小説ページ 読み込まれました
屍愛の上で悪魔は踊る作 : 夢伽莉斗X : @yumerito_birt

6.悪魔は踊る

 それから一週間過ぎた。ラムズはさすがに空気を読んだのか、会いにこなくなった。この百年間、一緒に眠るために夜を尋ねなかった日は数えるほどもない。だから、久しぶりにひとりで眠った。

 あんなことがあったというのに、アタシの心は嘘みたいに穏やかで、何に悩んでいたのかも、苦しんでいたのかも、もうよくわからない。

 ん、ママとの約束? 次の日には破ったよ。なんだっけ、ああ、人間の血が飲みたくなったんだ。街に出かけて、よさそうな男見つけて、一声掛けて路地裏に連れ込んで、首筋から血を啜った。気づいたときには死んでた。ひとつも心は痛まないし、後悔もない。
 悪魔に戻ると決める前から、アタシに約束は守れないとわかっていた。そも、人間性を持っているあいだだって、人間を殺すこと自体に抵抗感はなかったんだ。〝ママとの約束を破ること〟に〝罪悪感〟というヤツがあっただけ。

 ママはアタシのことを愛してた。アタシはママを…………もし愛しているなら、今ももっと努力して自制していたのかも、ね。
 アタシ、初めから自制する気、全然ないもんね。だってめんどくさいし、疲れるし、好きなように生きたほうが楽だ。

 今は正直……なんのために約束を守ろうとしていたのかもわからない。だって、ママは死んだ。約束守ってても破っててもわかんないじゃん? アタシの頑張りで誰か得すんの? あ、未来の被害者? けどソイツ、アタシに関係ないしなあ。

 アタシの瞳は、青と金色、どちらが美しく見えるんだろう。


 ✧


 あの男なら、何事もなかったかのように「寝よ」と言って部屋に現れると思っていた。でも、一ヶ月経っても、二ヶ月経ってもアタシたちの関係は〝他人〟のまま。結局匂いが好きとか、魔力が美味しいとか、初めからアタシの片想いか。

 ……最近はもう、廊下ですれ違っても挨拶すらしない。アタシが歩いていることにさえ気づかない様子で、宝飾品で着飾った美しい仮面を被って優雅に歩いていた。


 ママが死んで、低級悪魔でも地上に出られるようになって。人間を食い散らかし不相応の魔力を手に入れた悪魔が、魔界でも好き放題暴れ回っていた。
 今は魔王が扉を規制しているけれど、このとき成り上がった残党共に捕まってしまった。枷は抜け出せるし、カシラを殺すのも簡単だ。ただもしコイツらが強姦してくれるなら愉しめると、しばらく様子を窺うことにした。

「シェリンって女悪魔を預かってる。話がある、二番街倉庫に来い」

 水晶魔法で繋がった相手に、成り上がり悪魔が吐き捨てる。水晶に映ったのはラムズだった。ラムズは軽く首を傾げたあと、さらりと答える。

「いいよ、好きにして」

 モブ悪魔は裂けるように口角を上げる。

「実はとある情報を得てな。……娘なんだろう? いいのか、本当に助けに来なくて」

 驚いて彼を見た。どっから漏れたんだろう。幹部の誰かが裏切った?
 ラムズは一切表情を変えないまま、くつりと喉を鳴らした。

「娘か、もう使い終わったんだけどな」

 水晶の映像がブレて霧闇に溶け込むと同時に、成り上がり悪魔が後ろから首根っこを捕まれ、壁にぶち当たった。いつの間にか転移で現れていたラムズが、すっと四指で自身の首を切る仕草をする。ラムズに襲いかかろうと影で窺っていた悪魔たちが、揃ってラムズを真似るように鉤爪で喉を掻き切った。

 アタシの腕を縛っていた枷が外れる。思わず声を上げた。

「待って」立ち上がり服の埃を払う。「なんで助けたの」

 アタシたちは〝他人〟だし、アタシがわざと捕まっていたことにも気づいていたはずだ。

「もう使い道はないでしょ。何も覚えていないアタシにママを犯させるために、最期ママの聖魔力を絞り尽くすために、アタシを使った。全部魔王のため、宝飾品のため」

 一度幸せを与えてから奪う。十年間家族を装い、アタシへの愛情を増幅させたほうがママの聖魔力が多く搾り取れると考えた。
 何もかもを忘れたアタシが、犯し拷問することでも継続的に聖魔力を摂取できる。
 そして最後に記憶を戻して、親子の絆を復活させたあと、アタシに殺させる。信念を挫き、娘を悪魔にしたという絶望からも最高質の聖魔力を根こそぎ奪った。

 出産後すぐアタシを引き剥がしたり、幼いアタシをママの前で拷問にかけるという方法もあったはずだ。でも前者の方法を取れば、魔王幹部に抜擢されるほどの強い悪魔を育てられる、魔王軍の戦力にもできる。

 ラムズは合理的に〝道具〟を使っただけ。
 ──この男は、悪魔のアタシですら冷徹だと思うほど、〝何もない〟のだ。

「まあ、そうかもな」
「じゃあなんで」

 彼は首を傾げ、プラチナの睫毛を被せて眼を細めた。薄闇の中、瞼の隙間で青が光った。

「そういえば、真名を教えてなかったな」

 質問に答えたわけじゃない。ただふと今思いついただけという調子だった。

「シェリン=アウィン。もう自分で管理できるだろ」

 父親みたいな言い方をして、彼は消えた。

 悪魔には真名がある。人に知られると強力な魔法で縛られてしまう可能性があり、高位悪魔になら無理やり脳を覗かれ暴かれることもある。

 だからラムズのその言葉は──。
 〝親子の縁はこれ切りだ〟、そう言われた気がした。




 何かの拍子にすっと頭に浮かんだ。シェリンはシトリン。アウィンはアウイナイト。アタシのバイカラーの瞳の色。アイツ、たまに「綺麗だ」と言って目元を触ってたっけ。
 ラムズは宝飾品に強欲値を持っていかれてる。だから他人に宝石の名前をつけるなんて、悪魔の本能からすれば嫉妬心を抱くはずだ。

「…………」

 そも、アタシは彼に何を怒りたかったんだっけ。

 んー、ママを苦しめたコト? でももう死んだかんな。それに、円卓の騎士として魔王に戦いを挑んだ時点で、悪魔の餌食になりえることは予測できていたはずだ。
 たまたまラムズが悪魔貴公子の皮を被った蛆の掃き溜めだったってだけで、ラムズはラムズで目的があった。納得はできる。

 アタシ自身もコイツに何かされたんだっけ? 例えば、人間性を残すって意思を踏み躙られた?
 でも……やっぱ人間性って邪魔だしなあ。最初っからすんなり人間性を捨てるより、嫌々ママを食べたことで、イイカンジの感動ストーリーになったし。え、この独り言で台無し? またまたァ。
 そりゃあ母親は大事だよ。だけど母親の境遇にまで胸を痛めて、今までの罪を後悔して、自責感と罪悪感に苦しんで──って、そんなのアタシじゃない。生きづらくて嫌い。

 ママを喰わされたのも、まあ、あれほどの聖魔力を持った体を魔王を差し置いてアタシが食べられたのはラッキー、でしょ?


 ──今は、全部どうでもよかった。心にはなーんのダメージもない。損もしてない。
 アタシはただ、〝怒ってみたかった〟だけ。利用されていたのが癪に障るだけ。……だけど、欲しいものはなんにも手に入らなかった。

 アタシがこうして手を離せば、アイツはキスもハグもくれない。宝飾品以外に関心がない、そういう悪魔だから。


 ✧


 幹部会議が終わり、ラムズはふぁ、と欠伸をしながらひとり怠そうに書類整理をしている。

「ねえ。記憶を消したあともアタシを助けてたのは、魔王の命令だよね」

 机の前に立つアタシには見向きもせず、頬杖をついて書類を眺めている。

「まあ」
「じゃあ、もう宝飾品がもらえなくなったとか?」

 からかう口ぶりで尋ねると、ラムズが顔を上げた。冷たく耳を撫でるような声で微笑む。

「そんな寂しい?」

 内側を覗かれたみたいに、胸に落ちた。

「……おまえが人を道具としか思ってないことを再確認しにきただけ」

 ラムズは机の上の書類をひとつにまとめると、空間魔法で仕舞った。

「娘のお願いを聞いてやったんだろ? 優しいパパが」
「キモ。死ね」

 アタシは転移で部屋に戻った。

 こんの下劣な淫虐廃棄物が。
 悪魔ん中でもダントツカス。いくら加虐行為が好きで人間性がなくとも、高位悪魔ともなれば無難なコミュニケーションは皆取ってんだよ。加虐心ないとか言って、煽り倒すの大得意じゃねえか。




 魔王から「ラムズに真名を聞いたんだろ?」と声をかけられ、宝飾品をやると言われた。売って金にでもしろと。なんの気まぐれか、ラムズと一緒になって独り立ち祝いでもしたいのか。アタシはシトリンとアウイナイトのルースを選んだ。
 魔王様がアタシの名前を?、と聞けば、ラムズが自分で決めていたぞ、と答える。アタシの真名も知らないようだった。


 机の上でルースを指で転がし、ぺたんとうつ伏せになって眺めていた。

『なんでも教えてやってんだろ? 助けてやってるし』

『好きだよ。愛してる。俺のシェリン』

『嘘じゃない。飽きるほど抱いてやるから』

 ──やっぱあのクソ悪魔、嘘つきだ。


 ロリコン野郎のは見なくていーやと仕舞い込んでいた記憶を、ぼんやりと浮かばせた。

 初めて体を交えたときも、「ママのところに帰りたくない。大きいの挿れてほしい。どうにかしてほしい」そうせがんでラムズを困らせた。
 まだ体小さいから、と言いかけたラムズを、嫌だそのままのヤツがいい、と怒った。小さい穴にデカいものを詰め込んだら壊れる、とアタシに言い聞かせ、幼いアタシはようやく諦めて彼に任せた。抱いてもらった。

 幼いころのほうがずっと優しかった。記憶を失うまでは毎日抱いてくれていた。
 今更娘を犯す罪悪感を取り戻したワケないし、……アタシに人間性が消えたって、愛も同情もなくたって、形だけでも謝りにくればいい。
 他人になるってアタシの言葉に胡座をかいて、使い潰して捨てやがって。宝石の名前までつけてあんな甲斐甲斐しく育てたくせに。

 ──別に嘘でいい。アタシは愛の真偽なんてわからないし、興味もない。だけど、アイツはその嘘すらくれない。




 魔王城の廊下、向こうからラムズが歩いてくる。今日もシカトか。憎いほど綺麗な顔で、アタシと同じ色の髪が揺れ、青眼の前をかすめる銀はまばらに影を落とす。

「来て」

 ラムズの腕を掴んだ。ずんずんと歩きいつかの物置きに引き込む。ラムズは黙ってなされるがままに入って、そういうところもムカついた。
 今度は彼を扉の前に立たせた。扉は半端に閉まって、廊下の光が線のように差し込む。

「散々使い潰して、用が済んだらはいお終いって?」

 背後から漏れる光に縁取られ、彼の輪郭だけが浮かび上がった。唇の片端がかすかに持ち上がった気がした。

「俺にまだ使ってほしいの」

 は? んなわけ。

「散々利用したんだから、少しはご機嫌でも取ったら? 人間性消せば全部ノーカンだって?」
「悪魔だろ? 俺から何かもらいたいなら、ココを使わなきゃ」

 ラムズはアタシのこめかみをとんとん、と叩く。
 さらに苛立ちが募って、それでも俯き唇を噛んで堪えた。コイツに教わったことだ、欲望だけで生きていてはいちばん欲しいものは手に入らない。悪魔でも理性は育てろ、我慢を覚えろと。

「……わかんない。アタシ、おまえの娘だから。おまえは超えらんない」

 毒にも蜜にも聞こえる囁き声が、上から落ちてくる。

「何がほしいの」

 わかってるくせに。

「……嘘つき」

 ラムズはくつくつと笑う。首を傾げて、銀髪が半分光に当たった。

「どれを本当にしてほしい?」

 ゴミ。クズ。最低。クソ悪魔。ママじゃなくて、おまえが死ねばよかったのに。

「…………キス。愛も。それで抱いて」

 彼の眼が銀髪の影に隠れ、喉が甘く嗤う。

「母親を喰わせた俺に、娘も犯せって? そんなお願いしに来たの」

 思わず靴を踏みつけそうになったけど、はぁ、と息を落とし目を伏せた。ここでキレたらもっと無様だ。

「そ。カスなパパから産まれた娘だから、アタシもカスみたい」

 冷たい指先が頬を撫でる。ぞく、と甘い疼きが走った。

「じゃあ、使い道、考えてやろっか? その報酬に抱けばい?」

 傷つけたお詫びに言うこと聞けと突っぱねたいけど、これ以上気を変えられたらまずい。仕方なく、素直に頷いた。

「ラムズ、」

 服をつぃと引っ張った。性欲のないコイツに媚び売って通じるとは思えないけど、やんないよりいい。

 彼が視線を落とす。青眼に薄く狐が引かれて、髪が揺れる。

「我慢しろって教えたのに」
「……うっさい。クズ」

 顎を掬い、氷を溶かしたような指先が下唇を軽く摩った。

「その返事でいいのか?」
「…………むり。アタシ、これでも頑張った」

 ラムズは傲慢値は高いくせにプライドがないんだって。アタシはあるよ、でも色欲値のほうが高いから、ちゃんと折れたでしょ。

「勘弁してやるか」

 それから、嘘みたいに冷たい唇が重なった。数ヶ月ぶりの感覚に皮膚がみるみる粟立っていく。

「……したい。……ラムズ。おねがい」
「ヤりたいだけじゃねえか」
「……うっさい」
「もう少しかわいく誘えよ?」

 あーもう。もう! ラムズの腕を引き、体に抱きついた。

「ラムズとしたい。好き。寂しかった、おねがい。もう怒んないから」

 煙に潜らせたような嗤い声が聞こえる。瞬間アタシの部屋に転移していて、ベッドに放られ、そのまま押し倒された。

「まずはキス」

 ラムズは自分の舌を覗かせ噛みちぎった。唇を合わせ、切れた舌から漏れ出す血を送り込んでいく。唾液とは比べものにならない魔力の感覚、そして記憶を封じられていたことで塞き止められていた自身の魔力が呼応して、体が生き返ったように跳ねた。
 気づいたときには舌を絡ませ、もっと血がほしいと千切れたラムズの舌に噛み付いた。すぐに噛み返され、そのままぎちりと舌を喰いちぎられた。

「ッッ、い゛。ん゛」

 びりびりと鋭痛が全身を走り抜けるのを、頬耳を包み、甘く血を攪拌するように口づけた。
 アタシは痛いのに。……でも魔力が混ざるともっと美味しくて、まるで性交してるみたいで、湿った吐息が落ちていく。

 ラムズは顔を上げると、アタシの唇から零れた銀血を舐めとった。色っぽく首を傾げる。

「次が愛?」

 ちゅ、と触れるだけの口づけを落とし、それから服を剥がしながら額や首筋、耳朶、胸元、あちこちにキスの雨を降らせた。たまにちゅうと吸い付いて赤い花を咲かせ、濡れ舌が皮膚をなぞっていく。

「ぁ、ッ。らむずっ……」

 脚を擦り合わせると、柔らかく誘うような声が鼓膜を濡らした。

「かわい。俺のシェリン」

 脚を開き、鼠径部に指を滑らせ、とっくに濡れそぼった秘口に指を添えた。くちゅ、と愛液が漏れだす。

「ぁ、ッ、」
「最後のもあげるから、ほら」

 剥き出しの男根が愛芽を潰すように何度か往復する。焦らすような動きにひくひくと奥が震え、愛涎がまた落ちる。

「もう寂しいこと言うなよ。な?」
「ん。ぇ、あ」
「ちゃんと愛してるよ。俺が作った子なんだから」

 こくん、と喉を鳴らす。
 筒先がぐっと割れ口を拡げ、蕩けた隘路にみちみちと捩じ込まれる。粘膜を擦り上げるように張った雁首が下腹部を圧迫して、そのまま根元までぐっと突き込んだ。

「んッ! っは……ぁ。あ、」

 とん、と最奥を切っ先が叩いた。魔力が巡るのを感じる。どの悪魔や魔族とヤっても魔力交差は起こるけれど、ラムズはその比じゃない。圧倒的な快味に脳髄から涎が落ちる。
 緩やかにストロークが始まり、愛液と肉襞をゆっくりと掘り抉り、内臓が持っていかれるような重たい抽挿をする。

「ぁ。っは、……は、ん、ぁ……」

 ひとつ抜き差しされるたびに愛液が溢れ、きゅうきゅうと収縮して欲棒を咥えこむ。ずぶずぶと没しては、蜜道を掻き分けて膣孔のぎりぎりまで抜いていく。ずちんっ、と肉棒が突き破り、愛液を馴染ませるように甘く擦りあげていく。悪魔の本能が刺激され、胸の底ががくがくと悦んでいく。

「『大好き』は?」

 甘く撫でるような声が聞こえ、目をぎゅっとしてラムズの腕を掴む。抱いてもらえて嬉しい。気持ちいい。これがほしかった。……でも言いなりにされてる気がして、また利用されるのかと思うと、やっぱりムカつく。

「……言う、かっ。くず。さいて、んぁ、ッ」

 彼の声がひとつ沈む。

「へえ。まだナマイキ言うなら出してやろっか」
「ん、ぇ。ぁ?」

 事の重大さもわからないまま、ラムズが青眼を妖しく曲げるのが見えた。温い濁液が放たれ、途端に痺れるような快感が走った。そのまま、濃厚な白い蜜が体に溶け込み、じんわりと魔力が巡り回っていく。くらくらと脳が酩酊し、快感とは違う心地良さが募り、安堵と幸福と美味を混ぜたような感覚に蹂躙される。

「っあ……ぁ。なに、ぁ……もちいぃ……だめ。め……め。やら。ぁ、……あ」
「美味し?」

 ラムズは頬をすりすりとなぞり、唇に蓋をする。口内の水音に頭が持っていかれて、のめり込むように舌を追いかける。

「シェリン」
「んっ……ぁ、らむ。ず、ラムズッ……」
「んー」
「おいしっ、あまくて……ぁ、……あ。しあわせ、しあわせ。わかんな、っぁ……」

 あるべき場所に収まっているような、ようやく完全体になれたような、すべての欲求と感情が満たされて──多幸感というやつだろうか。媚薬でいくら快感を引き上げてもこの感覚にはならない。ただただ心が満たされて、体が一心にコレを欲しがっている。

「らむず、らむっ、ず。ぁ。……は、もっ、と。もと、ぁ……あ、」

 蕩けきった柔肉をいじめるようにピストンが速まり、媚蜜を掻き回して悶える快感を送り込む。ずっちゅずっちゅと魔羅が出たり入ったりして、膣壁を弄び官能を掘り起こして雁で抉り上げる。ぐりゅぐりゅと子宮口を擦っては、肉の摩擦と魔力の交歓に神経が麻痺していく。

「っ。は、ぁ……あ、らむず、らむず」
「いちばん好きだろ、俺とすんのが」
「んっ。ん、すきっ、んん。……ぁ、ッめ、」

 多幸感のみならず、体のすべてを知られていて、好きなところも敏感なところも全部探り当てられてしまう。幼いころから刻み込まれた絶頂が喚び起こされ、無意識に嬌声が落ちてしまう。

「らむ、ず。ゃ……あ、らむ、ず」
「んー? ここ?」

 スポットを擦られ、また白い稲妻が走り堕ちた。

「ッッあ! ぁ。もちぃ、ぁ。ゃ……なんっ、なに……ぁ、」
「気持ちいいなー。よかったなー」

 さわさわと髪を撫でられて、いくつものキスを落とす。冷たいスタンプがまた心地よくて、すりすりと脚を擦り背中に回す。
 度重なる挿入に幾度も体が果てて、恍惚感に四肢の末端まで性感が湧いている。

「っは……ぁ。イ、っちゃ、ん。ぁ、」
「いいよ、イって」

 ばつん、ばつんと恥音が鳴って往復運動を繰り返す。粘膜の触れ合いにみるみる体が堕ちて、深い泥濘の底に溺れていった。




 気づいたら行為が終わり、ラムズの冷たい胸元に顔を押し当てられていた。ちゅ、ちゅ、ちゅ、とあちこちにキスを落とされ、ときたま唇を合わせて口内を擽られる。

「シェリン」
「ん……」

 あー……。今思い出した。ママにラムズとはヤんなって言われてたんだった。フツーにまた約束破った。それどころかアタシから頼んじゃった。
 でも約束破ってもいいくらい気持ちかったし。美味しすぎ、幸せすぎ、パパとヤんのサイコーすぎ。なーんでこんな意地張ってたんだろ、早く言えばよかった。

「アタシの使い道、ナニ」

 ──でも、ママの忠告どおり、利用されて苦しめられるのは嫌だ。

「気にしなくていいよ。愛もほしいんだろ」
「知っておかないと、唐突に最悪なコトされそう」
「もうしねえよ」

 嘘と息、間違って吐いてんのか?

「対等な関係なら、契約内容は知りたい。なにしたらいいの」
「じゃあまず、俺のものな?」
「…………定義が不明」
「かわいく『うんっ!』って言えばいんだよナマイキ娘」

 とりあえず無視をした。

「頷くと何を呑んだことになんの。縛られんの? 他の男とヤるなとか? 命令なんでも聞けとか?」
「かわいくねえなほんと。何もねえよ。頷いときゃいいんだよ」
「…………『うん』」

 ラムズは不服そうにしながら抱き寄せた。

「次。俺が困ってたら助けろよ? 俺宝飾品人質に取られると動けねえからさ」
「ん、まあ……そんくらいならいいけど」

 別に契約にしなくたって、それくらいの情はある。コイツが悪魔の中でも冷酷すぎるだけだ。

「毎日抱いてやるから、お前も何かプレゼントしろ」

 は、やっぱりね。宝飾品貢がされると思った。

「たまにって月何回。アタシこういう性格だから、金貢いでくれる男なんて作ってない」
「人間も誕生日にプレゼントとかいろいろあるだろ。月何回とか聞かれると、毎日って答えるぜ?」

 ……なんだそれ。
 強欲値が高すぎるから、選択権を委ねられると欲しいだけ答えたくなるのか。

「アタシの気分でしかあげない」

 ラムズは「ちぇ」と言って顎を頭に乗せている。でも、それ以上は何も言ってこない。……アレ、ん、肩透かしだ。

「あとは」
「終わり。また思いついたら言う」

 ……そんなテキトウな。


 ラムズはアタシの髪を撫で、額にキスを落とす。

「俺のシェリン。かわい」

 その言葉に謎に拘っているらしい。とりあえず頷いておけば、抱いてもらえるし、かわいがってもらえる。ヤるだけのフラットな関係も悪くないけど、恋愛ごっこもアタシは好きなのだ。
 ……ただ、コイツに至ってはカスすぎて似非も似非すぎる愛なところが問題なワケで。

「やっぱ愛はいらない」
「……ん?」

 アタシは胸元で小さく零す。

「おまえドクズだから、かわいいとか言われても、なーんも心響かない。他のヤツとヤるときは愉しいけど、ラムズにはずーっと『嘘だもんなー』って思っちゃう」

 悪魔は誰も彼も愛なんてない。でも、アタシにもよく体を重ねる友達のような悪魔はいて、そいつとヤるときは好きって言うし、かわいいって言われる。愛してるとも。人間ならさらに、好かれてるのも愛されてるのも本当だと思える。

 でもコイツにはなんにもない。キスやセックスは〝本当〟にできても、愛は無理だ。


 ラムズは少し体を離し、頬をすり、となぞった。

「じゃあ本当のこと教えてやる」
「ナニ」
「……ちゃんと愛してる。大事だよ。これからもずっと愛してやる」

 溜息。アタシが手離したら、価値がなくなったら、どうせまた他人に戻る。んなこと言ったらアタシだって、コイツの〝美味しい〟が消えたらどうでもよくなるんだけど。……でも、それが消えることがないから困ってる。

「俺の本来の姿は知ってるよな。だがほとんど今の姿で通してるからな、魔力が覚えていたのか、お前はこの姿に似たらしい。目元も、髪色も、肌質、バイカラーのその青も──全部俺に似てる」

 なんか、語り始めた。

「俺は宝飾品が好きだから、それに似合う姿を作ったんだ。要は、この今の姿は俺の理想形であり、誰よりもかっこいいと思ってる」
「……へえ。自分で言うんだ?」
「事実そうだろ?」

 アタシは視線を逸らし、ふっと笑う。
 ラムズは愛おしそうに目を細め、額にキスをした。

「だからシェリンはかわいい。俺の思う完璧な姿だ。だから愛してる」

 愛の根拠ソレ? よっっっわ。絶対今捻り出したじゃん。

「嘘だと思ってんな」

 頬を抓られる。

「この前使い終わったとか言ってたでしょーが」
「まあまあ。あんときはあんとき。今は本音」

 コイツ……嘘つかないと死ぬ病気にでもかかってるワケ?

「俺の魔力注いで、俺の知識を与えて、グレースからもらった人間性は全部消した。お前の好きなセックスは一から百まですべて俺が染めたし、悪魔の生き方は俺譲りで、悪知恵も魔法も俺が教えた。俺の理想の姿だ、弱い悪魔にしたくなかった」

 あ、その根拠、まだ押し通すんですね?

「……愛を百倍くらい希釈してる?」
「あ゛? グレースの百倍重いわ」

 ママに謝れ。
 アタシは溜息を吐いた。

「……それより、なんでおまえとヤると美味しいの? ママを犯してるときは聖魔力の美味しさしかなかったのに。これもなんかしてる?」
「これもってなんだよ」

 頬を軽く引っ張られる。

「俺が魔力注いだって言っただろ。シェリンの中にはほとんど俺の魔力しかねえの。だから元のオリジナルに戻ってきた気がして、一体感を覚えるんだろ」

 はっとして目を瞬いた。そうだ、そう言われるとしっくりくる。魔力の相性がよすぎるんだ、だから魔力交差の質も高くて──え、そんならやっぱり、コイツもその甘露を感じてるはずだよね?

「……ラムズは? 美味しくないの?」
「んー? まあまあ」

 まあまあ……? 快感がなくとも魔力交差は起こるし、相当な多幸感があるはずだ。その証拠に、今だってずっと抱きしめたまま首筋に顔を埋めている。

「俺のシェリン」
「おまえのシェリンなら、もっと早く抱きに来いよ。なんで酷いことされたアタシが頼みにいかなきゃいけねーのよ」
「俺はヤれなくてもいいからな」

 そう言って唇を合わせ、唾液を呑み込むように角度を変えて口づけていく。そのまま仰向けに寝かせ、優しく脚を取り、湿ったままの秘部に肉茎を押し当てる。ずず、と重たいソレが入り込んで、底知れぬ一体感に体が跳ねた。

「ぁッ……らむ、らむず」

 ヤれなくていいって今言ったよな。また嘘? もーわからん。コイツの脳みそ、一周まわって空っぽ?

「愛してるよ。嘘じゃない。愛してる」
「ん、ん……。ッ、は……ぁ」

 うるさいうるさい。嘘のくせに。
 あー気持ちいい、嬉しい。ラムズとするのがいちばん好き。しっくり来る。幸せを感じる。大好き。

「シェリンは?」

 甘い煙のような低音が耳を擽る。腕を伸ばして抱きついて、彼の冷たい温もりに包まれる。

「……言うかばぁか♡」

 ラムズは顔を上げ、目を胡乱に細めて唇に親指を引っ掛ける。

「お仕置き待ちか? 言わせるまでやめねえからな」

 彼は喉に冷たい指爪をかけ、脳が霧に沈むまで首を絞め、ナカをめちゃくちゃに嬲った。

 ──クソ、今は媚びておくんだった。




 ラムズの体が心地いい。放精後も嵌めたままにしろと言ったら、「面倒くせえな」と言いながらそのままにしておいてくれた。

「ずっとこのまんまがいい」
「ん?」
「繋がったまま、もう布団から出ないことにする」
「一週間くらいなら付き合ってやる」
「百年」
「なが」

 ……ん、一週間なら付き合ってくれんの?

 そのあと「愛してる」と言って抱きしめてきた。自分の愛が原液だとまだ主張する気らしい。やっすい愛なんだろうな、だから水みたいな薄味なんだ。

「じゃあさ。アタシが死にそうになったら、助けてくれる?」
「そりゃな」
「命を張って?」
「あ? 張れってか?」
「ママならそうする」

 ラムズは胡乱に目を細める。

「お前もしねえだろ」
「そりゃあね。でもラムズはパパじゃん? パパは娘を守るものじゃん?」
「あー? パパじゃねえよ。お前のパパは死体だろ」

 ラムズはくつくつと喉を鳴らしている。

「あれがパパぁ? いくらクソ野郎でもラムズのほうがマシ。五ミリくらい」
「五ミリかよ」

 幼体期、ラムズは「パパとかお父さんって呼ぶな」と言っていた。親という枠に収められて、自分のそばからいなくなるのが嫌だと言っていた。父親じゃなくて恋人のほうがいいとも。
 変わってる。てか、キモ。

「これからずぅーっと毎日、抱いてくれる?」
「んー」

 気のない返事。

「アタシに使い道なくなったら?」

 青い眼がわずかにしなり、甘く陰った。

「またお願いしに来て?」

 またプライド折れって? コイツの魔力、不味くなればいいのに。


 アタシの唇をすり、と鉤爪が引っ掻いた。

「なあ、シェリンからは一度も愛してるって聞いてねえけど?」

 おまえの薄味に返す必要ある?
 別にアタシのだって愛じゃないけどサ。ただ気持ちいいだけだ。一緒にいると心地よくて、幸せってだけ。それがほしいから、今はここにいる。

「なんのために。今もラムズ超心冷えきってるでしょ。演技しなくていーって」
「してない。超あったかい」

 ……雑か。

「……好き」
「あとは?」
「大好き。ロリコン淫獣クソ蛆虫」
「……間接的に自分のこともディスってるからなそれ」

 ラムズは呆れたように笑う。

 なんか、よくわかんないけど。
 ラムズはアタシに愛してるって言われたいらしいし、愛を信じてほしいらしい。
 誤魔化されたけど、あとは何を頼まれんだろ。知らぬ間にまた搾取されんのか。……まあでも、毎日抱いてくれんなら、ある程度は許してやるしかない。

「シェリン」

 コイツは相も変わらず、声色だけは〝愛してる〟みたいな音を出す。
 血の代わりに毒でも詰まってんじゃねーかってくらい冷血無慈悲なカス野郎だけど……まあ、ちょっとくらいノってみるか。アタシだって、叶うなら愛らしいものをもらってヤるほうが愉しいんだから。

 アタシはそっと零した。

「……おまえのシェリンだよ。愛してあげる」

 ラムズの眼が薄く笑い、唇を合わせた。
 
「もっかいシたい?」
「んー」

 ラムズは体を起こした。青い瞳が見下ろしている。冷たくて人を寄せ付けない、硬質な青。ママの金色の瞳は美しい。でも、こっちのほうがしっくりくる。

「悪役♂×少女アンソロジー」主催です。主催なので悪役ぶりと悲壮感ぶりと倫理観終わり具合が生半可だと見せる顔がないなと思って本気出したら、誰が楽しめるんだろうという小説になりました。
ラムズにガチで引いた方がいるのではないかと震えております……。ラムズだから書けて萌えてしまった自分が末恐ろしいです。

ラムズとは、別小説の『愛した人を殺しますか?――はい/いいえ』というダークファンタジー小説で海賊の船長をやってる男です。海外児童書ファンタジーです♡ 今回はその二次創作として、〈悪魔 七つの大罪ver.〉で書いてみました。

加虐心ないとか性欲ないとか、カメレオンや鏡のように自分の性格や振る舞いを変えるという彼の〝本質〟などは、原作通りです。
自分の姿へのコンプレックスなども実は原作通りですので、愛殺世界でシェリンが産まれたら同じことをするでしょうね。


今回のシェリンちゃんの物語は、同人イベント「文学フリマ東京41」で新刊として発行することになりそうです!!
書き下ろし番外編等を入れつつ、書き下ろしイラストも用意しています。ラムズの思惑や、このあとのシェリンの行動など、後日談的なものを書く予定です。(文字数が足りなかった…)過去編とかももっと詳しく書きたかったんです、泣く泣く削りました…泣

また「書籍を買う方の特権」として、ブックカバーや、私の小説を集めると楽しいスタンプカードチケットなどなど、おしゃれなグッズをたくさん入れて「新刊セット」にする予定です。
コミティアやデザフェスが好きな方、玩具箱みたいな本が欲しい方はぜったいに後悔させませんので、ツイッターで情報発信をお待ちくださいね♡



なお私は「悪役を浴びる本」という短編集書籍版も出しています。装丁がめっちゃオシャンなほか、犠牲者が王様だったり女の子同士だったり、ラムズが悲しい目に遭ってたりなど、よりどりみどりな悪役話が読めるので、このアンソロが最高に楽しかった方&ラムズを気に入った方はぜひ♡(『悪キス』の非公開書き下ろしも入ってます〜!)

現在受注生産受付中で、11月〜12月頃発送予定。(『愛殺』も売ってます)



感想一言でも長文でも待ってます!! 好意的な意味で「最低すぎて笑いました」と言われるのも嬉しいですし夢女も大歓迎です。質問くれたらなんでも答えます。妄想ネタもお好きに書いてください♡

BACK

6/

6