地方に今なぜ音楽大新設なのか 福岡・太宰府に来春開学、学費は最低水準「勝算あり」

来年4月に開学する福岡国際音楽大学の校舎=11月、福岡県太宰府市(一居真由子撮影)
来年4月に開学する福岡国際音楽大学の校舎=11月、福岡県太宰府市(一居真由子撮影)

福岡県太宰府市に来年4月、4年制の「福岡国際音楽大学」が誕生する。音大など音楽学部を設置する4年制大学は国内に約20校あるが、前身校からの移行や組織改編を除けば、新設は約35年ぶりとみられ、地方における音楽教育の拠点として期待を受ける。一方、少子化で大学運営は厳しさを増し、私立大では定員割れも相次ぐ。今なぜ地方に音大なのか。運営する学校法人は「音楽の力の社会還元」を掲げ、設置認可を取得した。

講師に世界的演奏家

同大は、福岡市中心部から電車で約30分、太宰府天満宮などの文化財や史跡が点在する太宰府市に設置される。定員は80人で、作曲や声楽、ピアノなどを学ぶ「音楽表現専攻」と商業音楽などに関連したスキルを学ぶ「音楽ビジネス専攻」を設ける。11月1日に願書の受け付けが始まった。

世界で通用する音楽家育成を目指し、国際的に活躍する演奏家らを講師に迎える。東京芸術大前学長でバイオリニストの澤和樹氏が学長を務め、地元のプロオーケストラ・九州交響楽団とも連携。系列の福岡女子短大が音楽科の募集を停止するのに伴い、同短大の校舎の一部を活用し、レッスン室やミュージカル練習室などを整備する。

学費は年間140万~160万円と私立の音大で最も低い水準に抑え、学生寮も設ける。

福岡国際音楽大学の教室=福岡県太宰府市(一居真由子撮影)
福岡国際音楽大学の教室=福岡県太宰府市(一居真由子撮影)

進路選択の幅広げる

大学側がアピールするのは進路の確保だ。音大を出て音楽家や音楽の教員などに進む学生は一握りといわれ、国内の音大では、学生が希望する就職先の確保が課題となっている。音楽の道を諦め、進路が不明の学生も多いという。

このため同大は、英語やICT(情報通信技術)などの授業も手厚くし、職業選択の幅を広げる。音楽を医療福祉に生かすスキルの取得や、アジアに目を向けた音楽ビジネス教育に加えて、一般企業への就職や起業の道も開ける教育環境を整える。

澤氏は「音楽や美術を頑張ってきた人たちの活躍の場が限られ、力を持ちながら社会に貢献できない状況をなんとかしたい」と強調。「世界に通用する演奏家や教育者の輩出は当然だが、音楽を医療・福祉に生かせる人材も育てたい」と話す。

人材流出防ぐ狙いも

国内の音大や音楽学部の多くは戦後から高度成長期に創設され、音楽科を設ける短大も多数ある。しかし少子化の影響で募集停止や組織改編を行う大学もあり、「経営的に成功しているのは数校」(関係者)ともいわれる。大学全体をみても学生の確保は難しくなり、文部科学省は私大の学部新設時の審査基準を厳しくする方針を示している。

運営する学校法人「高木学園」(福岡市)によると、開学は地方の音楽文化を守る意義もあるとし、高水準の教育と、割安の学費で関東や関西への人材流出を防ぐ。医療福祉系大学を運営する同法人のグループも学校運営を支える方針で、同学園の高木邦格理事長は「10年、20年かけて世界的な音楽大学をつくりたい」と力を込める。

記者会見で大学の概要を説明する福岡国際音楽大学の澤和樹学長(中央)ら=福岡県太宰府市(一居真由子撮影)
記者会見で大学の概要を説明する福岡国際音楽大学の澤和樹学長(中央)ら=福岡県太宰府市(一居真由子撮影)

地元経済界もバックアップする。福岡では文化価値の向上に向けて10年ほど前から音大を求める声があり、昨年9月には地場企業を中心に「設立を支援する会」が発足。経営難に陥っている九響の理事長には今年7月、地銀最大手ふくおかフィナンシャルグループ社長の五島久氏が就任し、連携して音楽文化の維持にあたり、教養を身に着けた人材の地域還元も図る。

学生が集まるのか懸念の声も強い中、2月に開かれた大学説明会では予想を上回る約500人が来場した。運営面で「勝算はある」と強気の姿勢の同大経営陣。逆風の中で開学する音大の挑戦に注目が集まっている。(一居真由子)

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