東京在住の女性Ｓ様から「全然理由はないのですがお会いしたいです！一歳の赤ちゃんもいるのですが、◯◯まで遊びに来ませんか？」とご連絡をいただいた。私の正しい使い方である。様々な人に会い続ける中で、会った瞬間に「あ、この人とは揉めるな」と出会い頭にわかるようになった。Ｓ様と合流した瞬間「血を見ることになる」と思った。誰か俺のことを監視カメラで撮影しててくれないかなと思った。渦中にいる人にとっては地獄だが、客観的に見たらものすごい面白い映像が撮れると思う。毎回、斬り合いを交わしている。

私は「なんとなく連絡をしました」と言う人と揉める傾向が強い。理由はないとか言いながら、本当はある。本当はあるのに、それを隠して表面的な会話をする。会ってみたかっただけなんですと言われると「俺は動物園のパンダか。だったら見物料を出せ」と思う。動物園との違いは柵がないこと。動物も太陽も、近づき過ぎると殺される。車でＳ様の家に案内されたが、地獄の沈黙が続いた。よくよく考えてみて欲しい。初対面の人間の家に初対面の人間の車で連れていかれるのは、軽い拉致だ。私は拉致を引き受ける。引き受けるからには、殺されることも引き受けている。こちらとしては、それくらいの覚悟でやっているのだ。

Ｓ様は「緊張して言葉が出てこないので、帰っていただいていいですか」と言った。ものすごい言われようだなと思った。私は、できるだけ優しく「俺をなんだと思っているのですか」と聞いた。Ｓ様は「お会いしたら野生動物と一緒にいるような感覚になって、聞きたかったこととか話したかったことが全部吹き飛んでしまった」と言った。質問の答えになっていないと思ったが、そこを詰めたら死者が出ると思って「そうですか」と言って、私たちは別れた。車で送ると言われたが、それを断って駅までの道のりを歩きながら考えた。

普通なのはＳ様で、私が狂人なのだと思う。誰も狂人になりたいとは思わない。ただ、狂人が近くにいるのなら、会ってみたいと思うのはわかる。多くの人は「生活のためには働かなくちゃいけない」と言う。私は「だったら生活しなければいいじゃん」と思う。この段階で、狂人認定となる。やりたいことをやればいい。それで生きていけなくなったら死ねばいい。家族も友達も恋人も要らない。できたらラッキー。いなくてもオッケー。家族も友達も恋人も嗜好品。多くの人は「誰かの役に立たなければ生きていけない」と言う。私は「それなら俺はどうなるのだ」と思う。誰の役にも立っていないが、生きている。生きている事実より、これをやらなければ生きていけないと思い込まされている幻想を信じる方が狂気だと思うと言うと「それは坂爪さんだからできることです」と一線を引かれて、めでたく狂人扱いをされる。

自分に嘘をつきながら生きていたら、自分のことを嫌いにならないのかなと思う。自分を信じることができないから、人のことも信じることができないんじゃないのかなと思う。とか言いながら、私は私を信用していない。毎日「俺ってなんなんだろう」と思う。信用はしていないが、信頼はしている。色々な目に遭うが、それがあっての現在の自分だ。結局、ビビっているだけじゃないか。もっともらしい理由を並べて「できない」とか言うけれど、結局、ビビっているだけじゃないか。さみしいけれど、狂人のままでいいや。そう思っていたら、Ｓ様からメールが来た。たまたま今回はこうだっただけのこと。手を離さなければ、コミュニケーションは続く。生きることも死ぬことも、命の遊びだ。また遊ぼう。死ぬまで遊ぼう。