ソニーグループが2月にブルーレイディスク(BD)など光ディスクの生産を終えたことで、愛用してきたユーザーの間に動揺が広がっている。BDを取り巻く市場環境や今後の見通しについて、ITジャーナリストの西田宗千佳氏は「ハードが売れなくなれば、役割を終える可能性は高い」と指摘する。
一問一答は以下の通り。
マニアのための趣味に
――BDの規格策定や普及で業界を牽引したソニーが、パナソニックに続いて撤退したことで、光ディスクは終焉に近づいているといえるか
「これは大きく誤解されている。生産をやめたのはパナソニックとソニーだけで、シェアも大きくはない。需要が減ったことに加え、ディスクの生産技術が一般化し、製造機械を導入すればどのメーカーでも生産できるようになったことで、両社のビジネスとしては割に合わなくなったということだ。他社は生産・販売を継続するので(市場全体は)急激には変化しないと思われる。だが、そもそも録画機器の販売が落ちてきており、『ハードが売れなくなれば役割を終える』という可能性は高いだろう。ただ、代替手段がないのでBDの役割がなくなるわけではない」
――放送番組をメディアに記録してライラブリー化する、日本独自ともいえる「文化」もなくなっていくのか
「恐らく終焉に向かうだろう。というよりも、デジタル放送になってから、どんどん縮小傾向にあり、ディスクでライブラリーを作るという人は既に少数派だ。そもそもライブラリー化は、正規販売作品の価格が恐ろしく高かった(家庭用ビデオテープレコーダーの)VHS時代を軸としている。DVDになって画質が上がったことで頂点を迎えたものの、その後にDVDやBDで供給される作品の価格が下がり、入手も楽になったため、ライブラリーとして録画を残すという人が減少した。文化としてはもう10年以上前にとどめを刺されている」
「一方、今では録画先のほとんどはハードディスクドライブ(HDD)になったたが、HDDに『年単位で録画を残す』という人は少数派で、ほとんどがHDD上での『見て・消し』。ユーザーのニーズにも合っていて、BDもDVDも使わない。なので『見て・消し』を軸にした録画文化は減りながらも残るが、「『ディスクでライブラリーを作る』という文化はニッチでマニアのための趣味、という小さな領域になるだろう」
「映像を売る」は底堅いものの
――2016年に登場したBDより高画質の「ウルトラHDブルーレイ(UHD BD)」の普及も進んでいない
「UHD BDにはもともと記録ディスクの規格がないので、UHD BDの普及状況と、ソニーなどが記録型BDを売らなくなったこととは関係ない。録画とは全く別の観点で考える必要がある。UHD BDはハイエンド規格として登場した経緯もあり、BDやDVDほど普及するとは見込まれていない。『ディスクメディアで映像を売る』ビジネスは底堅い需要があり、動画配信では代替できないので、簡単になくなることはない。ただ、一定のニーズはあるものの、今後急拡大することもないだろう」
――BDレコーダーがHDDや半導体を使った記憶装置「ソリッドステートドライブ(SSD)」などに役割を代替され、メーカーが撤退を迫られる時期はいつか
「1年以内は絶対になく、数年以内の可能性も低い。HDDやSSDでは代替できていない状況に、ここ数年は変化がないからだ。HDDやSSDは『見て・消し』には使えても、ライブラリーにして残す用途には向かない。記録型のDVDやBDは20~30年くらいで製品寿命が来ると想定できるが、HDDやSSDは稼働させずに保存しておくと数年で駄目になり、ディスクを代替するものでもない。ただ、BDレコーダーは新機種が出なくなってきており、(ユーザーは)同じ機種を数年間使い続ける傾向が強くなっている。5年先に生産終了を選択するメーカーが増えている可能性は否定できない」
――BDの需要減は、HDDやSSDの大容量化も影響したのか
「録画とディスクメディアの話は分けて考えてほしい。DVDであろうとBDであろうと、ディスクメディアの需要が縮小した要因は、景気と動画配信。録画メディアの大容量化などは、あくまで『見て・消し』の用途であり、ライブラリ化とは関係がない」
――著作権者らへの補償金を上乗せする「私的録音録画補償金制度」の対象に、BDレコーダーやディスクが追加された影響もあるか
「数円単位だと価格転嫁ができずにメーカーの負担になるので、ディスクメディアの販売をやめる要因の一つになったかもしれない。だが、既に数量が減っているので、大きな影響はない。制度をBDに適応したところで、そもそも補償するほどの影響はないので、私的録画補償の役に立ち、利益を還元できるほどの額にはならない」(聞き手 村山雅弥)