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和語探検記

鉄砲をパソコンにもちかえて

030) 「かみ神」の由来と「(km/kb)子音コンビ」

2015-01-27 00:01:06 | 語誌
 二拍語の二子音をまとめて見る「子音コンビ」の考え方を二拍語「かみ神」の語源を考える過程を通じて説明しよう。日国の「かみ神」の語源説欄には13個もの説が紹介されているように、まさに諸説紛々である。ここではまず「増補 日本語の語源」(平凡社ライブラリー729 2011年)によって著者阪倉篤義の考え方を見てみたい。

 阪倉説は、多くの傍証によって固められ、複雑な手続きを経ているが、結論は簡明である。即ち、「かみ神」は、”隠れる”という意味をもつ二拍動詞「くむ」から派生したところの”隠れたところ、奥まったところ”を意味する名詞「くま隈」が、神に供える「くましね奠稲」や神が宿る「くまの熊野」などに見られるように、いつか神の意をもつようになり、それが母音交替というプロセスを経て「かみ神」が成立した、というものである。従って、「かみ神」は、人前には決して姿を現すことのない「隠れたるもの、奥深く隠れた存在」を意味する、と言う。(因みに、新井白石は著書「古史通或問」の中で「くまの熊野」は「カミノ(神野)」の転としている。)

 また阪倉は、昔から唱えられてきた「かみ神」と「かみ上」との関係を否定しない。「かみ神」と「かみ上」には「み」をめぐって上代特殊仮名遣いにおける甲・乙の違いがあり、乙類の「み」をもつ「かみ神」と甲類の「かみ上」は互いに無関係であるとする議論がある。これについて阪倉は、奈良時代の文献に記載された日本語において、「神」と「上」とが形態的に異なる語であったことは疑う余地はないとしつつも、「そのことと、両者が語源的に関係を持つか否かとは、別問題のはずである」とする。

 さらに、『カミ(上)というのは、シモに対して、一連のものの始まる所、本源を意味する語であった。それは現にある所から遡って起源を言う概念であって、「奥深く距って見えない所」を意味する語カミを以て、それを表わしたのである』とも言っている。

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 さて、以上は前置きであって、阪倉による神の語源にかかわる議論をもとに、この問題を、私の「子音コンビ」法で見るとどうなるか、「子音コンビ」法とは何かを説明するのがここの目的である。

 二拍語「かみ神」は、これを敢て乙類母音によって表記すれば(kamï)となる。しかし、本書では和語を子音を中心に眺めているので(kami)で差し支えない。ここから子音コンビを取り出すと(km)となる。子音コンビ(km)をもつ拍の組み合わせは、全部で次の25個ある。

かま かみ かむ かめ かも
きま きみ きむ きめ きも
くま くみ くむ くめ くも
けま けみ けむ けめ けも
こま こみ こむ こめ こも

 これらの25組(語)のうち、実際に和語として存在した、また存在しているものを拾い出してみると、ざっと次のようになるであろう。

かま:釜/竃/鎌/蒲   かみ:上/神/髪/紙  かむ:屈む/噛む/神/被る かめ:亀/甕  かも:鴨/賀茂
きま:        きみ:君       きむ:決む       きめ:肌理   きも:肝
くま:隈/熊      くみ:組       くむ:屈む/汲む/組む  くめ:久米   くも:雲/蜘蛛
けま:        けみ:        けむ:煙        けめ:     けも:
こま:駒/独楽/高麗  こみ:        こむ:屈む/込む     こめ:米    こも:薦

 ここで注意を要するのは、和語では、マ行音とバ行音は、「かま蒲」と「かば蒲」のように、通々で通い合うことである。そのため、マ行音やバ行音を含んだ語を考えるときは、同時に相手の音に置き換えて考える必要がある。

かば:蒲/樺/椛   かび:黴       かぶ:株/蕪/被る      かべ:壁   かぼ:
きば:牙      きび:黍/吉備     きぶ:          きべ:    きぼ:
くば:配る     くび:首       くぶ:焼ぶ/屈ぶ      くべ:焼   くぼ:窪
けば:       けび:        けぶ:煙         けべ:    けぼ:
こば:木庭     こび:媚       こぶ:媚ぶ/瘤/昆布    こべ:    こぼ:

 これらを眺めていると、いくつか気づくことがあり、それを整理してみる。

1)「かむ」「くむ」「こむ」の近似性
 二拍動詞「かむ」「くむ」「こむ」が非常によく似ている。どれも”腰を曲げて姿勢を低くする”意を表わしている。”前屈みになる”である。第一拍の「か」「く」「こ」の母音が異なるだけで、意味はほとんど同じで、同語と言えるほどである。これらを動詞進化図に展開し、かつ動詞からハネ出した名詞を添えると次のようになるであろう。始原時代の一拍語「か、く、こ」や二拍時代の「かむ、くむ、こむ」とその頭積動詞「かがむ、くぐむ、こごむ」を経て三拍語「かまる、こまる、こめる、こもる」などに長語化する過程が見てとれる。

か-かむ(かがむ)-かまる      (かまり物見、伏せかまり)
         -かむる
く-くむ(くぐむ)          (くま隈)
こ-こむ(こごむ)-こまる(籠まる/困る)
         -こめる(籠める)
         -こもる(籠もる) (こも薦)

 阪倉が上記の文章で指摘している動詞「くむ」は、三組の(km)縁語動詞「かむ、くむ、こむ」のうちのひとつであったのである。これらの動詞には”腰を曲げて姿勢を低くする、屈む”意しか認められないが、二拍名詞「くま隈」や「こも薦」が存在するところから、阪倉は”(身を低くして)隠れる”意があったとするのであろう。

 蛇足であるが、三拍動詞「かまる」は、草むらに身を隠して獣(獲物)を狙う猟師の意である「伏せかまり」などの存在により確かである。また今日言うところの「困る、困った」は、上の動詞進化図に見られるように「こむ」のハネ動詞と見られ、本意は(主体が)どこかに押し籠められることで、その結果身動きがとれなくて「こまる(困る)」ことになった、ということと考えられる。


 因みに、上記の二拍動詞群『「かむ」「くむ」「こむ」』には、平行して類似の二拍動詞群『「かぐ-かがむ」「くぐ-くぐむ」「こぐ-こごむ」』が存在するのである。これも、上記と同様、こちらも”腰を曲げて姿勢を低くする”意をもっている。これらを合わせ考えることによって、おそらく「かみ神」の「か」を説明する一拍語「か-く-こ」の真意が得られるはずであるが、あまりに詳細にわたるので、ここでは深入りしない。

2)「かむ/かぶ-かむる/かぶる被」と「くま隈」と「くも雲」
 阪倉は上記の文章で「くま隈」と「くも雲」の関連を述べている。「くも雲」をどのように見るかが悩ましく、黒いもの、隠すもの、被せるもの、覆うものなど、どれをとってもどれかの二拍動詞と関連するが、どれもぴったりこない。「くも雲」の解明が進むまで結論は保留とせざるを得ない。

3)「かみ/かむ神」と「きみ君」の近似性

 さて、肝心の「かみ神」についてであるが、「かみ/かむ」は異形語の関係と見て、上記のリストにある「きみ君/公」という語に目が止まる。日国の「きみ」の語源説欄には「カミ(上)と通じる〔日本釈名・和語私臆鈔・玄同放言・言元梯・大言海〕」の紹介もあり、「かみ」と「きみ」は、もとは同語ではないかとの思いが募る。
 いささか語学を離れるが、われわれ日本人は、明治時代以降知らず知らずのうちに「かみ神」の語に西洋世界の強烈な一神教の神のイメージを重ねるようになっているであろう。しかし和語の「かみ神」は、それとはまったく異なって、あくまでも高潔で優れた或いは特異な能力や性格をもった人格神の「かみ/きみ」であって、飲み食いをし、現れては隠れる存在である。何人いても問題ではない。私は、日本人にとっては、集落ごとにある「wuぢがみ(氏神)」がもっとも原初的な理解しやすい神であろうと見ている。これは「血筋(血族)の神」の意であるが、この「かみ神」には阪倉や上記の語源説が言うように「かみ上」の意が籠められているであろう。「かみ神」は、狭くは身近な血縁集団の礎をなし、そのままこれを引率する人物であり、広くは和人という大きな集団の祖であると同時にこれを統率する。「かみ」と「きみ」は別人ではない。これを語学的につなぐものが(km)子音コンビである。

 試みに記紀や万葉集に頻出する「かみ神」を「きみ君」と読み替えてみればよく分かるのだが、非常に新鮮で、何の抵抗もなくすんなり受け入れられる。これも「かみ」と「きみ」の本来の同一性を示すひとつの材料となるであろう。

4)「かみ髪」と「かみ上」
 頭の毛の「かみ髪」は、「かみのけ」とも言うように、身体の「かみ上」にあるから「かみ」というとする説が圧倒的である。異論はない。

5)「おほかみ狼/大神」と「くま熊」
 けものの「おほかみ狼」は、これはおそらく「おほかみ大神」であろうが、本来の名はこのような複合語ではなく、最長でも二拍の単語であったはずである。空想であるが、それはひょっとして「かみ」で、「くま熊」と(km)縁語関係にあると考えられる。

6)「くむ組」「くばる配」
 「くむ組」と「くぶ-くばる配」は同語である。分水嶺を言う「みくまり水配」は、言うまでもなく「みくばり」である。大もとにあるはずの一拍語「く」は、今のところ分からない。或いは、”巣を懸ける”意の「すくふ(す巣+くふ)」の「くふ」がこの「く」縁語かも知れない。

く-くぶ(配ぶ)-くばす
        -くばる
 -くむ(組む)-くます
        -くまる

7)「くぶ-くべる焼」「けむ-けぶる/けむる/けむり煙」
 これらが(km/kb)縁語らしいことは一見して分かる。それは分かるのであるが、これだけ見ていても全体は見えてこない。実は、これは「あぶる炙」や「いぶす」などとともに、「燃える」という根本的な意味をもつ一拍語「ぶ/む」をとり囲む一群の語のひとつだったのである。詳細は一拍動詞「ぶ/む」の項を参照乞う。

 ふたつの子音コンビ(km)(kb)のリストを作成してみることによって、上記のようなさまざまな語と語の関連を得ることができた。まだ見落としがあるであろうし、もちろん誤りもあるかも知れない。しかし、この試みによって、和語には、一拍語では言い尽くせないことを”二拍”語に託して三拍語につなぐという傾向(或いは原理)が見られると言えるであろう。