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396 セルディオのその後


 キアラについて語った後、今度はフランがディアスに話を聞いていた。オーレルとルミナはすでに退出済みだ。


「セルディオって男について聞きたい」

「その言い方、まるで覚えてないみたいだね」


 すまんディアス、フランは本当に覚えてないんだ。自分から俺を取り上げようとして死んだムカつく貴族という覚え方はしていたが、名前や顔などは完全に忘れていた。まあ、フランにとってその程度の存在だったってことなのだろう。


「もしかして、アシュトナー侯爵から接触でもあったかい?」

「ない」

『だが、ウルムットを発ったら、次は王都にいくことになっている』

「なるほど。オークションか」

「ん」


 フランは、鍛冶師のガルスがアシュトナー侯爵家の極秘依頼を受けた直後から行方が分からないことを話した。


「そうか、彼がバルボラに行ったとは聞いていたが、まさか行方が分からないとはね」

『鍛冶用の素材をアシュトナー侯爵家が集めてるらしい』

「ほほう? ガルス君を連れて行ったアシュトナー侯爵家が? それはきな臭い」

『一応、王都でガルスと会う約束をしてるんだ。場合によっちゃ、そこに侯爵家がからんでくるかもしれん。だから、セルディオの件をどう処理したのか、フランに関する情報がどう相手に伝わっているのか、知りたい』

「そういうことか」


 俺たちがセルディオと揉めた後、ディアスはまずセルディオの従者をちょっと強めに尋問して、情報を引き出したらしい。


「いやー、こちらのほぼ希望通りの情報を聞き出せたからね」


 この、希望通りの情報を聞き出すっていうのがなかなか恐ろしい言葉だよな。フランは気付いていないけど、誘導尋問で都合のいい情報だけを言わせたのだろう。ディアスならお手の物にちがいない。


「前だと、こう上手くはいかなかっただろうね」

「どういうこと?」

「アシュトナー侯爵家の傘下にオルメス伯爵という貴族がいるんだが、その息子が本当に邪魔でね。嘘を見抜くスキルを持っていて、非常に重用されていたんだ」


 あれ? どっかで聞いたことがある話だな。嘘を見抜くスキル?


「アルサンド子爵という男だったんだけど、知ってるかい? 確かアレッサにいたはずだから、面識があってもおかしくはないと思うけど」


 やっぱり! 俺が虚言の理を奪った、あの馬鹿子爵だ! オーギュスト・アルサンド。親は確かオルメス伯爵。間違いない。


「この子爵のスキルが本当に厄介でね。虚言の理っていう、嘘を見抜くだけじゃなくて嘘を信じ込ませる効果まであるんだ。もしそいつが、そのスキルを偏った使い方をしたらどうなると思う?」

『偽証し放題だろうな』

「そうなんだ。例えば、セルディオの従者がした証言を、その子爵が嘘だと言えば、どんな情報を引き出したとしても嘘の証言だったことにされてしまうんだ」


 実際、オーギュストは似た使い方をして、フランを嵌めようとしやがったからな。


「ただ、そのアルサンド子爵がある日突然嘘を見抜くスキルを失ってね。スキルが無ければ無能な問題児でしかなかった子爵は蟄居。オルメス伯爵家は凋落した。そのおかげで、アシュトナー侯爵家に証言の真偽で横槍を入れられることも無くなったってわけさ」


 アルサンド子爵から虚言の理を奪ったのは、フランを嵌めようとしたことへの意趣返し程度のつもりだったんだけどな。まさかここでその話が関わってくることになるとは……。


「魔薬の物証もあったし、言い逃れはできない。まあ、セルディオは子爵としての地位を持っているから、その罪は彼のレセップス子爵家が負うことになる。侯爵家そのものを罪には問えないが、ギルドの関係者は別だ。セルディオに与していた忌々しいギルドマスターたちは、全員これさ」


 ディアスが自分の首をトントンと叩く仕草をする。単にクビにしたという意味ではないだろう。物理的に首を落とされたに違いない。


 ディアスはこうやって話していると好々爺というか、にこやかなスマートダンディ爺さんなんだが、長年ギルドをまとめてきたやり手でもある。権力を奪い合う政敵相手に容赦はしないだろう。


「セルディオの死に関しては、フラン君のことは出来るだけ伏せるようにしている。あの場に居合わせた者たちにも、エルザ君から強く言っておいた。まあ、全く隠すことは難しいだろうけどね」

「それは仕方ない」

「だから、代わりに色々な噂を流しておいたんだ」

『色々な噂?』

「ああ、セルディオが死ぬきっかけとなった呪いの魔剣の持ち主は人間の冒険者の女性であるとか、実は僕だとか、フォールンド君だとか、そんな感じだね。中には黒雷姫の剣のせいで死んだっていう本当の噂もあるけど、君はこの都市では有名人だ。むしろその名前が噂されることは当たり前だし、それが真実だと思う者は少ないだろうね」


 木を隠すなら森の中。そういうことか。


「それに、セルディオの死そのものよりも、その後の尋問や追及の方が注目度は高いからね。そちらで活躍したフォールンド君や僕の方が注目度は高いと思うよ?」

『それって、ディアスやフォールンドは大丈夫なのか?』

「あはははは、平気平気。これでもランクAだよ? 冒険者とは言え、国への影響力も強いし、戦闘になればギルド全体を敵に回す。侯爵家だって、馬鹿な真似はしないさ」

『だったらいいんだが……』

「まあ、それでも完全にフラン君の関与を隠せたとは言い難い。アシュトナー侯爵家と関わる時には気を付ける事だね」

「ん。わかった」


 ディアスに話を聞いた後は、ウルムットで最後の情報収集だ。まあ、ダンジョンへと戻ったルミナのところへ行くだけだが。転移を使えばすぐである。ギルドで別れた時に後で訪問することは伝えてあったので、準備万端で出迎えてくれた。


 最初に話すのは、ミューレリアの顛末についてである。キアラについては散々語ったが、もう1人の黒猫族について、ルミナには語っておくべきだろう。


 だが、ルミナの反応は俺たちが思うような激しいものではなかった。懐かしさと悔悟の念が混ざった、苦々しい表情を浮かべて俯いてる。すでにいなくなった人物という認識だったのだろう。


 ルミナにとってミューレリアは500年前の人物であった。しかもかつての主筋であり、邪神によって人生を狂わされた被害者としての面も知っている。


「そうか……ミューレリア、様が……」


 その心中にどんな想いが渦巻いているのかは分からないが、ルミナはしばらくの間、静かに涙していた。


 その後、フランとウルシがお茶とステーキを食べている間に、俺は落ち着きを取り戻したルミナと別室に移動した。ルミナの向かいの椅子にはさすがに座れんので、テーブルの上に失礼する。


『すまないな。ちょっと聞きたいことがあったんだ』

「フランたちには聞かせられない事なのか?」

『うーん、そういう訳じゃないんだが……』


 俺は、ミューレリアと交わしたダンジョンについての会話をルミナに聞かせた。そして、俺自身が混沌の女神の眷属であり、ダンジョンマスターに課せられた縛りの影響がないということも語って聞かせる。


『前にルミナが、進化の情報をフランに伝えられなかったことがあるだろ? もしかしたら俺だけだったら普通に話せていた可能性がある』

「なるほど」

『だから、フランがいない方がルミナが情報を喋りやすい可能性がある。とりあえず俺とルミナだけで話を聞かせてもらえないか?』

「よかろう。それで、何が聞きたいのだ?」

『混沌の女神の眷属って、何なんだ?』


 女神自身にも、ミューレリアにも言われたが、いまいち意味が分かっていない。混沌の女神の関係者ってことは分かるんだが……。


「眷属とは何かと言われてもな……。神の眷属とは、その神が手ずから作り出した存在や、その神から力を受けとったものを指す言葉だ」

『俺の場合はどうなんだろうな?』

「ふむ……。それはさすがに分からんが、混沌の女神の眷属ということは、ダンジョンに何らかの関係がある可能性が高いと思うぞ」

『そうなのか?』

「他の神々と違い、混沌の女神様はダンジョンを通してしか現世との関わりがない。混沌属性の魔術はダンジョンマスターがダンジョンを操作するための術であるし、混沌の女神様は過去に生物を生み出したという話も聞かないからな。私が知る限り、混沌の女神様の眷属は、ダンジョンマスターか、その配下のモンスターや生物だけだ」


 つまり、俺もそのどちらかってことになるのだろうか? ダンジョンマスターではないだろう。ということは、俺を生み出すにあたってダンジョンの力が使われた? それとも俺の中に封じられている謎の魂さんとかが、混沌の女神の眷属?


『結局、よく分からんな』



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