『World Diary』 Tony Levin ☆☆☆☆
トニー・レヴィンは私が最も敬愛するベーシストである。ちなみに私もベースを弾く関係でこの楽器にはうるさい。これはそのトニー・レヴィンの最初のソロ作である。
トニー・レヴィンと言えばキングクリムゾン、そしてピーター・ガブリエル・バンドである。この二つの、それぞれにロック音楽の頂点を極めたかの如き音楽集団の中で中核を担うベーシストであることからしても、彼の実力は明らかなのだ。彼のスタイルは非常にユニークである。ただ、決してバカテクではない。スティックなどで超人的な演奏を見せることもあるが、基本的に彼はテクニックに依存したベーシストではない。そして、こういうプレイヤーはかなり珍しいと思うのだが、曲に合わせてころころ楽器を変える。つまり、「いつもの音」を常に出してくるのではなく、曲に合った音をその都度準備してくる。私が思いつくだけでも、普通のエレクトリックベース、フレットレスベース、アップライトベース、スティック、シンセベースを操る。普通のベースでも指弾き、ピック弾き、チョッパー、そして専売特許のファンク・フィンガーズ、と非常に多彩な演奏法を駆使する。
ちなみにファンク・フィンガーズというのは、右手の人差し指と中指にドラムのスティック状の棒を装着し、そのスティックでベースの弦を叩くという奏法である。非常にアタックの強いパーカッシヴな音が出る。チョッパーの親指で弦を叩く時の音を、更に強くした感じだ。二本の指で可能なので、これを連打するとまるでベースの弦をドラマーが叩いているような面白い音が出る。これはトニーがある時ドラムのスティックでベースを叩いているのを見て、ピーター・ガブリエルが指に付けてやってみたらと言ったことから始まったそうだ。
まあとにかく、彼の演奏方法は非常に多彩ということだ。それでいてどの音もトニー・レヴィンの音なのである。もうトニー・レヴィンはあの音が素晴らしいのであって、ごちゃごちゃ早弾きなんてしなくても一発音を出せばそれでOKみたいなところがある。私の推測では、彼は演奏というより音そのものに対するこだわりが強いベーシストなのだ。だから欲しい音を得るために多彩な奏法を駆使するし、音を作り出す上で非常に柔軟な発想をする。そういう意味で、彼は非常にロック的なベーシストだと思う。
そのレヴィンの初ソロである本作は、色んなミュージシャンとのセッションを集めた作品になっている。セッション相手はサックス、琴、パーカッションなど色々。クリムゾンのビル・ブラッフォードも混じっている。ツアーで世界中を回る合間を縫って、ホテルや家で録音されたらしい。だから曲は作り込まれたというよりほとんどワン・アイデアの単純なもので、演奏も即興的だ。そういうわけで非常にリラックスした、パーソナルな感じのするテイク集になっている。レヴィンも例によって色々楽器を使い分けて楽しんでいるようだ。
はっきり言って曲は大したことないので、レヴィン好き以外の人が聴いてもあまり面白くないかも知れない。とはいえ、レヴィンが好き放題に弾きまくってファンを喜ばせるCDかというとそうでもない。レヴィンの演奏もかなり力が抜けていて、むしろパートナーとの調和を心がけているようだ。かなり淡々とした印象がある。こういうところもレヴィンの人柄というか、初のソロ作だというのにプレイヤー・エゴのようなものをあまり出してこない。演奏が醸し出す情緒が最重視されている。内省的で、瞑想的な情緒だ。環境音楽に近いものを感じる。曲のシンプルさ、繰り返されるフレーズ、リラックスした演奏、静けさ。
特に印象に残ったのは、一曲目のスティックの音、アップライトベースのウニョウニョした音でのつつましくも繊細なソロ、琴の響き、ファンクフィンガーズのアタック音の気持ち良さ、などである。夜寝る前に聴くと非常に良い。レヴィン好きの私にはたまらないCDなのである。
ちなみに、私の知り合いがNYで音楽関係の仕事をしていて、そのコネでSMAPのアルバムのオケ録りを見学させてもらったことがある。SMAPのアルバムに興味はなかったが、さすが売れっ子、ものすごい豪華メンバーでオケを録るのである。そしてその中にトニー・レヴィンがいたのだ。二曲でベースを弾くという。
スタジオで待っていると、ものすごい気さくな感じでふらっと入ってきた。何度かリハーサルして、まず一曲目を普通のベースを指弾きで録音した。目の前でトニーがベースを弾いている、それだけで私は涙目になりそうだ。もう一曲は、何か違った感じにしたいということで、ファンクフィンガーズが出てきた。うおおおおお。私は興奮のあまり思わずうなっていた。そして演奏。この曲はその日は録音しないで終了した。次回はスティックを持ってくると言っていたのが、私は仕事で二回目はいけなかった。残念だった。
でも、私はトニー・レヴィンのベースにこの手で触れた。そしてこのCDジャケットには、トニー・レヴィン直筆のサインがあるのである。
トニー・レヴィンは私が最も敬愛するベーシストである。ちなみに私もベースを弾く関係でこの楽器にはうるさい。これはそのトニー・レヴィンの最初のソロ作である。
トニー・レヴィンと言えばキングクリムゾン、そしてピーター・ガブリエル・バンドである。この二つの、それぞれにロック音楽の頂点を極めたかの如き音楽集団の中で中核を担うベーシストであることからしても、彼の実力は明らかなのだ。彼のスタイルは非常にユニークである。ただ、決してバカテクではない。スティックなどで超人的な演奏を見せることもあるが、基本的に彼はテクニックに依存したベーシストではない。そして、こういうプレイヤーはかなり珍しいと思うのだが、曲に合わせてころころ楽器を変える。つまり、「いつもの音」を常に出してくるのではなく、曲に合った音をその都度準備してくる。私が思いつくだけでも、普通のエレクトリックベース、フレットレスベース、アップライトベース、スティック、シンセベースを操る。普通のベースでも指弾き、ピック弾き、チョッパー、そして専売特許のファンク・フィンガーズ、と非常に多彩な演奏法を駆使する。
ちなみにファンク・フィンガーズというのは、右手の人差し指と中指にドラムのスティック状の棒を装着し、そのスティックでベースの弦を叩くという奏法である。非常にアタックの強いパーカッシヴな音が出る。チョッパーの親指で弦を叩く時の音を、更に強くした感じだ。二本の指で可能なので、これを連打するとまるでベースの弦をドラマーが叩いているような面白い音が出る。これはトニーがある時ドラムのスティックでベースを叩いているのを見て、ピーター・ガブリエルが指に付けてやってみたらと言ったことから始まったそうだ。
まあとにかく、彼の演奏方法は非常に多彩ということだ。それでいてどの音もトニー・レヴィンの音なのである。もうトニー・レヴィンはあの音が素晴らしいのであって、ごちゃごちゃ早弾きなんてしなくても一発音を出せばそれでOKみたいなところがある。私の推測では、彼は演奏というより音そのものに対するこだわりが強いベーシストなのだ。だから欲しい音を得るために多彩な奏法を駆使するし、音を作り出す上で非常に柔軟な発想をする。そういう意味で、彼は非常にロック的なベーシストだと思う。
そのレヴィンの初ソロである本作は、色んなミュージシャンとのセッションを集めた作品になっている。セッション相手はサックス、琴、パーカッションなど色々。クリムゾンのビル・ブラッフォードも混じっている。ツアーで世界中を回る合間を縫って、ホテルや家で録音されたらしい。だから曲は作り込まれたというよりほとんどワン・アイデアの単純なもので、演奏も即興的だ。そういうわけで非常にリラックスした、パーソナルな感じのするテイク集になっている。レヴィンも例によって色々楽器を使い分けて楽しんでいるようだ。
はっきり言って曲は大したことないので、レヴィン好き以外の人が聴いてもあまり面白くないかも知れない。とはいえ、レヴィンが好き放題に弾きまくってファンを喜ばせるCDかというとそうでもない。レヴィンの演奏もかなり力が抜けていて、むしろパートナーとの調和を心がけているようだ。かなり淡々とした印象がある。こういうところもレヴィンの人柄というか、初のソロ作だというのにプレイヤー・エゴのようなものをあまり出してこない。演奏が醸し出す情緒が最重視されている。内省的で、瞑想的な情緒だ。環境音楽に近いものを感じる。曲のシンプルさ、繰り返されるフレーズ、リラックスした演奏、静けさ。
特に印象に残ったのは、一曲目のスティックの音、アップライトベースのウニョウニョした音でのつつましくも繊細なソロ、琴の響き、ファンクフィンガーズのアタック音の気持ち良さ、などである。夜寝る前に聴くと非常に良い。レヴィン好きの私にはたまらないCDなのである。
ちなみに、私の知り合いがNYで音楽関係の仕事をしていて、そのコネでSMAPのアルバムのオケ録りを見学させてもらったことがある。SMAPのアルバムに興味はなかったが、さすが売れっ子、ものすごい豪華メンバーでオケを録るのである。そしてその中にトニー・レヴィンがいたのだ。二曲でベースを弾くという。
スタジオで待っていると、ものすごい気さくな感じでふらっと入ってきた。何度かリハーサルして、まず一曲目を普通のベースを指弾きで録音した。目の前でトニーがベースを弾いている、それだけで私は涙目になりそうだ。もう一曲は、何か違った感じにしたいということで、ファンクフィンガーズが出てきた。うおおおおお。私は興奮のあまり思わずうなっていた。そして演奏。この曲はその日は録音しないで終了した。次回はスティックを持ってくると言っていたのが、私は仕事で二回目はいけなかった。残念だった。
でも、私はトニー・レヴィンのベースにこの手で触れた。そしてこのCDジャケットには、トニー・レヴィン直筆のサインがあるのである。