13/02/02 23:59
日常はささやかなことで崩壊する。
それは戦士に目覚めた時を筆頭に、それほど長くもない人生の中で多々体験してきたこと。それを分かっていながら、まことは今日この日がいつもと同様に過ぎることを疑っていなかった。
いつもと同じ時間に目が覚めて家事を済ませ、みんなと食べるための気合を入れたお弁当を詰め家を出る。放課後は神社に行きそのままお泊りの予定がある―一日の予定を反芻させながらまことは朝の通学路を駆ける。
お泊りの準備と家を空けるための植物の世話に手間取ったせいか、いつもより少しだけ家を出る時間が遅れた。おそらく亜美は待っているだろう。多少遅れたところで美奈子とうさぎを待つ展開になるのは変わらないだろうが、亜美を独り待たせるわけには行けない。
やがて数ブロック先、いつもの場所で亜美が本を読んでいるのが見えた。まだ声をかけるのは早いので、まことはさらに歩を進める。だがそれより先にブロックの陰から美奈子が亜美に向かい合うように立つのが見えた。
「(あれ、美奈、もう来てるのか)」
自分も家を出るのが少し遅れたとはいえ、遅刻魔の彼女が先に来ているのは珍しい。亜美もそう思ったのか、遠目にも少し驚いた表情で、しかし持っている本を下ろし美奈子に微笑んでいるのが見えた。
美奈子と亜美、そしてまことの距離はあと一ブロックほど。そろそろ声をかけるか、とまことが口を開けた瞬間、こちらに気付いていない美奈子が亜美に向かい腰を九十度の角度に曲げ頭を下げた。
「(おお、直角)」
美奈子が亜美に謝る事態は少なくないので、この光景は特に驚くことではない。むしろ、分度器で計ったようにきれいな角度で下げられた頭に、まことは感心する。ここまでは、別にいつも通りの光景だった。
「何も聞かずに…あたしと別れてください!」
だがその瞬間、まことが予定していた当たり前の日常はあっさり崩壊した。
そのあとまことはしばしその場で足を止めた。朝からとんでもない修羅場に遭遇してしまったものである。
だが、前後の文脈が聞こえなかった上に多少遠くもあったので聞き間違いか勘違いかもしれない、そう思い直したまことははらはらと二人を見守る。しかし亜美は美奈子を見つめたままぴくりとも動かず、美奈子は美奈子で亜美を睨むような強い眼光で睨み付けた後、耐えきれなくなったように目を逸らし学校の方に駆けだした。
「(ほ、本気なのか…!?)」
昨日も普通に一緒に学校で過ごしたが、特に二人の間におかしいところは見受けられなかったように思う。双方個々でおかしい言動はするが、しょっちゅう喧嘩もするが、特に美奈子はしょっちゅう亜美のすっとぼけた言動に泣かされていてまことに泣きつくのがもはや習慣となっているが―それでも意外と仲良くやっていたように思っていたのに。
だがそんなに深刻でないとまことが思っていても、当人の気持ちは当人にしか分からないものだ。美奈子なりに色々とたまっていたのかもしれない。少なくとも美奈子の様子を見るに、冗談やかけひきなどといった生温いものではない決意を感じたからだ。
恋が終わるのは自分でも友人でも歓迎できないことだが、美奈子に相応の覚悟と明確な意思があるのなら、それはそれで応援してあげたいと思う。その人が真剣に考えて決めたことなら、いくらおせっかいのまことでも止める気はない。
だがその相手が亜美とあっては―おそらく亜美にとっても青天の霹靂であったに違いないから。
「(そうだ…亜美ちゃんは!?)」
まことはブロックの陰から亜美に目線をやる。
泣いたりしているのだろうか、それでも戸惑っているのか―しかし亜美は美奈子と向き合った時の体勢のまま固まっており、瞬きもせず美奈子が元いた場所を虚ろに見ているだけだった。そこだけ切り取ったように時間が止まっているようだ。
数秒待ってみた。十数秒待ってみた。数分待ってみた。だが亜美はその場にマネキンのように動かない。
朝の通学路のど真ん中、ひたすら固まっている女子高生というのは相当に不審である。無論それを見守り続けることもまた同様に不審であることにまことは気づかないまま、それでもここで亜美を独りにしていても始まらないと思い、ようやく亜美のもとに駆け寄る。
「…亜美ちゃん!」
だがいざ目の前にまことが現れても、声をかけられても亜美はぴくりともしない。顔の前で手を振ってみたがそれでも完全にノーリアクションである。声も出さず、せめて瞬きくらいしてくれと思ったがそれすらない。
美奈子の言葉がよほどショックだったのか―あまりにも動かないのでショック死してるんじゃないだろうかとまことは本気で呼吸を確認し脈を計る。どちらにも反応はあったが、相変わらず亜美本人からの自発的な反応は起こらなかった。
せめて、泣くなり混乱を起こすなりしてくれた方が、まだ慰めようもあるものを。まことの声が届いているのか、そもそもまことの存在に気付いているのかさえ分からないまま呆けた亜美を目前に、遠く響く予鈴が現実を知らせる。
「ああもうっ…と、とにかく学校行こう!遅刻しちゃうよ!」
まことはもはや木偶の坊と化した亜美を小脇に抱え、何とか学校までの道のりを急ぐ。地に足が着いていないにも拘らずやはりノーリアクションの亜美に底知れぬ不安を感じながら。
いくら怪力を誇るまことでも、変身前の姿で荷物と亜美を抱え全力疾走は骨の折れることだった。だがしかし、辛うじて本鈴が鳴る前に学校に入ることはできた
学校に着いてようやくまことに降ろされた亜美は、少しは落ち着きを取り戻したのか、油の切れたぜんまい人形のようにぎくしゃくした動きで自分の教室に向かい始めた。だがまことはおろか誰も眼中にないようで、習慣ゆえ教室に足が向いているだけという様子だったが。
クラスの違うまことはそれ以上深入りすることもできずその後ろ姿を見つめていたが、教室の扉が閉まっているのに気付かず正面からぶち当たってひっくり返るという冗談みたいな真似をしたところでもう駄目だと思った。後頭部から響くごちんという音は、受け身さえ取っていない証拠だ。
知性の戦士どころか、普通の人間としての注意力を著しく欠いた亜美を放っておくのは、激しく危険だ。
「だっ…大丈夫か!?」
「……………………だ、いじょ、うぶ」
ひっくり返ったままの体勢で、亜美は瞬きを一つし呻くようにつぶやく。物理的な痛みでようやく声が出るだけの正気を取り戻したのか、そのことにようやくまことは安堵する。
目先の問題が片付けば人は一旦落ち着くものだ。無論、根本的な問題は何一つ解決していないが。
「…ごめ、ん、なさ…まこちゃん。私…」
「いや、あたしはいいんだよ…でも亜美ちゃんが」
「私は、大丈夫、だから…まこちゃんは教室に」
「あみちゃ…」
亜美はよろめきながらも自力で立ち上がると、今度はきちんと教室の扉を開けてまっすぐ自分の机まで向かった。だがその背中は、触れたら呪われてしまいそうなほど後ろ向きなオーラを濃厚に漂わせていた。ご機嫌ななめのレイよりも始末が悪い。
だが失恋女子のテンションなどこんなものである。まことは自分が過去に経験した痛みを思い出すと、その後ろ姿を見送った。
何とか本鈴を聞きながら自分の教室に滑り込んだまことは、美奈子に声をかけようとして躊躇した。美奈子が、自らの机に、真っ白に燃え尽きたボクサーさながらにふぬけた有様で突っ伏していたからだ。
「(げぇっ…)」
近寄ることさえためらわれる気配はほかのクラスメイトも感じているのか、周囲に人もおらず、心なしか机も遠ざかっているようだった。振る方もつらいのよ、そう全身で語る美奈子のオーラはやはり近寄ると精気を吸い取られそうなほどで、仕事中のレイよりも怖い。
だが失恋女子のテンションなどこんなものである。そんなものに怯んで乙女など、保護の戦士などやっていられようか。そして何より、美奈子のこの姿を見てまことは確信した―通学路での出来事は聞き違いでも勘違いでもなく、そして美奈子も間違いなく本気だと。
美奈子を責める気はない。自分が踏み込んでいいのかもわからない。それでもまことは、目の前の落ち込んでいる友人を放っておけないという理由から、意を決してオーラの圏内に踏み込んだ。
「…なぁ、おい…」
だがそこで教室に入ってくる教師。反応の鈍い美奈子の傍に居続けることも適わず、まことは唇を噛んで自分の席に引っ込んだ。
そのあと各授業の合間の休憩時間、まことは非常に迷った挙句亜美の元に行くことにした。授業中一応美奈子を見ていたがふぬけ状態なのは変わらず、逆に問題行動を起こしている亜美の方が危険だと判断したからだ。
それに美奈子は覚悟の上での行動に違いないが、亜美は何の前触れもなく振られたのである。衝撃は半端ではないだろう。
「(亜美ちゃん大丈夫かなぁ…)」
亜美のことだから、授業中ふぬけているとはさすがに思えない。目の前に扉があることに気付かなくても、勉強だけはきちんとしているだろう。そういう友人なのだ。
そう思って意を決して亜美の教室に入ると、当の亜美は一心不乱にノートに向かっていた。熱い。
だが失恋のショックがその人を何かに没頭させるのはよくある話。失恋ではないが、確か高校受験の折、ライバルが現れた時も亜美の勉強の没頭ぶりは尋常ではなかった―元来そういう性質なのだろう。
心配ではあるが、その姿に朝ほどの不安はない。一度は見ている光景なだけにまことは少し安堵する。
だが。
「(…え?)」
ノートを削る勢いで書かれている内容はまことには理解できない計算式である。美奈子を呪詛するような言葉ではないのは幸いだが―ノートが両面真っ黒になったそのあと、亜美は当然ページをめくるかと思いきや、数式は机にはみ出した。
それでも亜美が動かすペンは止まらない。仮にも学校の備品を、事故ならともかくこんな簡単な注意で済まされるくらいのことが出来ず亜美が破損している。
扉に顔をぶつけるくらいの露骨さではないが、この些細な違和感は却って静かな戦慄を呼ぶ。狂いも澱みもなく書かれている計算式が机にはみ出ている光景はまことを恐怖させた。
「(ひぃっ…)」
亜美自身何とか平静を保とうとしてこういう行動に出ているのだろう。だが実際問題ノートと机の区別もつかなくなっているのはもう危険であると言っていい。たかだか一時間経ったくらいで少しは落ち着くかと思っていたまことは自分が甘かったと痛感した。
「あ、あみちゃ…」
まことの恐る恐ると言った問いかけに亜美は応えない。まことはただおろおろしながら亜美の反応を待ったが、結局亜美はまことの方を向くことなく休憩時間は終わってしまった。
そのあとまことは休憩時間のたびに亜美のクラスに向かったが亜美の様子は特に変わらず、そしてその様子は亜美とさほど親しくないクラスメイトも気づき始めたようだった。元来勉強熱心なので朝は気にも留めなかったそうだが、呼びかけても上の空であったり、授業のノートをその時間とは違う教科のノートできちんと取っていたり、机が黒ずんでいたりと、どこかおかしいという少しずつ思わされたのだという。些細な奇行も積り重なれば不審なものだと、亜美をこまめに見に来るまことにクラスメイトが心配そうに告げていた。
そしてなにより、小テストで点が取れなかったのだという。
回答自体は全問正解だったそうだが、名前欄に一問目を回答しそのまま一つずつずれていて、結局名前も書いていないのだという。どうせなら白紙やでたらめな回答でも出せばまだ周囲もそれ相応の態度が取れるものの。
何とか日常通りにしようとして、出来ていない。
「(亜美ちゃんがテストで失敗するなんて…)」
まことは、そのことに少なからずショックを受けていた。点が取れないことではない。亜美がそんな解答欄をずれて気が付かないほど精神的に通常から著しく逸脱していることに。昨日までの自分を無理に演じているような、そんないびつさ。
失恋女子のテンションがこういうものなのは頭では重々承知。だが、いつまでもこのままでいいはずはない。
「…亜美ちゃん」
まことは覚悟を決め亜美に声をかけた。自分が何をすべきかは分からなくとも、もしかしたら余計に彼女を傷つけることになるかもしれないとしても、それでも、大切な友人として黙って見ているのはもうできない。
「…まこちゃん、私、次移動教室だから」
だが亜美は今度は、意外と真っ当な態度で、真っ当な言葉でまことの言葉を遮るように言った。慌ててまことが周囲を見れば、確かに亜美のクラスメイトは荷物をまとめ教室から出て行っている。どうやら体育のようだ。
「…さっきから、心配をかけてごめんなさい。本当に大丈夫だから」
「…でも」
「でもまこちゃんももうすぐ授業だし…私ももう行かないといけないから…本当に、ごめんなさい」
「あみちゃん…」
亜美はまことから目を逸らすと、まことを避けるように足早に教室を去った。
比較的まともな会話ができるようにはなっている。固まっていたころと比べると少しは落ち着いてはいるだろう。そして正直なところ、まことと顔を合わせづらいのかもしれない。
露骨に避けられて、さすがにその姿を追うことをできないまことの心中はしかし穏やかではなかった。
まことはどうしても落ち着かなかった。
授業中、相変わらず同じクラスの美奈子は机に突っ伏し真っ白く燃えつきながらどす黒いオーラを撒き散らしている。外では亜美のクラスが体育の授業を行っているが、座っていれば参加と認められる教室授業とは違い、体を動かさなくてはいけない上にある程度の協調性が必要とされる体育は今の亜美には危険ではないだろうか、とはらはらしていた。
おせっかいと言われれば返す言葉はない。必要以上に踏み込むべきでないのも分かっている。
この状況、レイならどう立ち回るのか―彼女は必要以上に他人のプライバシーに踏み込むのを嫌う性質だが、友達思いの一面が強いのも知っているから。この場にいない彼女のことを想像しても仕方ないが、それでもレイに助けを求めたくなった。
そもそも、この状況をまことからレイに知らせるべきでないのも分かっている。が、当事者でないのに巻き込まれたまことの思考回路はもう飽和状態だった。
「(ああもう…)」
美奈子の方を見ては、窓の外を見ることを交互に繰り返すくらいしかできない。教師の目線に気付かないわけではないが、授業に集中できるはずがなかった。窓の外を見て、グラウンドでおたおたと体育の授業についていく亜美を遠目に見つめる。
どうやらバスケの授業のようで、一応コート内に立たされている亜美は、傍目にもかなりお荷物状態だった。なんとか体を動かそうとしているのは分かるのだが、ボールの動きにもボールを追うクラスメイトにもついていけずに、ただ右往左往するばかりだった。
「(ああもう危ない…そこにいたら邪魔だってば…無理してボール追いかけたら)」
ボールを追いかけてはいるが、目線は下を向きっぱなし、右手と右足、左手と左足を同時に出して走るという、却って器用とも思える走り方で亜美はコート内を巡る。真面目にやっているのだけは分かるだけに不気味で、先ほどのノートから文字をはみ出させた時のようにまことに戦慄を呼んだ。
だがやはり、まことやクラスメイトを驚かせるだけの教室参加型の授業と違い、このように体育の授業なら。
「…亜美ちゃん!!!」
大声が出た。同時に立ち上がった。教室中がまことの方を見た。美奈子ですら頭を起こした。
まことはそんな周囲の目線に気付いてはいたが、気にならなかった。ゴール周辺でポスト辺りに接触でもしたのか、コートから一人吹き飛ばされてだらしなく転がった亜美を窓越しに見て、もう考えることをやめた。
教室を飛び出す間も惜しい。まことは先ほどまで見つめていた窓を勢いよく開くと、そのまま窓枠を乗り越えグラウンドにダイブした。
授業中なのも、変身前の体で3階からのダイブなのも、頭では分かっていたが気にならなかった。ただ、飛びながらスカートをしっかり押さえつけることだけは乙女として忘れられなかったのだが。
まるで王子様みたいだった、いやそれより騎士様かも、なんてその場を目撃した女子の噂は、当のまことの耳には届かないことであった。
教室からダイブして、颯爽とグラウンドに駆けつけ、倒れ突っ伏す亜美をひらりと抱え校舎に戻っていくまことの姿を、誰もが唖然として見ていた。その場にいた教師ですらまことを咎めることなくその一連の動きを見守るしかなかった。
そんな周囲に意識を向けることもなく、まことは誰になにも言われないうちに足早に保健室に飛び込む。授業をまともに受けられない生徒が行く場所はここだ。友人として保護しなければ、と本能じみたものが働いていた。
幸か不幸か、保健室には教員不在のプレートがかかっていた。まことは亜美を抱えたままベッドが空なのを確認する。あの場では何も言われなかったにせよ、問題になるのは間違いない。怒られるのは分かっていたが、それでも最後まで亜美は守らなくては、とまことは覚悟を決める。
抱えた亜美をベッドに降ろし、まことは黙って救急箱を探す。亜美はそんなまことをちらりと見、気まずそうに目線を逸らした。
「・・・・・・ごめんなさい、まこちゃん」
「・・・いいよ。それより頭とか打ってない?怪我したとこ見せて」
「いえ、もう、本当に大丈夫だから・・・ちょっと腕とかすりむいたくらいで、頭も打っていないし。だから、まこちゃんは教室に戻って・・・」
「説教受けに行けって?ここまでやると逆に帰れないよ」
まことは軽くはは、と声を出したがそれもすぐに沈黙に変わった。どちらもそれ以上話すでもなく、まことは亜美の傷を探し消毒液を沁みこませる。亜美ほどではないにせよ、さすがに戦士一の器用さを誇るまことの手つきは鮮やかだった。
亜美の怪我は実際大したものでもなく、ほんとうに擦り傷程度のものだった。だが亜美の精神状態から見るに、この程度で済んでまだよかったほうだ。それに亜美が怪我を負う以上に、一般のクラスメイトに傷でも負わせようものなら、それこそ亜美の心に深い傷が残るだろう。あの場ですぐ保護してよかった、まことはそう思う。
「・・・・・ごめんなさい」
「謝らなくてもいいよ。勝手にしたことだし」
「・・・でも」
「・・・・・・それよりさ」
まことが言いたいのは、こんな、なんでもないことではない。そして亜美もまことに対する謝罪だけではないはずだ。そう思いまことは口を開くが、果たして自分に何が言えるというのだろう。落ち込むな、とか、泣いてもいいよ、なんて言葉はとても安っぽく思えた。
だけど、このままでは駄目なのだ。
亜美の問題だとしても、それは、友達だから、どうしても放っておけない。
「・・・亜美ちゃん」
まことの低い声に、亜美の体がびくりと震える。次に自分にかかっている言葉を怖れているのかもしれない。そんな様子を見て、まことは更にためらった。ここまで傷ついている目の前の亜美に、不用意な言葉をかけるのが怖かった。
それでも。
「・・・・・・あみちゃん!」
まことが意を決して口を開きかけたそのとき、廊下からすさまじい足音とともに、保健室の扉をぶち開く音がした。一瞬まことは自分を捕まえに来た教師かと思ったが、飛び込んできたのは美奈子だった。
「あみちゃんっ、だいじょうぶっ!?」
荒い息とタイムラグから考えるに、まことが飛び降りて校舎に戻ったのを見てから、校舎内を探しまわっていたのか。授業中にもかかわらず仲間の危機に動かずにおれなかったのは、まことだけではなかったらしい。
「・・・・・・み、な」
亜美はそんな美奈子の姿を見、震えた声を出した。まことの知る限り、朝のあの一見以来ようやくこの二人は顔を合わせたはずだった。そう、あの時は亜美は美奈子の真意も知らず一方的に別れを告げられて、そのままなのだ。
美奈子はそんな亜美の様子を見、ようやく気まずそうに目線を外した。亜美は亜美で、今にも泣きだしそうな顔をしているのに何も言うことはなく、気まずい沈黙が保健室内に広がる。
「・・・来たのか、美奈」
ややあって、まことが抑揚のない声を出す。それは美奈子に告げられたものだったが、美奈子はまことに目を合わせず、それどころか二人に背を向ける仕草までした。美しい金髪が静かに流れる。
「・・・そ、そりゃぁ・・・転んだり、怪我したら、心配するじゃない・・・・・・ともだちなんだから」
ともだち、という言葉に、亜美が息を飲んだのが伝わってくる。ひどく傷ついた様子は隠せていないようだが、やはり亜美は何も言わない。美奈子は美奈子で、一応は亜美の無事な姿を確認できたのに安心したのか、背を向けたままそのまま扉に向かう。
「だいじょうぶそうで・・・よかった。じゃあまだ授業中だし、あたしは戻るから・・・」
だがまことは美奈子の体もまた微かに震えているのに気付いていた。
これは当人同士の問題だと思った。これ以上の深入りは双方によってよくないのも分かっていた。どちらの立場に立つことも出来なかった。黙って自分もこの場から離れ、あとはなるようになるのを待つしかない。そう頭では重々わかっていた。
「・・・おい!美奈!待て!」
だけどまことにはそれが出来なかった。静かに去ろうとする美奈子を呼び止め肩を掴んだ。強引にこちらを向かせた。まっすぐ向き合った。
転んだり、怪我をしたりするより、こんな痛々しい表情をしている二人をどうしても心配していたから―友達だから。
「・・・あんた、それでいいと思ってるのか!?何の理由もなくいきなり別れてくださいって、やっと来たと思ったら心配するのがともだちだからって・・・なに自己完結してるんだ!そんなの、納得できると思ってんのか!?」
言うだけ言って、一瞬まことは美奈子を上から強く睨む。美奈子の目が驚きに見開かれるのを見て、いつものまことにしては少し乱暴な仕草で美奈子の肩を離した。そしてそのまま振り返ると、ベッドで座り黙ったままの亜美の肩を掴んで揺すった。
「あんたもしっかりしろ!一日そんなへろへろでふぬけになって、いつまでひとりでそうしてるつもりだ!?美奈に聞きたいことがあるだろ!言いたいこともあるだろ!自分で捕まえて自分で言い返せ!」
そこまで言って、亜美の目が震えているのを見て、まことは唇を噛んで二人から目を逸らした。美奈子に向けた言葉は、かつて自分が好きだった人に言いたかったこと。亜美に向けた言葉は、かつて自分が好きな人にできなかったことだ。
自分ができないことを、こうやって友達に強要している自分に憤りを感じる。でも、できなかったことをずっとずっと長い間後悔していただけに、せめてこの二人には、と思ってしまった。
「・・・ごめん。二人とも。言い過ぎた」
まことは一息ついて、一転して静かな口調で詫びた。これもまた、ひどくぶっきらぼうな物言いをしてしまったと罪悪感が滲む。しかしどちらにしてももう自分がこの場にいる理由はない。この後は教師から説教が待っているのかもしれないが、亜美の方に大きな咎めが来ることはないだろう。
亜美と美奈子の間に立つまこと。どちらにも目を向けることなく立ち去ろうとした。だけどその横をそれよりも先に亜美が踏み込んだ。まことの隣を通り、一歩踏み込んで美奈子に手を伸ばし、服の裾を掴む。
その手はぶるぶると震えていた。顔を上げることも出来ないようだった。それでも、朝と違い、もう固まっているだけではなかった。
このままでは終われない、そんなことは亜美が一番よく分かっているはずなのに。自分で一歩踏み出した亜美のその姿にまことの視界は滲む。
「・・・・・・・み、な」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
美奈子は答えない。
亜美も二の句が継げずに、それでも服の裾を掴む手は固く離さない。美奈子もまたその手を振りほどくでもなく、固く唇を結んでいる。どれだけそうやって黙っていたのか、亜美は顔をあげないまま、誰にも表情を見せないままぼろぼろと床を濡らした。
憤って一方的に攻めるでもなく、冷静さを装って理由を尋ねるわけでもなく、泣きわめいて取りすがるわけでもなく、亜美は黙っている。しかしその態度は、言葉などなくともとても雄弁だった。
「・・・あみちゃん、はなして」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・いまさら・・・そんなことしたって・・・もう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・だめなんだって・・・!」
やがて美奈子の表情もぐしゃりと崩れた。やはりその様子を見て、美奈子の決意は本物だとまことは思う。そして美奈子もまた亜美のことが本気で好きだったのに違いないとも。決してお互いに嫌っているわけでないはずなのに、こうやって別れを選んだのはやはり何かあったのだろう。
だがそれでも亜美は黙ってて手を握りしめたままだ。むしろより力を入れたのか、美奈子の制服に更に深い皺が寄る。そんな亜美に、美奈子もふるふると震えながらぽろりと涙を落とした。
「・・・ほんとに、だめなのよ。もう・・・あみちゃん」
「・・・・・・ど、うして」
「だ・・・って、もう」
「わ、たし、が・・・だめ、だから・・・?それで・・・美奈が・・・傷ついたのなら」
「・・・ちがっ・・・あたしが・・・・・・・・でも、がまん・・・できなくて」
そこで美奈子は亜美の手を振り払うようにすると、ようやくふり返った。その顔はぐじゃぐじゃに濡れていて、それでもようやく覚悟を決めたのか、大きく息を吸うとはっきりと言い放った。
「・・・あたし・・・だって、もう・・・昨日、はじめて、奪われちゃって・・・亜美ちゃんじゃないのに」
「・・・え、ぇ?」
「はじめてって・・・」
奪われたということは、ずっと彼女が言い続けていたあの事を亜美以外の人の手で、ということか。細切れの美奈子の言葉を脳内でつなげて見て、まことは愕然とする。だって、どれだけ文句を言っても泣いても、ずっと美奈子は。
「・・・だってしょうがないじゃない・・・もう我慢できなかったんだもん・・・ずっと我慢してくるしかったんだもん・・・・・・我慢するのやめたら楽になったんだもん」
さらに続けられる言葉に、誰かの手で、でもなく強引なことをされて、でもなく、自分の意志でなのか、とまた気づく。
ずっとずっと我慢して、何度も何度も泣いているのを見てきた。それでもまだ平気でいる彼女を今日も想像して、疑うことをしないでいたのに。
「・・・だから、もう、あたしはあみちゃんのそばにはいられない」
そこで美奈子は誰からも目を逸らした。真っ赤に充血した眼はぶるぶると揺れている。大きく鼻をすすると再び亜美から背を向け、手を固く握りしめ扉に向かう。だが今度は亜美はその背中をほとんど反射的に捕まえた。美奈子は少し振り払うようなしぐさをしたが、それでも亜美は背中に顔を埋めるように抱きついた。
「・・・・・・はなして」
「・・・・・・・・・・・・‥」
「・・・はなしてって・・・!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「ずっと・・・我慢してたのに・・・いまさらこんなことしないでよ・・・!」
亜美はやはり答えない。言葉など出ないのかもしれない。確かに亜美にも落ち度はあっただろうし、美奈子の決意は固い。だが亜美もいつまでもそこから動こうとはしない。
震えながら抱きついた亜美をしかしそれ以上強引には振りほどけないのか、事態はそのまま再び膠着した。その状況を見かねたまことは、ためらいながらも美奈子に声をかけた。
「でも、美奈・・・我慢できなかったって・・・奪われたって・・・一体誰に?いつどうなって誰とそうなったんだ」
「・・・昨日、部活の試合で遠出したとき」
「試合で?」
意外と美奈子は素直に返事をする。別に隠す必要もないと思っているのか、それともこの停滞した状況から抜け出したいのか。
「試合の合間に・・・・・・それで、友達が・・・」
「友達?」
「断れなかった・・・我慢できなかったし・・・でも・・・それでほんとに・・・楽になった・・・今だって」
美奈子の言葉は細切れだ。要領は分からないでもないが、肝心の部分がわからない。だがこれだけ具体的な話なら、いよいよ真実なのだろう。まことはわけもなく悔しさに歯ぎしりをした。
美奈子の気持ちは分かる。彼女の選択を責めることなどできない。だが、どうしてもほかの手はなかったのかと思ってしまう。目元が一気に熱くなって涙が染み出てきた。
もっとなにかできなかったのか。回避する手はなかったのか。当然のように昨日と変わらない今日が来ることを信じていた。そんな日常がたやすく崩壊するなんてこと、何度も経験してきたはずなのに、それでも。
まことは当事者ではない。どこまでもこれは美奈子と亜美の問題だ。二人が別れを選んだところでどうしようもない、それでも。
「・・・・・・・・・‥っ」
言ってはいけない、とまことは言葉を飲み込んだ。その代わりにどんどん視界が滲んできた。泣いてもいけないと、どれだけ思っても、そちらは止めることができなかった。亜美もやはり美奈子の背中に顔を埋め静かに震えている。おそらく泣いているのだろう。
お互い、確かに思いあっていたはずなのに。そして、まだ思いあっているはずなのに。それを思うともう涙をこぼしてしまいそうだった。
「・・・タンポン使ってるんだから」
そこでまことの涙は七割ほど乾いた。
その美奈子の言葉に、亜美もそれまで下げていた顔を即座にあげた。涙と鼻水で濡れた顔は、それでも驚愕に引きつり固まっていた。
「・・・ちょ、ちょっと待て、美奈」
「・・・・・・なによ」
「いや、あんたの初めてを奪ったってのは・・・あー・・・まさか、生理用品のことか?」
「・・・試合中急に来たから・・・友達がタンポンくれて・・・断れなかったし使ってみたらナプキンより楽だった・・・でも」
そこでまことの涙は完全に乾いた。それと入れ替わるように眩暈と立ちくらみがした。朝一番に別れると宣言して、今日一日ずっと気に病み続けて、その原因が、まさか。意識が遠のき後ろ向きに倒れそうになったが、三階からのダイブに耐えた健脚でまことはなんとか踏ん張って、ようやっと美奈子に突っ込んだ。
「せっ・・・生理用品に操なんて誓わなくていいんだよ!!」
「だってっ・・・はじめてなのにっ・・・突っ込んじゃったのよ!?」
「そんなもんあたしだって経験あるわっ!!」
「そんなっ・・・そんなまこちゃんはとっくに食べられてるじゃない!!」
「食べられてるとか言うな!!大体、そういうことは、生理用品はノーカウントだよ!」
「だって・・・だってぇぇ!!」
先ほどと同じ表情で震えながら泣く美奈子の姿に、もうまことは憤りさえ覚えていた。これはあくまで二人だけの問題だと、ずっと思い続けていたはずなのに、先ほどよりもはるかに当事者のようにまことは昂ぶっていた。
そしてそれは亜美も同じであったのか、首をすぼめ肩を怒らせるようにまことと美奈子の前に立ちはだかると、涙と鼻水の後がくっきり残った顔をあげた。だがもう泣いていなかったのは、おそらく美奈子の貞操を奪ったものが何たるかを知ったからだろう。
「・・・美奈!」
「なによあみちゃんっ・・・もう・・・」
「・・・わ、わたしもずっと昔からタンポン使ってるから!」
「ええええええええええ」
驚愕にひっくり返った声を上げる美奈子をよそに、まことはなにを亜美ちゃん宣言してるんだよ、とかなり冷静に思った。だが今度こそもう二人の問題である。亜美がこうもはっきり言い返した時点で、それこそもうまことの出番はない。
「そっ・・・それはあみちゃん、どういう」
「だって・・・水泳してるから・・・タンポンは便利だと思って・・・」
「えええなにそれ!?あたしは駄目だって言い続けてたくせに生理用品は平気で突っ込んでたっていうの!?この浮気者!」
「う、浮気って・・・」
「おいもう別れたんじゃないのかよ」
まことも今までとは打って変わってテンションの低い声をあげた。もう付き合ってられなかった。生理用品を使っただのと泣きながら叫びあってる友人たちの光景はまさに地獄絵図であり、別れ話でもなんでもやってくれ、と非常に投げやりな気分だった。
そのまことの声で、は、と美奈子は気づいたように亜美から背を向ける。そして思い出したように静かに呟いた。
「・・・そうよ。別にもう亜美ちゃんがタンポンに浮気してたとかっ・・・もうどうでもいいもん・・・・・・生理用品以下って思われてたって、よくわかったし・・・それに、もう・・・わかれたん、だし」
その背中は、やはり震えていた。そう、別れ話の原因が亜美やまことに伝わったところで、話そのものが片付いたわけではない。たとえ亜美やまことからすれば驚くほど下らないことでも、それで彼女は傷ついて、自分の意志で、はっきり別れを決めたのだ。
「だってもうほんとうに・・・もう合わせる顔がないって・・・亜美ちゃんにぜったい嫌われるって、昨日、ずっと、考えてた、のに・・・」
これは周りが何を言ってもどうしようもない。だからもうまことははっきり二人から一歩引いた。あとは彼女が自分で何とかするしかない。おせっかいなまこともそれは心得ていた。いつかレイが言ってた、一人一人が強くなること。なにがなんでもそうだとはやっぱり思わないけれど、これは彼女が自分で乗り越えなければならないことだ。
まことはもう、少し離れたところで、美奈子に静かに抱きつく亜美を見ていた。そして亜美は、涙交じりで震えて明瞭でない言葉を、確かに美奈子に向かって自分の意志で吐き出した。
「・・・あなたが・・・いない、と、お勉強も・・・頭に入らない・・・運動もできない・・・ひとりで、学校も行けなかった、のに」
「・・・あ、みちゃん」
「・・・・・・は、なれ・・・たく、ない・・・」
本当にそれだけだった。
いつもの冷静さ、理路整然さはどこへ行ってしまったのか。それしか言えないでぶるぶるぼろぼろと震える亜美のその姿はしかし、美奈子に確かに届いたようだった。
もう大丈夫だ、きっと。まことはこれまでの信頼を今後の展開の確信に変えて、その続きを見ることなく保健室を後にした。授業中に窓からダイブしたことも、自首すれば少しは心証がよくなるだろう。
まことの唇に、あきらめとも自虐とも安堵ともつかない笑みがこぼれた。
その日の夕方、神社にやってきたまことの様子は少し変だ、とレイは思った。
放課後、いつものように笑顔でやってくると思って待っていたのに、鳥居をくぐったときから、なんだかひどくぶすっとしていた。
レイに怒っているわけではないようだが、とにかく様子がおかしい。部屋にやってきてひどく不機嫌そうな顔で鞄から原稿用紙を引っ張り出したかと思うと、しばらく一人でうんうんと唸ってざかざかと書き殴り、そのあと飽きたように床に転がって体を丸めて、ふて腐れたように動かない。
こういうものを覗き見ることは趣味ではないが、まるで『見ろ』と全身で語っているようなまことの態度にレイは恐る恐る原稿用紙を見る。いつもの彼女からすれば驚くほどの適当な字で『もう飛び降りません』とだけ書かれていた。
まるで逆遺書のような内容に、レイの脳内が疑問に満ち溢れる。さすがに口を開きかけたレイを遮るように、まことは大きくため息をついた。
「・・・反省文だけで済んでよかったよ。反省してないけど」
「反省文って・・・なに、飛び降りたの?なにしたのよ」
「・・・レイ」
「・・・なによ?」
「あたしって、すっごいわがままなのかな」
「は?」
疑問ばかりを呼ぶまことの態度と行動、そしてこの意図を読めない疑問。だがわがままかと聞かれたら、レイが自分で思ったことを答えるべきだろう、と思った。どれだけ理解できない言動を前にしても、少なくとも今目の前のまことが何を必要としているかくらいは分かるから。
「・・・そうね。わがままかもしれないわね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「私はあなたのことなんでも分かってるわけじゃないのに、そんな態度取られても困る」
そこでレイは、雑に転がるまことの傍に正座で座ると、その頭をよいしょと膝の上に乗せる。顔は見ない。ぽんぽんと肩をあやすように叩く。学校で何かあったのだろうということは予測していたが、何があったかはレイにはさっぱりだ。詳しく言ってくれないということは、これは彼女が自分で乗り越えなければいけないと思っていることなのだろう。
共有もしてくれないのに、こんな態度を取るのはわがままだとレイは思う。そんなレイの膝に、まことはうずくまるように顔を埋めた。
「・・・二人のことだから、あたしが言っちゃいけないことだったんだ。だから我慢したんだ・・・でも・・・ほんとうは言いたかった」
自分が言いたくても言えなかったことを人にやらせようとしたくせにね、と自嘲気味につぶやくまことの意図は、やはりレイには分からない。腰に抱きついて、鼻が曲がるくらい強く顔を膝に押し付けるまことの髪を、レイは黙って撫でた。少しだけ、肩が震えた。
「・・・はなれてほしくなかった・・・・・・・・・ほんとうによかった・・・」
その言葉は、やはりレイには理解できなかった。でも、親が喧嘩したのを見た小さい子みたいだ、と思った。
自分の意志ではどうにもできないのを重々わかっていて、それでも大切な人たちが意見を違えているのを見て、自分を取り巻くいつもの世界が壊れていくのを見せつけられたような、黙ってその光景を見ている聞き分けのいい子どものような。
おそらく学校で、彼女の世界で、いつもの、当然のように来ると信じて疑わなかった日常が崩れかけたのだろう。膝がひどく熱いのは、もしかしたらまことが泣いているせいかもしれなかった。それが恐怖や不安ではなく、もう既にここに来る前に安堵に変わっているものだとしても。
それでもまことの世界は揺らいだ。そしてそこに自分はいなかった。
まことはまことなりにひとりで何かと戦って、今日一日を終えてここに来てくれた。レイとて、いつ日常が崩壊するか分からないのはよく知っているし、何度も経験してきた。それは彼女と同じであるけれど。
「・・・いいこ、ね」
もしこうやって、彼女がここに来てくれるのなら。いつもみたいに笑顔で、たまに傷ついて、ぼろぼろになっても、こうやって膝にすがってくれるのなら。
「なにがあったかは知らないけど、こうすることくらいはできるから」
彼女の日常を守るために、ここで彼女をいつでもこうやって待っていられる日常のためになら―そう誓いを立てるまでもない当たり前のことを改めて思い、レイはぼんやりと目を閉じた。
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ギャグなのかシリアスなのかよくわからん一品になってしまいました。精進します・・・
↓おまけ(次の日)
「・・・・・・・うぇぇぇぇん、まこちゃん、きいて・・・ぐずっ」
「ああ?なんだよ美奈?」
「そうだけどっ・・・亜美ちゃんったらひどくって」
「なんだよ。やり直すんじゃないのか」
「昨日愛も確かめ合ったし、生理用品突っ込んでたくらいだからついにエロ解禁かって思ったのに」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「タンポン突っ込むのはいわゆる喪失じゃないって・・・教科書使って一晩中性教育されて」
「亜美ちゃんから性教育とか・・・こう言っちゃなんだけど、性教育って、亜美ちゃんにだけは教わりたくない教科だな・・・」
「説得力ぜんぜんないし・・・しかもまだえろはだめだって・・・生理用品自分だって突っ込んでたくせに・・・」
「ぶれない人だな・・・」
「タンポンはよくてあたしが駄目なんてやっぱりあたしは生理用品以下でもう駄目でやっぱり「もうあんたたちの顔しばらく見たくないよ」
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