大西洋の北、アフリカ西海岸の沖合いに浮かぶ小島、カーボベルデ。かって大航海時代に、ポルトガルの航海者がそこに降り立ち、その地の領有を宣言した。その後、ヨーロッパとアメリカ大陸とアフリカの三角地帯を結んで行われた、陰惨な奴隷貿易の中継基地として賑わいもした、ほの暗い過去を持つ島国。今は世界史の裏通りで静かに午睡のときを過ごしているように見える。
ポルトガルが足跡を残した多くの国々の例に洩れず、この島国にも独特の大衆音楽の発展があった。その音楽の名を”モルナ”という。大西洋を挟んで、同じポルトガル語文化圏に属する大国、ブラジルの音楽と多くの共通点をモルナは持つ。あの、”サウダージ”と呼ばれる哀愁味を、モルナもまた、濃厚に含んでいる。
だが、ブラジル音楽がその身内に抱え込んだ広大な大地の豊穣の代わりに、モルナには、いかにも島国の音楽らしく、海の気配がある。吹きぬける潮風の香りがある。その、ウエットでありながら外海に向かって開けている感性のありようが、カーボベルデの音楽の大きな特徴であり魅力である。
今回取上げる”ルイス・モライス”は、カーボベルデで広く愛されていたクラリネット奏者とか。一昨年亡くなり、このCD、”Boas Festas”(”素敵な祭り”とでも訳すのだろうか)は、その追悼の意を込めてリリースされた作品のようだ(内容は67年度作品のボーナストラック付き再発とのこと)
そんな予備知識がなければ、彼が吹いているのがクラリネットとは分からなかったろう。非常に図太く硬質な音色であり、私には最初、ソプラノ・サックスに聞えた。
そんな音色で吹き鳴らされる、ラテンの香り豊かな哀愁味の濃いメロディ。おそらく現地では庶民の気のおけない場において、ダンス・ミュージックとして機能していたのだろう。
彼の音楽からは、西欧風のドラマティックな構成美を、あまり感じない。どちらかといえば露骨な起伏を持たない、ある種アジア的な、殷々と鳴り渡り続ける”音曲”のありように近い。それは始まり、川の流れのように穏やかにただ流れ過ぎ、やがて時が来たれば消えて行く・・・
ジャケに水彩画で描かれたモライスは、茶色に枯れ果てた大地の隅っこに開けた小さな漁村の、ちょっと寂しい風景の中、一人佇んで愛用のクラリネットを奏でている。風に吹かれて砂粒とともに、漁村の人々の生の孤独が舞うような、そんな風景の中で。
どうもご指摘、ありがとうございます。私にとってこのルイス、これが初対面のミュージシャンで、何の情報も持ち合わせないと同様の状態でした。さっそく、記事内容を訂正させていただきました。
それにしてもこの日本に、ルイスのようなミュージシャンに以前より注目し、聞いてこられた方がおられると言う事実、驚き、また感動いたしました。これからもご指導のほど、よろしくお願いいたします。