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#2【今ひとたびの平安文学】隠れた名作!?『和泉式部日記』を読んでみようの会

こんにちは。
烏野です。

さて『和泉式部日記』を読んでみようの会、第二回です。
前回はこちら↓↓↓

前回は、主人公の女と帥宮がはじめての和歌を送り合い、終わりました。
女が返信してくれることに味をしめた帥宮は、果たしてどのような手を尽くしてくるのか。
序盤から結構展開早いので、ジリジリするストーリー苦手〜って方でも楽しめますよ。

では早速、いざ平安☆



たまはせそめては

〈本文〉
たまはせそめては、また、
    うち出ででもありにしものをなかなかに苦しきまでも嘆く今日かな
とのたまはせたり。もとも心深からぬ人にて、ならはぬつれづれのわりなくおぼゆるに、はかなきことも目とどまりて、御返り、
    今日のまの心にかへて思ひやれながめつつのみ過ぐす心を
かくて、しばしばたまはする御返りも、時々聞こえさす。つれづれも少しなぐさむ心地して過ぐす。

〈訳文〉
宮は一度お文を寄越しなさってからは、また、
    私のこの恋心をああまで打ち明けなければよかった。かえって苦しい心で嘆く今日この頃です。
と詠んでこられた。女は元から思慮深くない性で、経験したことのない手持ち無沙汰な毎日に耐えられなく思っていたところなので、このようなちょっとした歌も目にとまり、お返事を差し上げる。
    宮様は「苦しきまでも嘆く今日」とおっしゃいますが、貴方様のそのお心に比べてご想像ください、兄宮様を亡くしてから、ずっと孤独と物思いの日々を過ごす私の心を。
こうして宮がしばしば文をお寄越しになるので、時々はお返事差し上げる。女の心細い日々も少しは慰められるような思いで過ごしている。


帥宮、早速文を寄越してきます。
しかもその内容は、「恋心溢れちゃって苦しい」というもの。一回、文をやり取りしただけなのにねぇ……。

この性急感、というのも、当時の和歌(文)が持つ力として、”仮初の恋愛”というものがありました。
和歌は自分の気持ちや季節を詠み込むものですが、その内容は基本的に大幅に誇張されています。失恋した→死んじゃう!みたいな感じです。

そして仮初の恋愛とは、まだ恋人関係に至ってない者同士で恋文のようなやり取りをするというもの。いわば恋人ごっこです。
もし当人たちにその気がなくとも、恋歌を吹っかけたらそれを汲んで返答しなければいけない、それが平安貴族のルールだったのです。

それを踏まえると、まだやり取りも少ないよく分からん人物(帥宮)が「心苦しい」と言ってきた場合、既読スルーは推奨できません。

戯れにでもなんか返そう。
そうして女が返したのが、帥宮の歌を踏まえた「私の方が苦しい」という歌。
でも苦しんでるのは帥宮への恋心ではなく、かつての元カレ宮がいないから……というのです。

これがまたね、帥宮にしてみたら一筋縄じゃいかないなこの人、みたいな雰囲気醸し出してますね。

はい次。



また御文あり

〈本文〉
また御文あり。ことばなど少し細やかにて、
    「語らはばなぐさむこともありやせん。言ふかひなくは思はざらなん
あはれなる御物語聞えさせに、暮にはいかが」
とのたまはせば、
    「なぐさむと聞けば語らまほしけれど身の浮きことぞ言ふかひもなき
生ひたる蘆(あし)にて、かひなくや」
と聞こえつ。

〈訳文〉
また宮よりお文があった。お言葉などいつもよりお心が込められており、
    「親しく語り合ったなら、この心も慰められるかと思います。私をお話がいのない男だとは思わないでください。
しみじみとしたお話を申し上げに、今日の夕方頃はいかがですか」
とおっしゃるので、
    「心が慰められると聞けば親しく語らいたいと思いますが、私のこの辛い我が身では、貴方様のように話がいのある方でも甲斐のないことなのです。
『生ひたる蘆』ではありませんが、私は言葉にもできずただ泣くばかりです。お会いしてもお話し相手にならないでしょう」
と申し上げた。


ここにきてちょっと攻めてきた帥宮。
「今日の夜会えない?」と、普通に逢瀬を迫ってきます。

当時の男女の逢瀬は基本的に夜でした。
男性貴族たちは早朝から昼間が仕事なので、会えるのはそれが終わってから。また、妻帯の男が忍んで出かけるに最適だったとも言われています。
平安時代は、愛人不倫は前提なので。

そのため、帥宮も慣習に従って夕刻を打診してきます。

しかしまぁ、「お話だけでも」と言いますが、実際そんなことはありません
当時なんてそんなもんです。

一応傷心中の女は雅やかに断りを入れます。
というのも、帥宮が来る→じゃあお待ちしてます!と返すのは、はしたなくてNG
私は別に……みたいな余裕?清純さ?慎ましさ?が求められてたんですって、テンプレ的に。
まぁ和泉式部の場合はそのテンプレに従うのは難しそうですけど。

で、ここで一つ技法をば。
突如出てきた「生ひたる蘆」という言葉。脈絡もなくてなんじゃこりゃ、となった方も多いはず。

これは引き歌です。

世間的に有名な歌(古今集とか)の一部分だけを出し、私はこう思ってますよ、と遠回しに意思を伝える手法です。
手紙の中に放り込んだり、和歌の中に入れ込んだりと、使用方法はかなり多岐
適切に使えると教養ポイントが高く、相手を感嘆させること間違いなし。

特に和泉式部は歌人なこともあり、引き歌をよく使います。多くを語らず、歌で語る

さぁ次。



思ひかけぬほどに

〈本文〉
思ひかけぬほどに忍びてとおぼして、昼より御心まうけして、日ごろも御文取り次ぎて参らする右近の尉(じょう)なる人を召して、「忍びてものへ行かん」とのたまはすれば、さなめりと思ひてさぶらふ。
あやしき御車にておはしまいて、「かくなむ」と言はせ給へれば、女、いと便なき心地すれど、「なし」と聞こえさすべきにもあらず。

〈訳文〉
宮は女が思いがけない時にこっそりと赴こうとお思いになり、昼からそう心づもりなさって、普段から文の取り次ぎをしている右近の尉をお召になり、「お忍びで出かけよう」とおっしゃったので、右近の尉はあの女のところだなと承知してお仕え申し上げる。
宮はわざと質素なお車でお越しになって、「こうした次第で参りました」と右近の尉に言わせるので、女は非常に不都合で困ったことになったと思ったが、「いません」とお伝えするわけにもいかない。


はい、ちょっとした策士帥宮さんです。

お家凸ともいえる状況ですが、女としては昼間にお返事してしまっているので、居留守は使えない。
そしてもう門まで来てしまっている。
お迎えするしかないですね。

ここで数少ない新たな登場人物、右近の尉
”尉”とあるように彼は位ある存在なので、小舎人童より帥宮の身近に仕えています。
話や文の受け渡しをするならば、小舎人童→右近の尉→帥宮、という感じで取り次ぎがなされます。

ところで帥宮はなぜ質素な車で参ったのか。
皇族であれば、煌びやかーな牛車に乗りそうなものですが。

というのも、平安京は都とはいえ治安がだいぶ悪い。しかも人々が寝静まる夜に豪華絢爛な車で出かけたら襲われること間違いなし。私は上級貴族である!と周囲に示しまくっちゃってるわけです。
それに、お忍びのお出かけですから、なにより目立っては困るわけです。
そうなると必然的にわざと質素な車に乗車、ということになります。

ちなみにこの後出てきますが、あえて女性が乗る車に扮することもあります。
何でもアリですね!!

では次。


昼も御返り

〈本文〉
「昼も御返り聞こえさせつれば、ありながら帰したてまつらんもなさけなかるべし。ものばかり聞こえん」と思ひて、西の妻戸に円座(わらざ)さし出でて入れたてまつるに、世の人の言へばにやあらむ、なべての御さまにはあらず、なまめかし。
これも心づかひせられて、ものなど聞こゆるほどに月さし出でぬ。

〈訳文〉
「昼間にもお返事を申し上げてしまったのだから、居ながらお帰し申し上げるのでは、あまりに心無い仕打ちでしょう。せめてお話だけでも申し上げよう」
と思って、西の妻戸に円座を差し出し、そこにお入れ申し上げると、世間の人々が噂するからであろうか、並大抵のご容姿ではなく、優雅でお美しい。女も思わず気遣いさせられて、お話申し上げているうちに、月がさし昇ってきた。


ついに女と帥宮が対面。
一方的に乗り込んできた形ではありますが、なんとか女を丸め込みます。帥宮の作戦勝ち

ここで帥宮の容姿に言及されますが、『枕草子』や『源氏物語』ほど詳細には書かれません。
あっさり、「なべての御さまにはあらず、なまめかし」と。
かなり高評価なのはわかりますが、実際のところどういったご容姿だったのか、残して欲しかったですねぇ。

とはいえ、ここでの対面は御簾越し
実際に顔を合わせているわけではありません
蝋の火に照らされ浮かび上がるお互いの影を見ながら話していると思われます。
これはこれでエモーショナル。

でもちょっとずつ距離が近づきます。

いよいよ次、ある意味大事件



いと明かし

〈本文〉
「いと明かし。古めかしう奥まりたる身なれば、かかるところに居ならはぬを。いとはしたなき心地するに、そのおはするところに据ゑ給へ。よも、さきざき見給ふらん人のやうにはあらじ」とのたまえば、「あやし。今宵のみこそ聞こえさすると思ひはべれ。さきざきはいつかは」など、はかなきことに聞こえなすほどに、夜やうやう更けぬ。
かくて明かすべきにやとて、
    はかもなき夢をだに見で明かしてはなにをかのちのよ語りにせん
とのたまへば、
    「よと共にぬるとは袖を思ふ身ものどかに夢を見る宵ぞなき
まいて」と聞こゆ。「かろがろしき御歩きすべき身にてもあらず。なさけなきやうにはおぼすとも、まことにものおそろしきまでこそおぼゆれ」とて、やをらすべり入り給ひぬ。

〈訳文〉
「とても明るい。私は古風で引きこもりがちな身ですので、このような端近なところにおりますのは慣れておりません。ひどく落ち着かないので、あなたのいらっしゃる御簾の中に座らせてくださいませんか。よもや、これまであなたがお会いになったとかいう方々のような振る舞いは決して致しません」とおっしゃるので、「まぁ妙なことを。宮様とは今夜だけのお話し相手と思っております。それに、さきざきとおっしゃいますが、いつのことでしょう」などと、取り留めのないことで紛らわしている内に、夜も段々と更けていった。
このまま明かしてしまってはと、
    はかない夢さえも見ずにこの夜を明かしてしまっては、一体なにを後の思い出話とすればよいのでしょう。
とおっしゃるので、
    「長いこと毎晩袖を涙で濡らしている我が身ですから、たとえ一夜の宵でものどかに夢を見られたことなどないのです。
まして今夜などとても………」と申し上げた。「私は軽々しく外出が出来る身ではございません。思いやりがないようにお思いになられても、本当に、空恐ろしいくらいあなたが慕われてならないのです」と言って、そっと御簾の中に滑り込まれた。


ちょっと長めに切り取りました。
ここは冒頭部最大の山場でもあります、色んな意味で。

ほのぼのとお話しているかと思いきや、迫る夜明けに焦り、我慢できなくなった帥宮さん。
一応お断りの言葉を申し上げて、御簾の中へ入ってしまいます。
御簾は女性にとってのパーソナルスペース
なんと大胆な。

逢瀬の場面、特に初対面時でこういう風に描写されることあまりない気がします。(私の経験値が少ないので沢山あったらご容赦ください)
大体は、逢瀬(明確な描写はなし)→後朝の文でまとまっているかなと思います。
これが史実か否かはわかりませんが、そのまま読む感じ、個人的には怖いですね笑


今回はここまで

今回はここまでです。

のんびり文のやり取りをしていたと思ったら、初の逢瀬、そして急展開。

物語はまだかなり冒頭部、季節は四月中旬。年始まではまだ時間があります。

それまでに二人は愛を育むことはできるのでしょうか。
二人の紆余曲折をご覧になりたい方は、続きをお待ちくださいませ。


それではお付き合いありがとうございました。

またお会いしましょう。

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