道場同士やファイターの出稽古も活発的にやってるからね」
「そうなんだ」
「あまりテレビとか広告を打ってないから知られてないんだけどね。88星座、それとその下の番付けにも何人か気門関係者がいるって聞いたことがあるかなぁ」
ふむふむ、結果をだしてるんだなあ。
「それと例の秘蔵っ子がいるはず」
「……秘蔵っ子?」
「うん。気雲流は繋がりがあるところだとお抱えのファイターもやってるんだけど、それである噂がある」
「噂?」
「凄腕のファイターを抱え込んでるという噂」
?
「強いファイターがいるなんて、強いところなら普通なんじゃ?」
「気雲流は、ぶつかるところの
「…………?」
よく意味がわからなかった。
精通してるって。
「その気雲流のファイターさんが、色んなデッキと戦ってるベテランとか勉強家ってこと?」
「違う。時間があると、
トンっと階段を登りながら、サレンさんは上を見上げた。
「それでお抱えの傭兵ファイターから尻込みされて代理ファイトを受けたら、まあまあ強かったぐらいでバレてなかった」
「なにしてるのサレンちゃん」
「傭兵。で、興味あってちょっと調べたらファイター自身が強いっていうより動きに慣れてるみたいだ」
慣れてる?
「多分、同じか似たデッキを入手してそれ相手のメタをやり込ませてる」
ん?
んー?
「……それって普通じゃないの?」
モブさんとかサレンさんに頼めばやってくれるじゃん。
この間のサレンさんのデッキとか動きよくわからんなかったから、同じようなデッキ作って教えてくれたし。
なんだったらたまに私のデッキを、私より強く使って使って……チクショー。
でもそれでかっこよく勝たれるとさすが私のデッキってなるんだよねぇ。
「ユウキちゃん、あまり普通じゃないんだよ。いや、ボクもちょっと麻痺してるけど」
「私は何でも使えるけど、普通は向いてないデッキを自由自在に扱うなんて出来ない。わざわざ戦う相手と同じテーマ、デッキの使い手を探して仮想敵にするなんて一回や二回ならともかくずっと続けるのは現実的じゃない」
「だからそれが出来る個人がいると? “メビウス”さんじゃあるまいし、多分適正がバラバラで集めたチームとかを抱えていると思うけど」
「それならもっと情報が漏れてるはず。だからいて一人、あるいは二人だと思う」
「なるほど……」
色々あるんだなぁ。
サレンさんとセト店長の会話を聞いて思う。
私のLifeはMeeKingの皆と、サレンさんや部活のみんなぐらいしかわかってないから新鮮な気持ちになる。
そういえば今の私ってどれぐらい強いんだろう?
始めたばかりと比べたらそこそこ強くなったつもりだけど、よくわかんないな。
メガバベルの社長とかはなんとか勝ったけどサレンさんと二人がかりだったし。
セト店長は昔は凄いプロだったっていうし、サレンさんはサレンさんだし、二人にたまに勝ったり出来てるから結構強い?
でもモブさんには負け越してるしなあ、うーん。
そこらへんの近所の人よりは多分強い!
「あと色々とボクが教わってた時は触りぐらいだったんだけど……共鳴力を高めるトレーニングもあったよ」
なんて考えていると聞き捨てならない言葉が出た。
「なに?」
「共鳴力を? え、どうやって?」
強く出来る方法あるの?
デッキを使い込むとかぐらいしか思いつかないけど。
「共鳴力なんてデッキやカードを使い込むしかないはず。要は意思伝達なんだから」
「いや、その根幹。
「生命力……?」
「そう、体力とか生きる意思とか精力とか、まあそう大雑把なイメージであってるんだけど。ボクたちのファイトで使うライフデッキ、それを支えているのは何だと思う?」
「土地」
「土地」
「うん、ゲームとしては正解。でもその上のファイト――闇のファイト、それとイグニッションファイトにおいて重要なのが生命力。つまりライフデッキの……あ、門だよ」
「お、おわった……」
なんか気になるところで、いつの間にか階段が終わった。
そして、あったのは大きな門だった。
立派な分厚い木の枠? と鉄で出来たお城とかにありそうな門に、【気雲転命】って書かれた看板が飾られてる。
その看板の上に飾られているのは大きな鬼の面だった。こわい。
「ここ、ですか」
「そう。ここが気門道場、その本殿」
大きな門だけど、どうするんだろう。
さすがにあんな大きな門、私たちだけで開けられないよね。
いや、サレンさんならピューってワイヤー使って登れそう。忍者みたいに、大体サレンさん忍者だし。
そう思ってるとセト店長がとことこと歩き出して、門の脇で――ビー。
ビー?
「すみませーん。先程、連絡をいれた
「インターホンあるんだ」
「ユウキ、今は現代。あとあそこに監視カメラもついてる」
「わぁ、ハイテクだぁ」
セト店長もカメラに気づいて、小さく手を振ってる。
あ、なんか喋ってる。
そっかインターホンだもんね。
私たちも近づいて門を見上げる。
「ここから門が開くのかな、こう自動ドアみたいにごごごごごって」
ガコン、と音が鳴った。
切れ目も見えなかった門の脇、私たちの真横から音がした。
軋みを開けて、切れ目が入って開き出す。
回転ドアみたいに一部だけが回って開くようだった。
「人力で開くの??」
「ユウキ。これは古めかしい門だよ、機械で開くわけがない」
「わぁ、ちょっとパンチしたい」
何故に?
と困惑するサレンさんの脇腹をペチペチ八つ当たりで叩いた。
いやこれは正当な怒りだから八つ当たりじゃない。
「どうもぉ」
開かれた扉から出てきたのは背の高いひ――えっ。
「え゛」
私は見上げた。
それは、サレンさんよりセト店長よりも大きい女性だった。
鮮やかな青緑色の長い髪をサイドに
そんな女性の顔を、私は見れなかった。
物理的に見えなかった。
だって――隠れてる。
突き出てるおっぱいで顔が見えない。
まるで小さく前ならえの姿勢ぐらいに突き出てる影で、頑張って上を見てる私の視線を遮りやがってた。
影が落ちてた。
砲弾みたいな形をしてた。
「えーとぉ?」
それが動いた。
むにゅんと顔の上に乗せられた。
柔らかかった……詰めてない。
「ぁー、ごめんなさーい!」
慌てて下げられた。
数歩、距離が取れてようやく顔が見えた。
柔らかそうな垂れ目の、気弱そうな女性……女性だよね? 顔がなんかこう、あまり大人っぽくないけど。
いやこんなでかいのなら年上のお姉さんだよね?!
「貴女は?」
「ぁ、地柩さんですねぇ。
「人刹師範の?」
「はいー、ししょーの娘ですー」
「はぁ……娘さん。それはまた随分と若いんだねぇ」
「はいー。今年中三になりましたー」
「えっ?」
セト店長が声を上げた。
「え」
サレンさんが声を上げた。
「あ゛?」
私は……理解が出来なかった。
え? この大きさで?
え? そのおっぱいで?
たった二つ上なだけなの? え?
「えー?」
首を傾げるその女性――女の子の動きに揺れるもので、私は――凹んだ。
なんでぇ。
地より昇る魂があるように、天から地に落ちる魄がある
これに差を付けるのは人の価値のみである
――気雲転命