〈社説〉高市首相と台湾有事 存立危機を軽く語るな

2025年11月11日 07時38分
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 高市早苗首相が中国による台湾への武力侵攻が起きた際、安全保障関連法に基づく存立危機事態に認定し、集団的自衛権を行使する可能性に言及した。中国との戦争も辞さないとの表明にほかならない。首相としての発言の重大性を理解しているのか。あまりにも軽率で不用意な発言と非難する。
 首相は7日の衆院予算委員会で中国の台湾侵攻が「戦艦を使って武力の行使を伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になり得るケースだ」と述べた。

7日、衆院予算委で答弁する高市首相(佐藤哲紀撮影)

 安保法は存立危機事態について密接な関係にある他国が武力攻撃され「日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」と規定。日本が直接攻撃されていなくても、政府が存立危機事態と認定すれば集団的自衛権を行使でき、他国同士の戦争に加わることができると定める。
 ただ、日本は1972年の日中共同声明で、台湾を中国の一部とする中国の立場を「十分理解し、尊重」すると明記し、台湾を国家と認めていない。安保法をどう解釈すれば、日本が台湾有事に参戦できるとの結論が導けるのか。
 そもそも存立危機事態の定義は2015年の安保法制定時から曖昧だと指摘されてきた。高市氏の発言で、時の政権に恣意(しい)的な判断を許しかねない安保法の危うさが改めて浮き彫りになった。
 かつて安倍晋三氏が首相退任後に「台湾有事は日本有事」と発言したことはあるが、在任中は具体例を示すことには慎重だった。高市氏も首相在任中は言葉を選ぶべきではないか。
 首相は中国の習近平(しゅうきんぺい)国家主席との首脳会談で、戦略的互恵関係の推進を確認したばかりだ。直後に台湾当局者と面会した写真を公表し、台湾有事に参戦の可能性があると挑発して、首脳間の信頼関係を築けるのか。感情的な対立を煽(あお)るような言動は双方の国益を損なう。日中両政府に自制的な対応を重ねて求める。
 首相は10日の衆院予算委で自身の発言の「反省点」として特定の想定を「明言することは今後は慎む」と述べたが、当然だ。
 首相が思い込みや勢いで軽々しく発言することは許されない。立場の重みを自覚し、特に台湾問題では、中台双方に一方的な現状変更を控えるよう促す外交努力にこそ指導力を発揮すべきである。

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    みんなのコメント3件

  • ユーザー
    おったま 11月14日13時28分

    首相が軽々しく発言をすることは許されないという点は、そのとおりだと思う。
    ただし、中国の台湾への武力侵攻が本当に起きた場合、そして、それが成功した場合、日本にどのような影響が及ぶかについて、慎重に分析する必要がある。それが、将来日本の存続を脅かす可能性は決して低くはないと考える。中国が、そのような暴挙にでないようにするためになにをするべきか、国民意識を高める必要のある重要なテーマであり、マスコミからの啓発を期待したい。

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  • ユーザー
    ジャック・リーチャー 11月13日4時53分

    東京新聞デジタルがXで投稿したこの社説の紹介ポストの表示回数が34万になっている。(2025年11月13日4:50現在)

    X利用者も、この社説の「外交努力がいかに重要で不可欠なのか」に共感している。
    素晴らしいことです。

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  • ユーザー
    ジャック・リーチャー 11月11日8時15分

    東京新聞らしい、素晴らしい社説です。

    テレビや他の新聞は、台湾有事や開かれたインド太平洋などと危機を煽り、アメリカからの兵器爆買いを後押しする。多分戦前もこんな感じで国民を煽って戦争へ突入していったのだろう。

    また尖閣、尖閣と連日のように大騒ぎしたテレビと新聞は安倍自民党が政権を取ったら、ピッタリと止まったことを思い出します。この台湾有事騒ぎも安保3文書の前倒し改訂や防衛費のGDP2%を達成するまで続くのでしょうか?それとも行き着く先は、また戦争なのか?

    今の日本に必要なのは少子高齢化対策と気候変動対策だと思います。

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