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ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

オートハープの祈り

2006-04-30 05:10:12 | 北アメリカ


 (演奏者・Bryan Bowers)

 オートハープ。アメリカ合衆国白人民謡の故郷と言ってしまっていいと思うんだけど、アパラチア山系に見受けられる民族楽器である。四十数本の弦を持ち、机の上に置いたり腕に抱えたりして演奏が出来る簡易ハープ。

 和音演奏のためのバーが付いていて、それを押さえれば、とりあえず和音演奏が出来てしまうので、非常に簡単な楽器ともいえるのだが、ひとたびメロディを奏でようとすれば至難の楽器に姿を変えるという不思議な代物。わが国では”フォークグループ、「五つの赤い風船」のヒット曲、「遠い世界に」で使われた”との説明が一番早いか。

 中欧に、映画”第三の男”のテーマ音楽演奏で知られるチターなる楽器があるが、あの楽器のハープ様部分だけ取り出して和音バーを取り付けたみたいに見える。実際、アパラチア山系で、そのようにして生まれた楽器なのではないか。

 爽やかで可憐な和音の響きが身上のこの楽器、私が始めてであったのは、60年代に活躍したアメリカの民謡系ロックバンド(?)、”ラビン・スプーンフル”が使用していたのを見て、であった。リーダーのジョンが抱きかかえた竪琴みたいな楽器が発する”シャラーン”てな和音が印象的だった。

 その時以来、いつか自分も演奏してみたいと考えているのだが、いまだ、楽器を入手していない。買う気になれば国産で2万円台からあるのだが、40本近くの弦のチューニングと言うのはいかにも面倒くさそうで、それが理由に手が出せずにいる。

 今、目の前にあるオートハープのCD数枚。いずれも、Bryan Bowers なるミュージシャンによるアルバムである。オートハープの演奏を思い切り聴きたい、オートハープを主戦武器としている演奏者はいないのかと捜し求めて、とりあえず出会ったのが、このBryan Bowers だった。

 取り上げられている曲はいかにもアパラチアというか、ヨーロッパより新大陸にもたらされた当時の民謡の姿をとどめる、素朴なオールドタイムものがメインである。”スコットランド”などの地域名を含む曲が散見されるところを見ると、演奏者のルーツがあのあたりなのか。

 そのハザマに、亡くなったシンガー・ソングライター、フィービ・スノウを偲ぶ曲などを忍び込ませているあたり、Bowers のいるポジションが想像される。おそらく、フォークブームに沸きかえっていた60年代のニューヨークはグリニッジ・ビレッジの、芸術好きなリベラルの若者たちの年老いた生き残りなのであろう、彼は。

 そもそもが素朴な楽器であるオートハープの、ほとんど弾き語りが中心のアルバムばかりである。地味である。演奏者の Bowers は、確かに達者な腕の持ち主と認められるのだが、しょせん、オートハープ自体がオモチャに近い楽器ゆえ、華麗なテクニックと言う印象には成り難い。どこまでも素朴、純朴な響きは、続けて聞いて行くと、ヨーロッパから新大陸にやって来たばかりの移民たちのささやかな祈りの音楽の印象が強くなってくる。

 例えば”レッド・リバー・バレィ”なんてコマーシャルなお茶の間ソングまでが、不思議に宗教色を帯びて聞こえてきたり。
 いや、実際、遠い昔にアパラチア山系に生きた人々のささやかな祈りや願いが、この素朴な楽器の響きの中に音魂として染み込んでしまっているのではないか。そんな気もしてくるのである。





6 コメント(10/1 コメント投稿終了)

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ユニーク (massh@まー)
2006-05-01 21:25:33
オートハープってこのことですか。

古いRockに使われていたような。。

画像は初めて見るし、弾き方はびっくりです。

そういえば (マリーナ号)
2006-05-02 02:01:33
ほ~。まーさんが聞かれた古いロックって何だったんでしょうね?

そういえばルネッサンスのメンバーの誰かが、この楽器のエレクトリック化にご執心だなんて話を聞いたことがあるんですが、まーさんご存知ではないですか?
すばらしい洞察他 (小坂@十勝産)
2006-05-23 22:29:01
はじめまして。古い記事へのコメントですいません。

当方、趣味でオートハープを弾いているものです。



「遠い昔にアパラチア山系に生きた人々のささやかな祈りや願いが、この素朴な楽器の響きの中に音魂として染み込んでしまっているのではないか」というのは味のある洞察だと思います。

実際、アメリカの歴史をたどると、イギリスからわたってきた経緯から、上記のように想像されるのも適合するところが多いのではないかと思われます。



ところで「四十数本の弦を持ち」というのはほとんど聞いたことがありませんでした。もっとも普及しているタイプは36本で、ほとんどが36から38本というのが実情と思っていました。



また、「オートハープという名称も実はドイツ方面の楽器会社の商標で、クロマハープという呼び方が本来であるとも聞いた」というのも初めてお聞きしました。「オートハープ」はOS社のアメリカでの登録商標であり、クロマハープは東海楽器の製品の名称だったと思います。



さらに「しょせん、オートハープ自体がオモチャに近い楽器ゆえ、華麗なテクニックと言う印象には成り難い」ということですが、楽器制作上はおもちゃというには難しいことが多く、どの製作者もその張力と音質の狭間で苦労して製作しています。演奏的テクニックに関しても、BryanやJoAnnSmithをヘッドホンなどでじっくり聞き、カーターファミリーとの演奏と比べて見てください。



書いたことが批判めいて響いたらなすいません。
どうもありがとうございます (マリーナ号)
2006-05-24 03:57:55
小坂@十勝産さんへ



いらっしゃいませ。また、貴重なご指摘、ありがとうございました。

オートハープは、そうですね、36弦でしたね。北欧の、オートハープ風の楽器の弦の数と取り違えて覚えていました。こちらは、記事を訂正させていただきます。また、オートハープ=クロマハープの名称の由来も、ずっと以前に人から聞いたものをうろ覚えのまま書いていました。こちらは削除いたします。

「オモチャ」の件、これは、私の耳にはそう聞こえる、と言うものでありまして、楽器職人諸氏はじめ、オートハープ関係者にはご不満の向きもあるかと思いますが、「大衆文化の現場においては、高級な芸術品よりオモチャの方が素晴らしいものと信ずる」との私の価値観もあっての表現であります、どうかご容赦お願いいたします所存です。

どうもありがとうございました。
こちらこそありがとうございました (小坂@十勝産)
2006-05-24 08:35:27
おはようございます。

不要なコメントだったかもしれませんが、寛大に解釈頂きありがとうございました。

「オモチャ」の件は、「大衆文化の現場においては、高級な芸術品よりオモチャの方が素晴らしいものと信ずる」との価値観でらっしゃるとのことですばらしいと思います。

これが文章から読み取ることができたなら、楽器製作者などもとてもよろこぶに違いありません。



ちなみに、多数弦のチューニングのために入手を考えているとのことですが、最近は良いチューナもでており、また特にファインチューナー機構を有するオートハープではチューニングは以前に比べ格段に楽になっています。

是非とも、オートハープを入手され、その味わいを楽しんでください。



ありがとうございました。
どうも! (マリーナ号)
2006-05-25 03:31:38
いろいろ恐縮でした。

また何かありましたら、よろしくお願いいたします。