「無能の武器化」という言葉を、最近よくSNSで見かけます。特に家庭内での家事育児の分担をめぐって使われており、「料理は苦手」「おむつの交換は無理」などとできないふりをして、相手に負担を押しつける行為を指すようです。この言葉が広まった背景を、社会学者の藤田結子さんと考えました。
不平等な分担 世代が変わっても
「無能の武器化」(weaponized incompetence)という言葉は、私が調べた限り2020年代に米国のSNS上で流行し、その後、日本に入ってきたようです。その元となる言葉に「熟練した無能」(skilled incompetence)や「戦略的無能」(strategic incompetence)がありますが、これらは職場で使われ始めた言葉です。
「無能の武器化」自体は新しい言葉ですが、家庭内で家事育児の負担が女性に偏っている問題は、古くから存在しています。米国の社会学者A・R・ホックシールドも、1989年に出版した「セカンド・シフト」で、共働き家庭で家事を頼まれた夫があれこれ理由をつけて妻に押しつけようとする姿を取り上げています。「自分は得意じゃないから」と言うのは、家事や育児を回避したい男性がよく使う方法です。
ケア労働の不平等な分担に関…