「グループにおける大規模資金調達のための債券発行手続きは、ほぼ完了し、第1弾の債券発行を行っております。順調に進めば、11月の半ばに発行される見込みで、その額は日本円にして300億円規模となります」──。
10月31日、投資家に一斉配信したメールで資金調達の進捗を報告したのは、共生バンクグループ代表の栁瀨健一氏。そのわずか20日前、大阪府と東京都の行政指導を受けて、「第三者譲渡契約」と称する取引提案の撤回に追い込まれたばかりだが、改めて「みんなで大家さん」事業への執着を示している。
だが、その台所は火の車だ。7月末に主力の「シリーズ成田」で分配金の支払いが停止したのを皮切りに、9月以降は他の「大家さん」商品にもトラブルが拡大。日経不動産マーケット情報が把握した範囲では、現行のファンド39本のうち、実に34本で分配金が止まっている。なかには、すでに契約上の元本償還期限を過ぎた商品も出ており、年金生活者を中心とする、約4万人の投資家の動揺は収まる気配がない。
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出資金の返還を求める動きも本格化している。被害対策弁護団を組織するリンク総合法律事務所によると、11月5日に提訴に踏み切った第1次集団訴訟には1191人の投資家が参加。請求額は114億円あまりで、1人あたり約1000万円となる。弁護団では第2次訴訟の準備も進めており、11月18日以降に投資家向けの説明会を開催する方針だ。
同事務所の小幡歩弁護士によると、過去には出資者全体のうち2割程度が集団訴訟に参加するケースが多かったという。「みんなで大家さん」に当てはめれば、最終的な参加人数は8000人と、同様の事例において最大規模の集団訴訟に発展する可能性もある。
明かされた原価表の存在
共生バンクの現状をよく知る関係者の証言によると、すでに事業者の手元に現預金はほとんど残っておらず、総額600億円の価値があると主張する物件の売却も進んでいない状況。2000億円を超える投資マネーはどこに消えたのか。
謎の解明に向けた鍵の一つになり得るのが、ここに示した成田商品の原価表である。日経不動産マーケット情報は、共生バンクグループが大阪府・東京都を訴えた、一連の訴訟の記録からその存在を把握。行政への情報公開請求や計画地全域にわたる登記の確認、徹底した現地調査を併用して、内容を詳細に分析してきた。その結果を下の図表に示す。
共生バンクは、2019年に成田市から地区計画決定、次いで開発許可を取得。この時点ですでに、ゴルフ場関連企業の買収を通してまとまった面積の土地を確保しており、十数人の地権者から残りの区画の買収を進めていた。
例えば、1484m2の山林(上の地図中央「1」)は19年3月、当時の地権者から約2036万円で取得。翌20年11月の「シリーズ成田1号」発売の際、25億3500万円で対象資産に組み入れた。当初、1m2あたり1万4000円弱だった土地単価は約171万円に。一連の取引を経て、土地の評価額は124倍に跳ね上がった。
なお、「シリーズ成田」は24年2月発売の18号まで存在するが、上記の原価表に掲載されているのは、文書の時点で運用が始まっていた14号まで。日経不動産マーケット情報は15号以降の土地の価格についても、登記簿で確認した取引日付や売り主の属性などを手がかりに可能な限りの推定を試みている。
ウェブサイトなどで公開されている各ファンドの土地評価額の合計額、2473億円あまりに対して、取得原価の総額は36億5000万円程度と推定した。原価の大小に関わらず、ファンド組み入れ時点の土地単価は1m2あたり171万円程度で、倍率は50〜125倍に達したことが確認できる。
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