399 ステリアおばさん
カルクの案内についていくと、大通りはすぐだった。仲間のいる場所に案内されるようなこともなく、最後もフランに深々とお辞儀をして去っていった。よほどフランが怖いらしい。
大通りにさえ出てしまえば、10分も歩かずに冒険者ギルドの看板が見えてくる。
『ようやく到着か。にしてもあまり大きくないな』
「バルボラより小さい」
王都の規模から考えて、相当大きなギルドを想像してたんだけどな。むしろバルボラの半分くらいしかない。いや、アレッサやウルムットのギルドに比べたら大きいんだが、それでも俺たちの想像よりだいぶ小さかった。
『まあ、とりあえず入ってみよう』
「ん」
建物自体の規模はバルボラに負けているが、さすが王都の冒険者ギルド。内部の重厚な雰囲気は中々のものがあった。
巨石を組んで作られた武骨な建物なのだが、冒険者ギルドのエンブレムを刺繍した巨大なタペストリーや、ワインレッドの絨毯、使い込まれていい色合いになった木のカウンターなどが華やかさと優雅さを加えている。なんというか、歴史の重さを感じさせるっていうの?
バルボラギルドの受付が高級リゾートホテルっぽい感じだったのに対して、こちらは老舗の上流階級向けのホテルといったところか。
カウンターは用途によって分かれているようだな。バルボラギルドのように案内役がいる訳ではないが、カウンターの上には看板で説明が書いてるのでわかりやすい。
俺たちは取りあえずランクC、D冒険者用のカウンターに並ぶことにした。前には熊のような大男が並んでいる。
大男はチラリとフランに視線を向け、口を開いた。
「嬢ちゃん、ランクは?」
「ん? C」
「そうか」
フランが冒険者カードを見せると、男はそれで納得したらしい。嘘だとか、贋物だろうとか言わなかった。フランの強さを感じ取ったというよりは、どうせ受付で調べれば真贋はハッキリするし、面倒ごとにはかかわらないでおこうというのだろう。それに、フランが弱くはないと感じ取ってもいるのだと思う。
だが、納得できていない者たちもいる。隣のランクF、Gの列に並んでいた冒険者たちだ。憧れの中級者レーンにフランのような小娘が並んでいるのが不愉快であるらしい。特にランクFの冒険者たちはようやく駆け出しを卒業したイケイケの者が多いので、今にもフランに絡んできそうな気配がある。
それを察して声を上げたのが、ランクB、A用の受付にいた恰幅の良いおばさんだった。お世辞にも元美女という感じではない。
言っちゃ悪いが、大きな冒険者ギルドにしては珍しく、受付を美女で揃えているわけじゃないようだ。
だが、見ればなぜこの女性が受付をしているのか分かる。メチャメチャ強そうだったのだ。いきり立っているランクF冒険者たち程度、あっさりぶちのめせるだろう。多分、元高ランクの冒険者だ。高ランクの冒険者は癖が強いし、その相手をするための受付の人員として能力優先で選ばれたに違いない。
「お嬢ちゃん。もしかして噂の黒雷姫かい?」
「ん」
黒雷姫の名はここまで伝わっているのか、フランが頷くと冒険者たちが騒めく。ほとんどの奴は疑っているな。
「なるほど、じゃあ、こっちに並んでいいよ」
「いいの?」
「ああ。12歳にしてランクC。しかも武闘大会でランクA冒険者と元ランクA冒険者を立て続けに破った超新星。少しくらい特別に扱っても文句は出ないさ。それに、こっちのレーンは暇なもんでね」
「わかった」
にしても、このおばさんは王都のギルドでかなりの発言権があるらしいな。フランが異名持ちの冒険者であると自ら認めても、それをおばさんがあっさり受け入れても、周囲の冒険者がつっかかってくるようなことはなかった。多少の疑いはあるのだろうが、おばさんが言うなら文句は言えないといった雰囲気だ。
「よろしくね」
「ん。わたしはランクC冒険者のフラン」
「わたしはステリアだよ」
「ステリアおばさん」
おいおい、色々と危ないネーミングだな!
(どうしたの師匠?)
『いや、何でもない。ただ、クッキーを作るのが上手そうだと思っただけだから』
「?」
ステリアが用件を聞いてくる。フランは取りあえず、バルボラのギルドマスターであるガムドから預かっている紹介状を差し出した。
「オークションに参加したい。これ、紹介状」
「ほほう? ちょいと失礼するよ?」
「ん」
ステリアは紹介状を開くと、そのまま内容を確認する。まあ、フランに対して最大限の便宜を図ってやってほしいと書いてあるだけだけどね。
ただ、署名の横に押されている紋章の判が重要であるらしい。何やら魔力も感じるし、現にステリアもその紋章を水晶にかざしている。
「本物だね。ガムド様の直筆紹介状とは恐れ多い」
「ガムドを知ってるの?」
「ガ、ガムド様を呼び捨てかい……。良いかい、あの竜墜のガムド様なんだよ?」
「知ってる」
「知ってないよっ! あたしらの世代にとっちゃね、竜墜のガムド様、竜狩りのフェルムス様、竜転のディアス様、竜縛りのエイワース様といえば、伝説的なパーティなんだからね?」
ステリアが聞いてもいないことまでべらべらと説明してくれる。彼女が駆け出しの時にランクAパーティとして活躍していたガムドたちは、憧れの存在であるらしかった。
彼らは各地を巡っては、竜を狩るという武闘派パーティだったらしい。ガムドとフェルムスの強さはこの目で見ているし、ディアスも鑑定したことがあるが相当やるはずだ。そこにさらに同格の仲間がもう1人いたんなら、竜くらいは狩れるに違いない。まあ、竜の種類や脅威度にもよるだろうけどね。
ただ、このパーティは結成から5年ほどで解散してしまう。まず、ディアスがウルムットのギルドマスターに就任することになり、パーティを抜けたのだ。その後、エイワースという魔術師とガムドたちの意見が合わなくなり、喧嘩別れのような感じで解散してしまったらしい。
エイワースってどこかで聞いたことがある気がしていたんだが、武闘大会の後にフランを無理やりギルドに勧誘しようとした魔術師ギルドの名前だ。エイワース魔術師ギルド。過激な地下組織みたいなギルドだという話だったが、名前からしてそのエイワースって奴が作った組織なのだろう。
フェルムスは妙に内情に詳しい様子だったが、元々仲間だったら当然なのかもしれない。ディアスが妙に魔術師ギルドを敵視していたのも、パーティを組んでいた時期の確執が原因だろうな。
エイワースという魔術師は、氷雪魔術と死毒魔術を使う人間種の男だそうだ。会いたくはないけど、もし出会った時にはこの2種類の魔術に注意しよう。
「あっと……ちょいと話し込んじまったね」
話し込んだというか、ステリアが一方的に話し続けていただけだが。フランは「ん」という言葉以外は発していない。とはいえ、散々好きなことを話して満足したのだろう。ステリアが冷静さを取り戻す。
「こりゃあ、アタシの一存じゃどうにもできんし、ちょいと上の者を呼んでくる。そこの椅子にでも腰かけて待っていてもらえるかい?」
「ん。わかった」
ステリアが席をはずした後、冒険者たちは遠巻きにフランを観察していた。彼女の影響力は強いらしく、声をかけてくるようなものはいない。まあ、面倒がなくていいか。
『じゃあ、お茶でもしながら待つか』
(ん)
フランが自分の次元収納から、お茶とお茶請けを取り出す。
『あれ? お茶って言ったよね?』
(ん)
確かに飲みものはお茶だ。紅茶を飲んでいる。でも、テーブル狭しと並べられた料理はなんだ? いや、分かるよ。お茶請けのつもりなのだろう。
パンケーキとクッキーとパイはいいだろう。パンケーキはカレーに並ぶフランの大好物の1つだしな。みたらし団子と大福も、紅茶のお茶請けにはどうかと思うが、なしではない。ステーキも、獣人の伝統としてギリ許す。
ただ、カレーとチャーハンと炊き込みご飯はどうなんだ? 完全に食事じゃね? しかも全部ご飯ものだし。
「うまうま」
『……フラン、サラダも食べような?』
「ん。わかった」
栄養はバランスよく摂取しないとね。