ウーゴ・ディアス(HUGO DIAZ ・1947-1998)、アルゼンチンのハーモニカ・プレイヤーである。基本的にはフォルクローレのフィールドの人だが、お国柄でタンゴの録音もかなりあり、そちらでも高い評価を得ている。
人は言う、”ハーモニカのジミヘン”と。奔放ではちきれそうな情感のこもったプレイは、確かにその称号がふさわしいと言えるかもしれない。透徹した叙情と、沸き上がる激情との間を激しく行き来するイマジネイティヴな演奏は壮絶である。
フォルクローレのナンバー中、切なく愛らしいメロディの佳曲といった感じだった「アルフォンシーナと海」「サンタクルスの港」などといった曲もウーゴの手にかかると激する感情の発露、猛り狂う熱情の嵐の様相を呈する。
最高音域に駆け上がり、また一瞬にして最低音に舞い降りる。激し過ぎる演奏によってかかる負荷に、ハーモニカがひしゃげる様が目に見えるような気がする。タフさで言ったら、黒人たちのブルース・ハープとサシで十分に勝負が出来るだろう。そして勝ち目は充分ある。
余談。ある音楽誌にウーゴが、”盲目のハーモニカ奏者”と紹介されていたが、これは間違い。幼い日に目を病み、失明しそうになった体験を持ってはいるが、そしてその治療のための入院生活が彼にハーモニカを手にするきっかけを与えさえしたのだが、彼が盲目となった事実はない。
彼の残した録音を聞いていると、演奏の合間に時折、ウッ!アッ!なる唸り声が聞える。これは、酒豪の彼がいつも一杯機嫌か、あるいは二日酔いで苦しみながらの録音を行っていた故、とのこと。当然というべきか、この天才は酒が原因の早逝をした。
まあ、これだけ前のめりの濃い情熱に駆られつつ生きていたら、それは不摂生による早死にでもしなければ収拾がつくまい、などと訳の分からない説明を試みてみたりする。