毎年、夏の終わりには「今年こそは海辺のビア・ガーデンで沈み行く夕日など見ながらのんびりロス・インディオス・タバハラスを聞いてみたかったが、やっぱりダメだったなあ」とか思うのだった。まあ、いまどき、BGMにロス・インディオス・タバハラスをかけているビア・ガーデンもないだろうから、仕方ないのだが。まさかラジカセとか持って行って強引にかけるわけにも行かないじゃないか。
昭和30年代、日本ではラテン音楽のブームがあったようで、それは日本の洋楽よりもむしろ歌謡曲の世界に多くその残滓を刻んだようだ。ラテン風演歌というものは歴然と存在しているし、ムード・コーラスグループにも、その原型をラテン・バンドに持つと推察されるものも珍しくない。
あの頃、町にも普通にラテンのヒット曲が流れていたと、私の子供のころの記憶に残っている。買い物に行く母親についていった、その帰り道。母が友人との無駄話のために立ち寄った喫茶店でBGMとして流れていたのが、決まってロス・インディオス・タバハラスだったような気がする。
ガットギターにより、装飾音を多く使った、まるで零れ落ちんばかりの甘美さで演奏されるラテンの名曲の数々。テ・キエロ・ディヒステ。ソラメンテ・ウナベス。アモール。ジャズ曲だが名演だった、スターダスト。そして出世作の、マリア・エレナ。
ロス・インディオス・タバハラスはアメリカ大陸先住民の兄弟二人によって構成されたギター・デュオのチームであり、その出身は。
と、ここで彼等のベストアルバムを取り出してその出身地を検めた私は、彼等がブラジル東北部の出身であることを今頃知って唖然としたのであった。南米は南米でもスペイン語圏に出自を持つ曲をレパートリーの中心においていたタバハラスであり、私はてっきり彼等をメキシコあたりの出身であるとこの歳まで信じ込んでいたのだ。それを頭において聞き直してみても、ブラジル曲の”イパネマの娘”などは、それほど”決まった”演奏とも思えず、やはり彼等の音楽上のホームグラウンドはスペイン語圏の南米のどこかと信じたくなる。
というか、そもそも彼等は”血”で考えればそのどちらとも縁はないアメリカ大陸先住民、”インディオ”であって。そうなのだ、彼等の体内に流れていた”血”が歌っていた歌は、どんなものだったのだろう。ラテン・メロディの甘やかな機微を奏でることを天職としていたかのようなインディオスであるが。
ブラジル曲ばかりではない、先住民文化の色濃い”鐘つき鳥”などというレパートリーもまた、達者ではあるが、彼等のずっと後に国際的認知を受けることとなるフォルクローレのミュージシャンたちの演奏と比べると、やはり何か違う、という思いにとらわれてしまう。やはりタバハラスはラテンの曲を甘く華麗に聞かせる時が一番だなあ、と。ラテンの曲。ヨーロッパからある日突然やってきて彼等の土地を奪い、居座った異邦人たちの音楽だ。本来は。
今年も、海辺のビアガーデンという理想のコンディション(?)でロス・インディオス・タバハラスを堪能する、そんな願望は満たされぬまま夏は行ってしまった。
”時代”もあったろう。また、彼等自身のショー・ビジネスへ向けての考えもあったかもしれない。先住民の民族意識と、それを反映した音楽。なんてややこしい概念を持ち出し、押し付けるのもまた、そもそもがよそ者の勝手で余計なお世話のセンチメンタリズムじゃないのか。
私の部屋に置かれたラジカセから小さな音で、インディオスの”ラモーナ”が流れている。ロス・インディオス・タバハラスの最初のヒット曲、”マリア・エレナ”がアメリカ合衆国においてヒットし、彼等が国際的成功を手中にしたのは1963年の夏のことだという。やがて思い出は歴史へと呼び名が変わってしまうだろう。どんな事を思いながら彼等は”ラテン音楽のスター”をやっていたのだろうな、その頃。
いいことです♪
ところで、無知な私に教えてください。
ラテン音楽って、サンバやサルサ、マンボのことでしょうか?
ラテン民族の音楽だろうとは思うのですが、具体的にはよくわからないんです。
私は、PFMとかイ・プーとかも混ぜちゃっていいんじゃないかと思っております。
ロス・インディオス・タバハラスの想い出は、なんと言っても『シャボン玉ホリデー』でしょう。番組の最後にザ・ピーナッツが出てきて歌う『スターダスト』。。。否、待てよ、あれはタバハラスというより、ナット・キング コールの『スターダスト』をお手本にしたんだったかな。。。
否、否。確かタバハラスも1回出てきて、ピーナッツとやった残像が記憶に彼方にあります。2x2の4人が凄く幸せそうな顔で歌い演奏していたような。。。
ところで、現在の日本でタバハラスの曲が流れるとしたら、どんなシチュエーションになりますか。。。やはりNHK関連のFM放送の午後の調べとか云う様な番組になるんでしょうか。。。だとしたら、完全に時間が止まったままですよねぇ。。。
どうも、今日もご遠方よりありがとうございます。
そうですねえ、日本人がスターダストと言う曲にもっとも親しかったのは、シャボン玉ホリデーのエンディングのあの瞬間だったでしょうねえ。
ザ・ピーナッツが歌っていたのはタバハラスのヴァージョンかキング・コールの方か?難しい問題ですね、今思い出してみると、どちらの方にも通ずるものがあるような気がしてくる。なんか、ピーナッツもハナ肇も捌けてしまった後に、タバハラス風のギターだけ聞えていた回もあったような記憶も。
タバハラスとピーナッツの共演は、まったく記憶にありません。見逃してしまったんでしょうね。惜しいことをしました。
今、タバハラスが流れるシチュエーション・・・ラジオの深夜放送等で、中高年向けのものが受けているって聞きますんで、こちらが知らないだけで、その方面では日常的に流れていたりして。まあ、時間が止まったままであるのは同じことですが。
そういえば思い出しました、昔、湾岸戦争が地上戦に突入した夜、NHKのラジオが深夜にナット・キング・コールの特集をやってたんです。偶然、それにチャンネルを合わせ、キング・コールのバラードが壮絶な美しさに聞えたのを覚えています。