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頭の冴えた日







 今日のあたしは頭が冴えていた。

「・・・すごい」
「でしょ?でしょ?でしょ?」

 なんてったって、満点。こんなの小学校低学年以来だわ、て感じの満点。授業の中の10分間の小テストだったけど、すんごい久しぶりの満点。でたらめ書いたら偶然当たったっていう問題もあるけど、満点は満点。
 敵も現れなくて平凡で平和なあたしの日々に舞い降りた奇跡に、あたしは放課後ステップ踏みながら亜美ちゃんの家に押しかけた。どうしたのなんて首を傾げる亜美ちゃんを追い立てて部屋に座り、鼻高々で見せたテストを亜美ちゃんはびっくりして見つめていた。

「全部合ってるわ」
「だって満点だもん」
「・・・美奈、すごい!」

 ああ、お勉強関連であたしが亜美ちゃんを笑顔にできるなんて。
 あたしが満点を取った時の亜美ちゃんのリアクションなんて予想つかなかったけど、というか現実味が低すぎて考えたこともなかったけど、実際見てみたら、あたしのことでこんな風に笑ってくれる亜美ちゃんがうれしい。亜美ちゃん自身はいっぱい満点を取ってて、むしろ満点じゃない方が珍しいのに、自分のことでこんな風に笑うのは見たことない。
 あたしが亜美ちゃんを笑顔にできたのもうれしいし、あたしのことで笑顔になってくれる亜美ちゃんもうれしくて、胸になにか熱いものがぎゅっとこみ上げる。

 亜美ちゃんは解答用紙をすみからすみまできっちり見直して、たぶん採点する先生よりも細かく見直してくれている。まだ見せてないけど、たぶんママよりも喜んでくれてる。その横顔を見て、ふわふわと幸せな気分になる。

 だけど、今日のあたしは頭が冴えていた。そりゃ満点取るくらいだから頭は今世紀最大には冴えわたってた。そしてこの状況、亜美ちゃんはすっごくすっごく隙だらけのすかすかだった。

「えい」

 頭が冴えてるからって、体がなまってるわけじゃない。滑り込みレシーブの要領で圏内に入りこむ。スパイクの要領で体を定点まで一気に浮上させてあとは目標にアタック。
 あたしのテストに気を取られてた亜美ちゃんは、もういつものガードの堅さどこ行っちゃったのってこっちが心配になるくらい無防備だったから。まあせっかく満点取ったんだしね、これくらいしてもいいでしょう。

「ふっ」

 一気に距離詰めて、そのままちゅーをした。反射的に亜美ちゃんが身を引くのはもう想定内だから、触れた瞬間腰と肩をがっつり押さえておくのも忘れない。ああ、やっぱり今日のあたし冴えてるわ。
 インパクトの瞬間は亜美ちゃんの体はそれはもう面白いくらいにびっくぅって跳ねたけど、そこを抑えたらもうぴくりとも動かなくなった。抵抗しないので、両手をそっと亜美ちゃんのほっぺに添えて更にがっちり固定する。ふむ、良い兆候。

 脳みその中で不意にデンデンデンデンって映画ジョーズのBGMが流れる。いや、追い詰めてるのあたしのほうなんだけど。

 しばらく唇のやわらかさをがっつり堪能して、それでも動かないからすーっと舌先で唇を舐めた。ここまでやってるんだからそろそろお邪魔させてもらってもいいもんじゃないの。ちょっとお口開いてくれたら、って、誘うように唇を舌先でつついた。でも相変わらず無反応。
 全力で拒絶されるよかましなんだろうけど、ちょっとさみしい。まあいきなりでびっくりしたのかもだし、やむなし。久しぶりだったからもう一回くちびるをぎゅっと押し付けると、顔を少しだけ離した。

 もちろんまだまだする気だったけど、ちょっと亜美ちゃんをほぐさないとね。これ以上先に行くにはちゃんと同意が欲しいから。手をほっぺに添えたまま、そっと目を伏せる。
 退かないで、なんて祈る気持ちもちょっとあった。やっぱりちょっと亜美ちゃんのリアクションが怖かったから。

「・・・あみちゃん・・・」

 たまらなくなって声を出した。勢いでやっちゃったのはいいけど、いまさら心臓がちくちくしてきた。至近距離の亜美ちゃんがずっと黙ったままだし、何の反応もしてくれない。退かれたらショックだけど、なにも反応が返ってこない。反応が、ない。
 反応がない。こんな至近距離なのに息してる感覚もない。そういえば、キスしてる最中も息してなかったような。

「・・・あみちゃん?」

 ちょっとだけ、亜美ちゃんの顔がはっきり見えるように覗き込む。まずぎょっとしたのはその顔色の悪さと、次にキスの最中からぎゅっと閉じられっぱなしだった唇が固く結ばれたまんまなこと。やっぱり息してない。
 これはジンジャーじゃない、ちがう、尋常じゃない。ああセルフツッコミは疲れるからやっぱりあたしには亜美ちゃんが必要だわ。向こうがあたしを必要としてるかは現時点でかなり微妙だけど。

「あみちゃん!」

 必死になって亜美ちゃんの肩を掴んで顔を上げさせる。亜美ちゃんはやっとのことでちょっとだけ口を開いた。

「ばぎぞう゛」
「・・・はっ・・・えっ!?ちょ、せ、洗面器持ってくるからこらえて!」
「う゛っ」

 悪霊に憑りつかれてんのかと思うくらいの野太い声で亜美ちゃんは呻いて、口元を押さえてぱったりと倒れてしまった。洗面器よりレイちゃんが必要なんじゃと思ったけど、やっぱり洗面器の方が早い。
 一旦部屋から出るとお風呂に靴下のまま飛び込んで、洗面器を掴んでそのままダッシュで亜美ちゃんの部屋に戻ったら、亜美ちゃんは相変わらず口元を手で押さえていたけど、体はベッドに移動していたしさっきの分を取り戻すようにぜいぜい息をしていた。

 遅かったか、と一瞬思ったけど、部屋を見回しても悲劇的なことになってはいなかった。

「・・・あみちゃーん。だいじょうぶ?」
「・・・え、ええ」

 要らなくなった洗面器を机に置くと、まだひいひい言ってる亜美ちゃんのそばに腰かけて、背中をごしごしとさすってあげる。しばらく亜美ちゃんは息をするのに必死だったけど、それも少し経ったら落ち着いてきた。

 苦しそうな顔が少しましになったみたいで、よかったと思う。でも、やっぱりちょっとせつなくなる。背中をさすったまま、亜美ちゃんの呼吸のタイミングを見計らって声をかけた。

「・・・だいじょうぶ?ほんとに」
「え、ええ・・・・・・ご、ごめんなさい」
「具合が悪いのは、しょーがないけど・・・」
「・・・ごめんなさい」
「そんなに、あたしがいやだったの?」
「ち、ちがうわ!」

 出来るだけ冷静に尋ねたつもりだったけど、亜美ちゃんは間髪入れずに顔をあげて反論した。さっきの血の気のない顔から一転して真っ赤になっている。今日の亜美ちゃんは信号機みたい、なんて思う。
 でも、その表情は真剣で、あたしはちょっと気おされてしまった。

 そう、この人は予測はつかないけど、嘘ついたり下手くそなごまかしをしたりはしないから。わからないことはいっぱいあるけど、疑うなんてことはない。だからこれから言うことは、亜美ちゃんの本音に違いないのだ。

「そうじゃなくて・・・びっくりして・・・」
「急にキスしたから悪かったの?」
「すごく・・・びっくりしたし・・・その、キスしてるんだって・・・頭で思ったらすごく緊張して・・・緊張しすぎてすごく内臓がざわざわしてしまって」
「いやだから、気持ち悪くなったんじゃないの?」
「それだったら、固まったり・・・しないわ。そこまでぼんやりしてないもの。いやならすぐに逃げてるわ」
「緊張しすぎて、吐きそうになったの?ほんとに、いやじゃなかった?」
「あなたをいやって思ったことなんて・・・ただ、ほんとうに・・・」
「ほんとうに?」
「突然どきどきしすぎて・・・苦しくなったの」

 そこで亜美ちゃんは申し訳なさそうに眉を寄せると、あたしから目を逸らした。さっきまで触れていた肩が震えている。ああもう。ああもう。

「・・・あみちゃん。わかったから。あたしも急にちゅーしたりして悪かったわ」
「・・・私も。ごめんなさい」
「亜美ちゃんのそういう緊張しいなとこ、わかってるから。具合大丈夫?ああ、体起こさなくていいから」
「ごめんなさい・・・ほんとうに・・・いやじゃないから」
「もうわかったわよ」

 ベッドで横になるのは、やっぱり心も落ち着くみたい。このやり取りの間に、亜美ちゃんはだいぶ落ち着いたようだった。すうすうと呼吸のリズムが安定して、顔色もちょっとはましになった。
 その様子を見て、やっぱり今日のあたしは頭が冴えてるな、と思う。思ったらすぐに行動を起こす。

 亜美ちゃんが横たわっているところによいしょと体を捻って、手と膝で自分の体を支えながら亜美ちゃんの体を挟んだ。横たわってる亜美ちゃんを真正面から見下ろして、まぶたをぱちくりさせている亜美ちゃんにできるだけ優しく微笑む。

「急じゃなければいいのよね」
「えっ・・・」
「だいじょうぶ。優しくするから」
「えっ、えっ」
「それにベッドにあおむけだったら重力?があるから吐くのも大丈夫でしょう。はい今からちゅーするからーゆっくり深呼吸してかまえてー」
「そっ・・・み、美奈」
「なぁにぃ」
「嘔吐自体がそもそも下から上に上がって来るものだから、顔を上に向けたところで嘔吐物が重力でどうにかなるわけじゃ」
「はいはいベッドの上で汚い話しないの。ゲリカシーのない人ねぇ」
「で、デリカシーって言いたいの?その間違い自体もあんまりきれいな話じゃ」
「あなたのその突っ込みはとても大好きで大切だけど、今はこれからのことに心の準備をする方に意識を砕いてほしいわね」

 あたしを見上げて、やたらと瞬きを繰り返してころころと視線を落ち着かないように動かす亜美ちゃん。でもさっき自分でいやなら逃げるって言ってた。だからいやじゃないから、こんなゆるい拘束から逃げようとしないのよね。

 緊張しいで、恥ずかしがり屋でヘタレで、うそつきじゃないけどわかりにくい。清楚な顔して、ベッドの上で汚い話なんかもしちゃう。謎だらけ、難攻不落。テストで満点取る方がよっぽど簡単に思えるくらい難しい人。でも。それでも。

「亜美ちゃんが好きよ」
「美奈っ・・・」

 亜美ちゃんがそれ以上なにか言う前に、腕立て伏せの要領で、亜美ちゃんに体重をかけないように顔を落とす。背中がしっかりついて安定してるのか事前に宣言していたからなのか、ぶつかった唇はさっきよりも柔らかくあたしを受け入れてくれた。

 やっぱり今日のあたしは頭が冴えているから、こっそりさっき背中をさすった時に、今日は亜美ちゃんのブラがフロントホックなことは見抜いていたんだけど。
 果たしてそこまで行くかどうか。


 
 だからあたしの頭脳を無駄にしないために、今日は頑張ってね亜美ちゃん!





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 ちゃっかり新ミュのネタを使う(笑)
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