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飾釦

飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

僕は知らない寺山修司NO.212⇒万有引力演劇公演「邪宗門」(座・高円寺1)を見る

2013-07-29 | 寺山修司

■日時:2013年7月28日(日)、14:00~

■劇場:座・高円寺1

■作:寺山修司

■演出・音楽・美術:J・A・シーザー

■出演:伊野尾理枝、小林圭太、村田弘美、岡庭秀之、蜂谷眞未、他

 

寺山修司の「邪宗門」と言えば、彼について書かれた本などを読むと必ず言及されている伝説の演劇公演です。それは海外公演の後、渋谷公会堂で上演され他の劇団が殴り込みにきて阻止するとか、観客が舞台に上がり投げ出されたとか、どこまでが真実かわかりませんが伝説としても、今では考えられないような物々しさ。万有引力を率いるJ・A・シーザーは少なくとも天井桟敷のその伝説の公演に居合わせた一人です。そのシーザーが寺山修司没後30年の記念公演として「邪宗門」をやるというのです。先の「奴婢訓」がよかっただけに期待も高まり座・高円寺へと向かいました。

 

開演30分前に開場され、あのダッ・ダッ・ダッ・ダッ・ダーン・コン・ダッ・ダッ・ダッ・ダッ・ダーンという魂を揺さぶられるあのシーザー独自の呪術ロックが鳴り響き、黒子の俳優の肉体を駆使したパフォーマンスが延々と繰り広げられる。そして無惨絵・妖怪絵を描いた大きな浮世絵の横断幕が立ち上がり、格子状の装置が俳優らによって操られる。それを見ていてシーザーは音楽のセンスのみならずビジュアル的なセンスも上々であり、日本的な呪術的枠組みの中に観客の視覚を取り込んでしまうのが上手いと思ったのでした。

 

その後、舞台で展開されるのは母親殺しであり、母親との近親相姦関係であり、母親の過剰すぎる愛情であり、性の束縛と解放といった人間が本来もっていて自身を苦しめることになるどうしょうもない情念をテーマにした寺山修司お決まりのパターンがまるで他の寺山の劇を軽々と超えて普遍的にリピートするかのように形を変え繰り広げられます。その寺山修司が用意した陰欝にして挑発的なテキストにあまりにもピッタリにシーザーの音楽が鳴り響くのでした。そこであらためて思うのは寺山演劇におけるシーザーの存在の大きさであります。はたして未来の演劇人たちはこのシーザーの呪縛から逃れられ寺山のテキストをベースとした独自の世界を構築することができるのだろうか?と。これまで私は何本か、そうした演劇を見てきましたがなかなか難しい作業であると一観客として思うのでした。寺山演劇におけるシーザー超え、それこそが、寺山修司という稀有な才能を持った人物が残した、それこそ百年たったらその意味わかるという難解なる寺山のテキストが時代を経て尚もアングラの古典として残っていくことができるかの別れ道のような気が、この「邪宗門」を見て思ったのでした。逆にそれほどシーザーの音楽の効果が大きいということです。

 

芝居は二重構造となっており黒子に操られこの情念の世界を演じ続ける俳優は、黒子から最後は自由になり、我々を操っているのは誰なんだと疑問符を投げかけます。俳優それぞれは衣装を脱ぎ捨て、個人名を持つ素顔の存在となり、客席に向かって挑発的な言葉でアジり、舞台装置を破壊してそこを去っていきます。しかし、私とは誰だ?という問いを常に発信している寺山修司の私の背後に黒子が、その背後に作者が…と砂場の棒倒しのように切り詰めていっても、突然の劇の中止にそれまでの過程との関係性がどうしても伝わりづらいと感じたのでした。劇場には何もないと誰かのアジテーションにあったのですが、劇場に行ってパフォーマンスを見ている私としての存在に対する疑問符、不安までには至ることはできませんでした。思うに、もしかしたら砂場の棒で倒れる直前のエクスタシー、一番のカタルシスを感じることができたのは、俳優自身ではないか?と思ったのでした。

 

舞台上は常に暴力的、肉体的な論理が支配している寺山演劇ですが、今回、目を引いたのは黒子を演じた女優らでした。それぞれの名前はわかりませんが、彼女らは危険な匂いを孕みつつ動きは軽やかで、そのパフォーマンスは素晴らしいと感じたのでした。アングラは既製概念を壊し破壊しそこから生まれてくるものを問題視していると思いますが、型がなければ型なし、型を破れば型破り、いつしが万有引力の「邪宗門」は、寺山演劇の一つの型を提示しているようにも感じました。

 

寺山修司と演劇実験室 天井棧敷 (Town Mook 日本および日本人シリーズ)
九条今日子
徳間書店
寺山修司の迷宮世界 (洋泉社MOOK)
笹目浩之
洋泉社
寺山修司: 天才か怪物か (別冊太陽 日本のこころ)
九條今日子,高取英
平凡社
寺山修司劇場 『ノック』
九條 今日子,寺山 偏陸,笹目 浩之,テラヤマ・ワールド
日東書院本社

 

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