ちょっと長くなりすぎましたので分割
次の話は早めに投稿出来るように頑張ります
【今回の話はアニメ未放送シーンです】
【挿絵表示】
Chama様より素晴らしいFAを頂きました!
かっこよすぎるエニグマ初披露シーンです!
【挿絵表示】
ヨン様より、ハッピーハロウィン!
可愛らしいユウキちゃんとサレンさんのFAをいただきました~!
本当に本当にいつもありがとうございます!
息を吸う。
腕が下がる。
息を吐く。
腕を上げ、る。
「身体がブレとる、もっと重心を固定せよ」
息を吸う。
上げた足の爪先までを意識して、背筋を伸ばす。
「骨を意識しろ、身体の立ちふるまいは肉ではなく骨格の向きになる。骨が身体を支える、重みを支える、肉はそれを調整するだけだ」
とん、とん、と足裏からの重みが増す。
握る指が震える。
しんどいからやめてほしい、だが言われたとおりにほんの数ミリだけ傾きを直す。
なんで最低でも数十キロはあるだろう重さを感じないのか、ファンタジーである。
いや、そもそもといえば。
「なんで、僕は護身術コースでこんな鍛錬をさせられてるんだろうなあ」
上下逆さの倒立腕立て伏せをしながら、僕は人生にぼやきを発した。
あぁ、地面が上に見える。
空が足元だ。
吸い込まれそうだな。今日もいい天気だ。
「雑念が出とるぞ」
トントンと負荷かけるのやめろ!
ああくそ、足の上に乗ってるジジイめ、まじキツイから降りてくれないかなぁ!
息を吐きながら、身体を持ち上げる。
ひたすらに苦しい上下の負荷運動。
しかも布切れを巻き付けただけの鉄の棒を支えに、肩から手、腕を稼働させる。
それも足上に乗っている重りを落とさずにだ。
めちゃくちゃである。
「雑念じゃなくて愚痴なんですけど、なんで僕はこんな鍛錬をん年間もやってるんですかねぇ」
そんな鍛錬をさせられてもはや数カ月、すっかり身体が慣れてしまっているのが怖い。
「いまさらすぎんか?」
「人生を振り返るのにいつだって遅いことはないんですよ」
遠く、頭上に見える同じ道着を付けて鍛錬を励む人々を見ながら、僕は人生を振り返った。
始まりは小学生の頃だっただろうか。
前世の記憶がぴょーんと蘇った頃である。
うん、ぴょーんと蘇った。布団蹴飛ばして起きたし。
今思うと小学生で蘇ったのはそこそこ脳みそが発達したんだろう。
思い出すという脳の機能が強くなったのか、それともそれまで深く考えてなかっただけなのか、まあどっちでもいい。
記憶の整理がついたその時の
なにを? 世界にだ。
カードゲームが社会を支配してる世界ってどう考えても危険だろ。
想起する――カードゲームアニメの暴力的バイオレンス描写。
想起する――大体命がけになる闇のゲーム。
想起する――ファンタジー世界に飛ばされて怪物に追い回されたり、現地の住人と頑張ってコミュする学園漂流記。
想起する――負けたほうが死ぬ、そんな覚悟もヌルい激突は許されないぜ!
想起する――案件カドゲがめんどくさいので、新しく前フリなしで出てきたカードで勝負するぜ!
想起する――これに参加するやつらは八割ぐらいなんか不幸せになってるよ。
想起する――爆発オチなんてサイテー!
鍛えねば死ぬ(確信)
カードゲームが社会を支配するのに必要なデッキとプレイングと運命力もあるが、どんな
どうせ負けたり、勝っても殴られたりするんだ、俺は詳しいんだ。
というわけで近所で通えそうな道場を探したのだ。
といってもマジで格闘技の達人になりたいわけじゃない。
精々悪漢に襲われても即死させられずに、逃げ切れるぐらいの護身術でも身につけばいいな。
そんな気持ちで親に頼んで、小学生でも通える場所にあった道場がここだった。
そこは親からも口コミで評判がいいところだった。
曰く、無闇矢鱈暴力を振るおうとする奴は入れないし、多少性格が悪かったやつもしっかり更正したんだとか。
そこは距離も近かった。
自転車を走らせて数十分、ギコギコするぐらいでなんとかいける場所がよかった。くそ長い階段がプラスされるけど。
そしてなによりも料金が安かった。
本格的な入門とかするならそれなりの月謝がかかるけど、護身術とか、健康体操コースとかで割安のルートがあった。
そうそうそういうぐらいのヌルい、まあ身体を鍛えるのにはちょうどいいんじゃないですかね?
ぶっちゃけ備えるだけで無駄になるんだったら越したことはないしぃ。
そんなつもりだったのに。
「なんで週一で通ってるだけなのに、こんな厳しい鍛錬を受けているのか」
「お? 内弟子になるつもりになったか」
「しないんだが??」
言い返しながら、太陽がようやく真上まで来たので足を曲げる。
同時に足から重みが消えて、揺れそうになるのを必死で堪える。
これでぐらついたらまたやり直しになるからきつい、最後まで手を抜けない。
「ふぅぅ……きっつぅ」
「まあまあじゃな。薬湯を飲んだら次じゃ」
「うっす、師範」
脱いだままの上半身から吹き出した汗をタオルで拭き取ったら、ビンに入った薬湯を飲む。
色は緑で、味は……カスだ。
中学ぐらいから毎度鍛錬の度に飲まされてるが、味覚がしばらく死ぬぐらいに苦いし、不味い。
水分取りに用意してる水筒の水を飲んでも追撃のダメージを喰らう。
あまりにも不味くて飲みたくないんだが、これを飲まないと心肺への負担がでかくなりすぎるやら、回復が遅くなるやら色々言われているので我慢して飲んでる。
いや飲んでしばらくするとびっくりするぐらい力が出てくるのだ。
これ本当に合法品か? やばい成分入ってんじゃないだろうかと思うが、聞いても笑顔で流される。
そのうち警察にお世話になるんじゃねえだろうか。
いやでもなんかたまに警察の偉い人っぽい人が挨拶に来たりしてるから無理じゃないだろうか。
体に感じる疲労からの現実逃避しつつも、次は用意されている手のひらサイズの鉄球を掴み取る。
いわゆる砲丸だ。
砲丸投げとかに使われるものを片手に一つずつ、両手に握って歩き出す。
幾度となく教えられて、矯正された型に従って手足を動かし、グルングルンと回るように、流すように演舞を続ける。
その間にも両手に握った砲丸は落とさないように気をつけないといけない。
足を潰さないように鉄板の入った靴は足首を動かせるようにしつつも強度が高い、この道場の指定された装備だ。
人間の体は鍛えても限界がある。
大事なのはどう力を使うか、引き出すか、その操作力を磨くのだとかうんぬん。
最初は切り出された丸太の山から、次は鉄の棒の山に、今は尖った岩の上にと、もっと先になると針の山の上に立たされるという。
例え鉄板の靴底だろうが、重さを考えると貫くんじゃね? と思うがしっかりと重心と流れが出来ていれば大丈夫だとかいうが、あまり信じていない。そこまでの達人に成ってる頃には人間をやめてるだろう。
「フツオよ」
「なんですかぁ」
グルングルンと動作、動作、動作。
つま先から指先まで意識しながら動き続けろとか地味にしんどいことも慣れた今なら普通に出来る。
だから、横のジジイの言葉にもそのまま返事をして。
「そろそろ童貞は捨てたか?」
「ぶふぉっ!」
吹き出した。
思わず砲丸を落としかけて慌てて掴むぅ――指がぁ!!
「ほっほっほ、これぐらいで乱れるとは鍛錬が足らんな」
「鍛錬の問題じゃねえだろ、ジジイ!」
なんとか滑り落とさずに床に置いて、振り返る。
そこにいるのは小柄な禿げたサングラスをかけた老人だ。
長く真っ白に染まった髭に、年がら年中寒くても暑くても着てる作務衣姿。
その上でピンと針金どころか鉄棒でも入っているように背筋が伸びていて、片足で立っている。
刹師範と皆から呼ばれるここ【気雲流】の師範だ。
というかこの道場の最高責任者であり、なんでか小学生の頃から目をつけられている。
なんでだろうね。
――お前は放置しておくと死にそうじゃ、とか言われるし。
「ジジイとはなんじゃ、ジジイとは。師じゃぞ~」
「師匠だからって関係あるか! いきなりなにをほざいてやがる!?」
「なんじゃまだ童貞か? わしが、お前ぐらいの年ならもう毎日のようにパンパン、猛りを晴らしてたもんじゃがなぁ」
「時代が違げえよ、エロジジイ!」
正式な妻が一人、愛人が七人。
子供においては20人を超えて、孫の数に関してはその倍以上はいるという生粋のエロジジイである。
しかも年末年始の挨拶においては普通に顔合わせをしていて、合意で関係を続けているというやべえやつだ。
その禿げ頭、男性ホルモン多すぎて抜けたんだろ。
「やれやれ、わかっておらんな。女は人生の彩り、地があって天があるように、女がいて男がおる。陰と陽、白と黒、死と生、乾と湿、柔と硬、双極のものが立ち並ぶからこそ世のバランスが取れて、そこに満たされるものがある」
くるくると人差し指を回して、刹師範の指がうずまく螺旋を描く。
「大事なのは混じること。認め、見つめ、受け入れ、与えることじゃ。さもなくば与えた以上のものを得られん」
「親切は人の為ならずってことでしょう」
「いいや? 単純に気持ちがよい」
ニカっと虫歯一つない白い歯で嗤う。
「人生には女と飯と酒がつきものじゃ。お前もいつまでもしけた顔をしておらんで、もっと遊ぶことを覚えるんじゃな」
「未成年に酒と不純行為を進めないでくれます?」
「バレなければいいんじゃよ、バレなければのぉ。人生楽あっての苦ありじゃ、楽しむことを知らねばこの苦海では長生き出来んぞ」
「はいはい」
気雲流という雲の入った名前だけあって、このジジイの言葉は煙を巻いたような言葉ばかりだ。
とはいえ、たまーにためになる蘊蓄もあるし、武芸の指導に関しては一切間違えたことは言わない。
言葉通りにセクハラジジイだが、それを許してくれるような相手にしかやらない愛嬌もあるのだ。
だから多くの門弟たちには慕われてるジジイである。
そんなジジイに関わったせいで、僕の人生も結構歪んでしまった気がする。
「あ、そうだ。師範」
「なんじゃ? 套路ならあと18往復じゃ」
「それはやりますが、ちょっと聞きたいことがありまして」
「ふむ?」
ここ、<
つまりカード技術を一応教える道場である。
まあ方針が殆ど武芸というか、健康体操レベルなのが大半だし、護身術コースなんて僕以外は身の守り方とか逃げ方とかそういうので、本格的なのは入門してる門下生たちだけである。
それもデッキタイプは幾つか基本的なもの、適正に合わせたものを複数種類用意して与えているのだが、そこからどう調整するのか、どう使うのかは個人次第。
カードを入れ替えたり、戦い方が違いすぎて同じものから始まったのに別物になってる人も多いし、僕もたまーにファイトに付き合ってて強い人は強いんだが、そこまでガチガチというわけでもない。
テーブルメインだし、師範に言われて使えと言われたデッキで勝ったり勝ったり負けたりしてるだけだしな。
今は引退してるけど昔はプロの世界ランカーだったらしい刹師範も、身内にはLifeとかやらせているらしいが、あまり熱心に教えているところはない。
「闇のカードって知ってます?」
とはいえ、そういうところの師範だ。
なにか知っているかと思って訪ねて……ぎょっとした。
明らかに不機嫌そうな顔に変わっていた。
「フツオ、貴様……使ったのか?」
両足が地面に降りている。
それを見てから、息を吸って、答えた。
「そんなわけないでしょ。ちょっと戦って倒したことがありまして」
「ならよし」
空気が軽くなった。
これ下手したらぶっ殺されてたな。
「……ん? いやまて、倒した?」
「倒しました」
「ふむ。先手を打って殴り倒したか、それならまあ正し」
「いや普通にファイトで。闇の領域とかなんか出てましたけど、普通にやれましたよ」
「……おまえなぁ」
何故か上を見ている。
そっちには太陽しかありませんよ、サングラスつけてても目にダメージくるよ師範。
「もしかしなくても……普通じゃない?」
「普通だったらわしが天を仰ぐわけないじゃろが」
それもそう。
「よっくもまあ生きているなあ。何度やった?」
「3度。1回だけなのじゃないのわかりました?」
「お前のことだから1回ぐらいならたまたま変なのに遭ったなと思って引きずらんだろ。言い出すとしたら今後もあり得ると思ってだ、が……3回もか。もっと早く言わんかい」
「いやあ週一だから言おう言おうと思って忘れてて」
「おまえなぁ」
元副部長の件もあってまた何かあるかもしれない。
そう考えての相談だったんが、見抜かれてしまった。
「まあお前ならそこらの闇ファイターぐらいならひねり潰せるだろう。
「テーブルでかつ、自分のデッキじゃない前提でしょ。師範」
僕が師範に勝ててるというのは、師範の使っている愛用のデッキじゃないからだ。
師範が愛用していたデッキはもう別の奴に継承された。
今、師範が使っているのは新しく組まれた別のデッキで、師範が悪戦苦闘しながら組んでいるものだ。
なんで悪戦苦闘しているのか知っているかというと。
「わしもちゃんと考えて今組んでるんじゃぞ?? あとで勝負じゃ!」
「処理間違えないように気をつけましょうね、師範」
「ぐぬぬ……最近のカードはテキストが長くて嫌いじゃ。ボードじゃないから共鳴しにくいしの」
「感覚任せだから上達しないんですよ」
「うるさいのぉ」
「忠言は多少痛いぐらいでちょうどいいとか言ってませんでした?」
「わかっとるわい……ってちゃうちゃう、話がずれておるわい。まったくお前が口を開くとズルズル話がずれてくるわ」
それ師範が言うことか?
今回は僕は悪くないと思う。
「闇のファイターに勝ったということは、共鳴率に頼らんのが功を奏したか」
「だと思います。実感は全然わからないんですけど」
「デッキ、そしてカードと意思疎通が出来んほうがわしからみればわからん話じゃ」
やれやれとわざとらしいため息。
そして、腕を組んでこちらをじろりと見た。
「フツオよ。お主は呪われておる」
「ですね」
中学生の頃に、あの偽マグラ。
あれを焼いてから、この体質になった。
あれに振り回されていた数カ月、僕は週一で通っていたこの道場にこれなかった。
いや、
ある主の洗脳だったんだろう、そういうのに頼ったり、消したりする手段を考えられない。
ただの日常を送り、そしてカードに頼らせるそんな思考誘導があって。
まあむかついたから焼いてやったわけなんだが。
それからだ。ふと思い当たって、ずっと顔を出せてなかった師範に相談にいった。
そしたら今までになかったぐらいに怒られて、ついでにあの子にも泣きだされて、自分が呪われたことを知った。
――
実感はなかったけど、ゴブプラとか、ナイトレイダーとか、妖精鏡とかのカードをどんなデッキに混ぜても引きやすくなる補正というべきものが消失した。
どんなデッキでもランダムというか、ちゃんと混ぜると無作為になる体質。
バラバラの、思い通りにならない引きになる。
そんな絶望的な体質。
人によっては自殺を考えるレベルの悪夢。
らしいんだが……いや、それ、新しいテーマ類で適当にデッキ組んで一人回しした時とあまり変わらないのでは?
むしろなんか妙に引きやすくなるからあえて確率計算から外して、デッキにいれている該当枚数を減らしていた調整がいらなくなった。
どんなデッキでも必ず事故るとかなら、さすがにブチギレるしかなかったがそうでもない。
むしろどんなデッキでも事故らせるとか、完全にデッキ把握していて仕様的に逆張りをする必要があるよな。それまでされたらコスト1~2の完全ウィニーデッキ組むけど、マリガン前提でやるけど。
そんなケースがありますか? といわれたらドン引きされて、デッキとか粗末にし続けて憎まれればありえるかもしれんのぉといわれた。
大事にしてればいいんだ。
大事にしなきゃ操作されるのか、デッキの順番とか関係なく。
いや、普通に扱うつもりだからそうはならないと思うんだがそこまで生命を握られるのかと思った。
だから俺はそれから手袋をつけるようになった。
事故るとか事故らないとかそういう以前に、なにかの作為に、デッキだろうが精霊だろうが自分の意思で引きがブレるのが嫌で。
でも運にだけはちょっと祈って、でも、運になら外れても当たっても自己責任だから。
ああ、そうだ。
祈りたくないから。
神頼みしたくないから手袋をつけて。
ただ祈らない。
「だからこそ、お主のファイトは共鳴率を奪う……相手のデッキとの絆すらも塗り潰す闇のカードと渡り合えるのじゃろう。0なものを幾ら奪っても0じゃ、マイナスなど現実に存在はせん」
「そうみたいですね」
「だが、それは
「でしょうね。でもそれでいいんじゃないですか?
相手が常に上振れして、こっちが下振れし続けるのが固定っていうなら勝負としてきつすぎるが。
そうじゃないならばまだ勝負としては公平だ。
カードゲームってのはそういうもんだ。
まあ命がけになってるからゲームでもなんでもないんだが。マジで勘弁しろっていうファイトだよ。
「……
「いや、自前のデッキあるんで大丈夫です」
「お前なぁ」
いや事実だし。
“積功”デッキは楽しいが、専用のシナジーで組まないと強くないんだよな。
フルバーンよろしく使い手に相性がいる。
その上それに使えるカードがちょっと古く、パックを剥いても全然出てこない。
俺の記憶だと結構新しめ、そろそろメインのテーマになってるはずなんだが。
なんておどけつつもわかっている。
「なんで、師範はそこまで目を掛けてくれるんです?」
昔からの馴染みだから、なんて理由じゃない。
時間だけならもっと昔から通っている高弟たちがいる。
あのデッキだって本来なら譲られるに相応しい実力と人徳がある人が三人ぐらいは思いつく。
老師の
まあそんないい人だからまあいいんじゃねーって流されてたから揉めなかったんだが。
「いやお前放っておくと、死にそうだし」
「ひどくないです??」
「いやどうせ今後も関わんだろ。巻き込まれるか、それとも首をつっこむかにしろよ」
「いやそんなことは」
「じゃあお前、目の前で闇ファイターに襲われてる女子供を放置して逃げられるのか?」
「ワンパンぶち込んでから逃がすかなぁ」
「ほらみろ。お前はそういうやつだ。いいか、闇のカード――闇カード使われと戦うやつなんて二種類しかいねえ。
「まるで人をカッとなったら殴りに行く危険人物のような言い草」
「違うのか?」
「言質取られたくないのでそんなことはありませんといっておきます」
前世の死因からして否定は出来ない。
出来ないが、成長しているのだから否定しておく。
今なら死なずに返り討ちにするだけが可能だから……!
「認めてんじゃねえか」
ゲラゲラと笑う師範に、僕はどう答えるかしばし空を見上げながら考えて。
「しかしなあ、そうなるとこの鍛錬がまるで無駄じゃなかったのがウケるな。
「? それってどういう……」
「まて」
気になることを言われたので尋ねようとして、上げた師範の手に止められる。
先程までの笑みは消えて、トントンとつま先で石畳の床を叩いた。
「……憶えのある気が一つ。あと二つ? “ハシュ”……じゃねえな。アイツよりは弱いが、もう一つは……なんだ? 人の気には近い、が」
「師範?」
「……悪意は感じねえが、む」
向けた視線の先に見覚えがある背の高い人影が映った。
「ししょー!」
師範の末娘。
「マリカか、どした」
「客人だよー。師匠の知り合いだって人が、相談したいって。凄い美人さんと、子供とぉ、自分と同じぐらいの人の三人!」
「ふむ。要件は?」
「…………カードで、相談したいんだって。会う? だめなら自分が頑張って追い返すよぉ」
「いや、それなら会おう。フツオ、お前わしが戻るまで鍛錬しとけ」
「え」
「ぁー、そういうわけでぇ、バイ。フツ兄」
「ぇえ」
というわけで。
師範はマリカに連れられて去ってしまった。
残されたのは僕一人だけ。
「うーん……続き、やるか」
砲丸を掴み上げて、寂しく登路を続けることにした。
やってきた客人とは誰だろうな、なんて少しだけ考えながら。
「お前の体、頑丈過ぎんか? わしドンびき」
「ぶっとばしていいか?」
そのあと、全然帰ってこないで夕方までぶっ続けでやり続ける羽目になったのはキレていいと思う。
「全ては正しき構えから始まる」
――秘境の唸り手ゼツジン