眺望が売りだったけど…食堂だった福岡県議会棟、4年間“開かずの間” 9回公募も入居至らず
福岡市博多区の福岡県議会棟に4年もの間、不使用になっている“開かずの間”がある。入り口の壁には「喫茶 食堂」の文字。ガラス戸の内部には、積み重なった段ボール箱やついたても見える。なぜ議会棟に食堂の名残があるのか。気になって調べてみた。(飯村海遊) ■眺望が売りだったかつての店内【写真】 話は現在の県議会棟が落成した44年前にさかのぼる。県庁舎と県議会棟が現在地に移ったのは1981年。今の服部誠太郎知事から数えて4代前の亀井光県政(67~83年)の時代だ。
75年から2期県議を務めた黒木一夫さん(99)=同区=によると、今の県庁周辺は当時、交通網の整備が遅れ、飲食店の数も心もとない状況だったという。元々、福岡市中央区にあった県庁の移転先を四つの候補地から現在地に決める際も、県職員や県議の食事場所がネックになっていた。 黒木さんらの熱心な活動もあって何とか誘致にこぎ着けたものの、「外から人が来たときに食事をする場所が必要だった」と黒木さん。そこで県執行部の提案もあり、新庁舎が開庁すると、行政棟にレストラン「クイーン」、議会棟に来賓向けの喫茶・食堂「キング」をオープンすることになったという。
■眺望が売りに
「1階の食堂、喫茶室の配置については、周辺の森と池を眺望する位置にすることにより、落ち着いた雰囲気を醸成するように配慮した」。当時の議論を記した「議会時報」はこう説明する。確かに最近まで営業していた店内からも、景観にこだわった設計がうかがえる。 黒木さんは懐かしむ。「陳情団を連れてよくキングで食事をしたものです」。県職員OBの男性も「広くてゆったりしたキングの方がクイーンより格上。中央省庁から偉い人が来たときは必ずキングに案内していた」と往時を振り返った。
■遠のいた利用客
ただ、県庁周辺の開発に伴って近くに飲食店が増えたこともあり、キングの経営は徐々に困難になっていく。日本経済の低迷期と重なるように苦境を脱することができなかったキングは99年に閉店。以降、三つの事業者が営業を引き継いできたが、新型コロナウイルス禍の2021年、最後の事業者が赤字を理由に撤退した。 「議会開会中しか、議員も立ち寄らないから経営は難しかったと思う」と現職県議。県職員も「職員は行政棟の食堂を使う。わざわざ食事のために議会棟に足を運ぶことはなかった」と語った。県議と鉢合わせしかねない議会棟はそもそも「職員にはハードルが高かった」(中堅職員)との声も聞かれた。 他県ではどうか。九州の各県議会事務局に問い合わせると、議会棟に食堂などを設置していると答えたのは熊本県だけだった。 熊本県議会には「議員サロン」があり、熊本県庁の食堂「食彩館」と同じ熊本県職員互助会が経営。千円以下の定食を取りそろえ、県議や一般客の他、県職員の利用も少なくないという。