ホシノに殺された俺。どうやら先生の弟だったようなので、とりあえず黒服とお茶会してみた 作:ラトソル
「そうだ! オアシスを掘り起こそう〜!!!」
「「……」」
メグルから注がれる細目から逃れるように顔を背けるホシノ。そんな二人の様子を見てか否か、スコップ片手に飛び跳ねるユメ。
「この辺りにね〜、あるらしいんだぁ、オアシス!」
「クーラー付いてないんですかここ」
「むっふっふ。ねぇメグルくん知ってる?」
「突然の豆しば」
「オアシスはね……冷たいんだよ!!」
「あったらの話ですよねそれ」
「さあ掘ろう、すぐ掘ろう!!」
「暑さで脳がやられてやがる」
やるぞー、おー! 、と一人盛り上がり手を挙げるユメ。
いつも通りの様子に溜息をつき、メグルはユメが持っているものと同じスコップを肩に担いで隣に立つ少女を見下ろす。
「発案者お前だろ」
「ぎっく……はい?」
「相場は『ぎくっ』だぞ」
「そこは良いでしょ別に……はぁ。はいはい、そうですよ私ですよ。なんですか文句でもあるんですか」
「なんで喧嘩腰なんだよ」
「だってメグル……いや、もういいです」
「妥協された感じがすごい」
アビドス唯一の同級生たる二人の日常的な会話。それはこの日であっても変わることの無いもの。
二人の間に遠慮は無く、しかし特別仲がいいというわけでもなかったのだろう。
「てか、掘るのはいいとして、この暑さの中制服で作業はなかなかにイカれているのでは?」
「ふっふーん! その疑問、パーフェクトアンサーを用意してるよメグルくん!!」
「0点の気配漂いまくってますが、なんですか?」
陽気な笑顔で胸を張り、見てなさいと言わんばかりの自信を見せてくるユメは、携えたスコップを砂に突き刺してホシノの方へと向かう。
「……え、あの、本当にするんですか……ユメ先輩!?」
「ホシノちゃん、ノリノリだったでしょ?」
「あれは場の空気に呑まれたというか……ちょっ、メグル見てる……!!」
「ご開帳〜!」
「どうしてそんなにテンション高いんですかユメ先輩!!」
ちょっ、あ、ぎゃー! と叫ぶホシノ。彼女に抱きついたと思えば制服を脱がそうと両手をワキワキ動かすユメの姿がただのエロおやじでしかないなとメグルは思いながら普通に眺めていた。
「はよ脱げ」
「ぶっ殺しますよメグル!? ふぐっ!?」
「ぁあんッ!」
「さすがに気まずい」
高校生とは到底思えないユメの豊か過ぎる胸部に吸い込まれたホシノはもはや顔が見えず。思い切り抱き締めたことにより色々あって艶のある声を漏らしたユメに対して、尚もメグルは合掌しながら眺めていた。
ホシノの抵抗、ユメの強襲の応酬。
暑くて乾燥した地獄のような砂漠地帯に足を運んだ意義をメグルは感じていた。
そして、数分後。
「じゃじゃーん! どう、メグルくん!」
「ぐ、うう……笑ってください……」
「草」
「そこに直りなさい」
バサりと脱ぎ去った制服の中から姿を現したのは、身体のラインを強調させるほどに密着した衣服。大腿は隠す気がなく、必要最低限な部分のみを一着で隠しているその服は、所謂スクール水着と呼ばれるもの。
プール、あるいは水場で使用されるべきそれを全く真逆の砂漠地帯で着用している二人。ユメ発案だろうソレの理由も凡そ理解しているメグルだが、それよりも目を惹かれる二人の姿。
「……なんですか」
「いや。かっこいい系のホシノが恥ずかしそうにしながらも睨みつけてくる顔みたら、なんか加虐心そそられるなぁ、と」
「最悪っ、視点が終わってる!!」
靴を履いたままにスク水というアンバランス加減。決して豊かではなくむしろ幼児体型と言っていいのかもしれないホシノの身体。しかし、そこらのイケメン男子よりもよっぽど整っているその顔が恥ずかしそうに赤く染っているのを見て、メグルの脳内を支配した『くっ殺!!』の言葉。
ホシノの顔が普通に好みなメグルにとって、その姿はあまりにもご褒美だったのだ。
それはそれとして。
「デッッッッッッッッ……おっと危ない。カッ!!」
「???」
「最低。死ね」
制服から見てもあの大きさだったユメ先輩のたわわな胸は、スク水によってもうそれはすんごいことになっていました。
両手を絡めて神に祈るような仕草をしたメグルは、そんなことを思いながら、これを見るのが無料で良いのだろうかと馬鹿なことを考えていた。
◈◈◈◈◈
「なっ、カイ……ギャ!?」
サオリ達に逃げられてしまったものの、あいつらのいる地点は既に捕捉している。
それでもすぐに向かわないのは、道中に他のアリウス生が暴れ回っているため。
ヒフミの一件でムカついたものの、その対象はサオリ達アリウススクワッドだけじゃない。
その他のアリウス生……まあ名前も分からないぐらいの関係値だけど、アイツらもこのまま暴れ続けるのなら鎮圧対象だ。
まあ、アイツらを鍛えた俺も間接的にヒフミを泣かせたと考えれば悪いやつではあるんだけど。我が身可愛さで俺は悪くないと正当化しておきましょう。
(にしても多いな……統制取れすぎでは?)
やはりベアおば。彼女達の配置のねちっこさがベアトリーチェさんの老害さを表しているかのようだ。
『眼が二つしかない下等種族が私に勝てるとでもオーッホッホッホー』
ワイン片手に複眼瞬き煽りをしてくるベアトリーチェさんが目に浮かぶ。別にあの人と勝負してないけどね。
「がっ!!」
「イタッ!?」
流石にもう一般生徒や市民の人は居ない。居るとすれば、警察的なポジションに立つ委員会の子達か、戦闘狂のキヴォトス人。あとは先生……兄さんの護衛的な奴らかな。
別に兄さんの心配をしてはなかったけど、割と瀕死そうだったから一応怪我を治しといたが。正直余計なお世話だったかもしれない。周りにいた女の子から敵意ビンビンだったし。追いかけてきた子は速攻で撒いたが。
「JKキラーなのか兄さん」
教師である兄がJKの心を続々と射抜いている姿にはなんとも言えない気持ちになってしまう。『いつかやるとは思ってました』とは言いたくないが。
そういえばアビドスにも兄さんは行ってたっけ。囚われの身だった
ちなみに、外した仮面はまた着けている。全く視界を遮らないこれはマジで性能パネェっすよ。
耐久性は試してないけど、まあ攻撃が当たらなければいいだけの話だし。今のところは考えなくていいだろ。
「で、お前らはなんなの?」
何人のアリウス生を気絶させてきたか。そろそろアイツらのところに向かうかと思ったところで、直近で感じていた気配が再度五つ後方に近づいてきたために振り返る。
「「「……」」」
黒服さんに負けず劣らずの不気味な光に身を包み、これまた不気味なヘイローを頭上に浮かばせるシスターのような服を着た骸骨に光の肉を纏わせたような奴ら。
白髪の女の子を助けた時にも来た奴らと全く同じ姿の五人は、以前とは違い振り返った時には既に片膝をつき頭を下げていた。
王に拝謁する時の家臣のように。命令を待つ従者のように。
そんな意味の分からない奴らに下す命令は変わらない。
「失せろ」
物言わぬ案山子でしかないこいつらには既に興味は無い。
刀を鞘へと戻し、振り返って歩き始めた時に視線の端に映り込んでいたそいつらの霧に消えていく姿。
そんなこともどうでもいいと、俺は瓦礫のない地面を踏み込んで空を舞う。それと同時にもう一度索敵を開始。肉眼による視認、聞き慣れた彼女達の声を聴覚で捉える。
(結構遠いな。ミサキの健を片足分だけ切ったのはミスったか。この感じ、ヒヨリも起きてるな)
全力で向かえば十秒と掛からない距離。
けれどそれは以前にヒフミのSOSを聞いて向かった時と同様に両脚がズタズタになるほどの大怪我を負うことは確実で、すぐに治るとはいえ痛いものは痛い。
キヴォトス人基準では最下層の更に下、クソザコ耐久力な俺の脚が耐えられるギリギリで走る。
アイツらの足は止まっているようだ。この分なら数分で辿り着く。移動中に辺りを見渡したがもう銃声は殆ど聞こえない。兄さんも関わっていることからこれはブルアカのメインストーリーなのだろうか。アイコンの顔しか知らない俺からしたらなんのこっちゃという感じだが。この物語も章的なところで区切りとなるのだろうか。
やはりどうでもいいことを考えながら家屋を飛び越えて移動する最中、目的地から感じた気配に目を丸くする。
(……ヒフミ?)
あの時。
いつもの彼女とは全く違う、文字通り泣き崩れていた少女の姿を思い出す。
確かに見たあの場所からすればかなり離れた地点。なぜヒフミが居るのかは分からない。けれど。
(兄さんに、ホシノも居るのか……まあいいか。様子見だな)
数少ない交友関係の半分がそこに集結していた。その何倍もの人数がそこに集まっている。うわー、世界広ーい、と呟いてみる。
みんなが集まっているその場から近いところで一番高いビルの屋上に止まる。
気配を消し、影に隠れつつ地上の様子を見下ろす。
構図としては、アリウススクワッドとその他、と言った感じか。
明らかな敵対体勢。片足が使えないミサキはヒヨリの肩に腕を回して支えられている。全員ボロボロ……一番マシなのはアツコだろうか。またガスマスクを着けているのは何故だろうか。こだわりは知らない。ベアトリーチェさんの指示か。
そしてアイツらの前に立つのは……えぇ、ヒフミなんですけど。
粉々になった瓦礫の山の上に立つ彼女は、やはり強い目であの場に立っていた。なぜ集団を代表するかのような立ち位置に彼女がいるのかは分からない。ただ、それでも。
『5』の数字が書かれた紙袋を被っているのは本当に恥ずかしいからやめて欲しい。
ちょうど今脱いだ所だけど、あれってまさかあれか、ファウストとかいうふざけたやつか。銀行強盗集団のリーダーか。なんで今それしてんのあいつ?
よく見たら、同じように数字の書かれた覆面を被った四人組。あれ絶対ホシノだろ。あんなことするキャラだったのかあいつは。改めて見るとダサすぎる。ユメ先輩にも流石に何かは言われてるだろ。
相変わらず、あの奇妙なペロロバッグを背負うヒフミは近くに居た少女に何かを言うと、更に前に立つ。
「────アズサちゃんが人殺しになるのは嫌です……」
そうして始まったのは、世界に対する宣言。
叫ぶような声ではない、拡声器を使ったものでも無い。
だけど何故か、ヒフミの声は和太鼓の音よりも心臓に響くものだった。
聞け、と細胞が叫ぶ。
ここを見逃すな、と誰かが叫ぶかのように。
俺の意識は、阿慈谷ヒフミただ一人に吸い込まれた。
「そんな暗くて憂鬱なお話、私は嫌なんです」
拳を握って、震える脚で、尚も少女は語る。
暗雲が漂うこの世界で、彼女はスポットライトを当てられたかのように良く見えた。
「それが真実だって、この世界の本質だって言われても、私は好きじゃないんです!」
ただ、目を奪われた。
「私には、好きなものがあります! 平凡で、大した個性もない私ですが……自分が好きなものについては、絶対に譲れません!」
平凡だと語る少女の宣言は、この世界で何よりも優先される。
「友情で苦難を乗り越え、努力がきちんと報われて、辛いことは慰めて、お友達と慰め合って……!」
彼女の言葉に世界が共鳴するかのように。
黒服さんがいつか語った『神秘』というものが何なのかは分からないが、あるとするのならば、今目の前で起きていることこそが『神秘』なのではないだろうか。
「苦しいことがあっても……誰もが最後は、笑顔になれるような!」
だって、ほら。
あんなにも暗くて、分厚かった雲が。
「そんなハッピーエンドが私は好きなんです!!」
彼女を照らす太陽の光の道を開けるように、雲が晴れていく。
そこにある全てがヒフミを際立たせる舞台装置。
「誰が何と言おうとも、何度だって言い続けてみせます!」
この高揚はなんだろうか。
この高まる心臓の鼓動はなんだろうか。
目が、離せない。
「私たちが描くお話は、私たちが決めるんです!」
────ん?
止まらない鼓動。映画のクライマックスかのような高揚。
それらが収まることは無い。けれど、その言葉を聞いた瞬間に、少しばかり冷静さを取り戻した。
まて。この世界の名前はなんといったか。
「終わりになんてさせません、まだまだ続けていくんです!」
(────まさか)
「私たちの物語……」
そして、告げる。
晴天の輝きを背に受けて、ヒフミは右手を天に掲げて宣言する。
「私たちの、青春の物語を!!!」
(お前が言うんかいいぃぃぃぃいいい!!!)
タイトル回収の回は神回と相場が決まっている。そしてそれを行うのは超主役級。大体は主人公の役目だろう。
議論の余地も無いほどに、ソレを口にした存在は、まさかのヒフミでした。
俺の友達、凄すぎんか? あれで平凡は嘘がすぎるだろ。
ただ、事実として雨雲は晴れていく。
ヒフミに呼応するかのように世界が創り変えられていく。
「────ここに宣言する」
そんな俺の衝撃に割り込むように声が聞こえた。
「私たちが、新しいエデン条約機構」
見間違えるはずもない。血の繋がった実兄なのだから。
兄さんはタブレットを携え、多くの生徒に囲まれながら詠唱のように宣言した。
発言の内容は全く理解出来なかったけど、どうやら形勢が逆転したようだ。サオリたちが目に見えて動揺しているのが分かる。
(よく分からんけど、一件落着か)
ヒフミは立ち上がっている。ならば俺の八つ当たりに正当性は無いだろう。もとよりそんなものはなかったが。ここで私情で割り込んだらヒフミに怒られる。俺の出番は終わりだな。
良いもの見れたし。ここにもう用はないと、この場から離れようとした時。
「……なんなんだ、お前は……ッ」
苛立ちを含んだ呟きを。
「奇跡だと……巫山戯るなッ! お前の行動が、言葉が、全てを狂わせる!! 奴の行動さえも……なんなんだ……なんなんだお前は!?」
まるで、もう後がないようなサオリの怒号。
それを向けられている相手は、見るに明らかで。
「────阿慈谷ヒフミ!!!」
彼女の銃口が輝くと同時に速射。
抜刀術のごときスピードで放たれた弾丸は、ヒフミの顔へと向かって放たれたから。
そんなもの、許すはずがないだろう。
引き金を引こうとした瞬間に刀を抜き去り投擲。
舞う硝煙、火花を散らす火薬、放たれる弾丸。
そんなものよりも速くに投げた刀は真っ直ぐに、サオリの持つ銃へと向かい、弾く。
「…………………………は?」
全く関係のない地面へと飛ばされた弾丸は瓦礫の中へと吸い込まれていく。
手を抑えるサオリは刀を見るやいなや一瞬で俺の場所を察知したのか、即座に俺のいる場所を見上げて唇を噛む。
ホシノから気の抜けた声が漏れたが、今はそちらに向ける気は無い。
「カイッ……」
ビルの屋上の縁に腰掛け、顔に手を置き首を傾げる。
認識阻害は発動しているが、この姿を見るのは二度目だから俺の顔は見えずともさすがに俺だと気がつく。モヤ=俺。最悪の方程式だね。
ヒヨリの絶望したような顔、ミサキの達観した表情。
そして、ガスマスクを外して俺を見つめるアツコ。
もう一人、気になる少女であるヒフミを見る。
何やら口パクで伝えてくる彼女。
『あ り が と う メ グ ル さ ん』
(なんで一目で分かるんだよ)
小さく手を振って、目を輝かせる彼女はどうやら俺の正体を見破っているようだ。刀か? いやそれだけで俺って分かるのか? いや、分かんね。考えるだけ無駄だな。
「……かい……ざー……」
俺の服に付いたカイザーのロゴマークを見て、目を震わせる少女の姿には気づくことなく。
「終わりだ、サオリ」
「ッ……く、そ!!」
アツコの微笑みだけが、どうしてか目に焼き付いた。