「一つ分かったことがある。どうやらここは私の知るノースティリスではないようだ」
彼らの反応を見て出した結論だ。
しかし話に聞いていた異世界かどうかは微妙なところだ。アクリ・テオラに似た様式。コンピューター等の機械類を見るにここがイルヴァ*1である事は恐らく間違いないだろう。ノースティリスを知らなかった以上、近い地域ではないことは伺える。異世界では無かったかもしれないが新天地である事には違いない。ここには一体どのようなネフィアやアイテムが眠っているのだろうか。考えるだけで胸が躍るというものだ。
などと考えていたが二人の反応がひどく微妙なものだ。半信半疑というかありえない物を見る目をしているような気がする。
「どうかしたのか?こちらの事情は話したしそろそろこの辺りにあるネフィアや街へ繰り出そうと思うんだが。ここなら私の知らないモンスターもいそうだしな」
「モンスター、ネフィア……?訳の分からない情報を一気にぶつけてくるのやめてもらえませんか……?」
「――?まさかとは思うがネフィアを知らないのか?相当な箱入り娘なのだな。リンちゃんは」
「誰がリンちゃんですか。ともかく、こちらも分かった事があります。先生、いかがいたしましょうかこれ……」
「そうだね。ちょっと驚いたけど、まずはこちらの世界を知ってもらうのが良いかもしれないね」
それから二人からここキヴォトスの話を聞かされた。
モンスターは存在しない事。つまりネフィアも存在していない事。どうなっているんだこの世界。
先生も私と同じくキヴォトスの外からやってきたそうだ。だがイルヴァの事は全く聞き覚えはないとの事。当たり前だがイルヴァの神々の事も知らないようだった。どうなっているんだこの世界。
世界が変われば常識も変わるようで、この話を聞かされた時にようやくここが異世界だと信じられたような気がする。
「ば、ばかな……!人を殺しただけで一気に犯罪者扱いだと……!」
「うん、初めて君と会ったのが私で良かったよ。本当に」
先生が苦笑しながらそんな事を言う。リンちゃんは気持ち視線が冷めたものに変わったような気がする。どうなっているんだこの世界。
ノースティリスにおいて犯罪者扱いされるには条件がある。
カルマという物があり上限が100、下限が-100まで存在しておりカルマが0より下回ると犯罪者となる。逆に言えばノースティリスはカルマがマイナスにさえならなければ犯罪者にはならないのでそれまでは何をしてもいいのだ。*2
もしカルマが100あったとしたら殺人を犯した場合に減るカルマは5なので20人殺す権利を得られるというわけだ。
しかし子供を中心に回っている世界とは、中々面白いな。しかも全てが女性。少なくともノースティリスにそんなところがあれば瞬時に搾取の対象になること請け合いだ。やはりそれだけ平和な世界だという事なのだろう。
そんな平和な世界だが今までこのキヴォトスを統べていたとされる存在が失踪したらしい。
そして入れ替わるようにして失踪した連邦生徒会長に直々に指名され現れたのがこの先生。
先生は超法規的組織である連邦捜査部「シャーレ」の顧問となり、その組織にはキヴォトス全ての生徒を入部させる事が可能で、全ての地区への出入り、戦闘許可も下りるとの事。
……先生にキヴォトスの少女らを捧げる為に作られた場所と言われても納得できるな。
「……なんだかすごい事考えてそうだね」
「ん-、まぁ、先生はキヴォトスの基本的な情報を教えてくれた恩人だからな。どんな度し難い性癖を持っていたとしても、私は君の友人で居続けるよう努力するよ。ノースティリスでは珍しくないだろうしな」
「どういう事!?……いや察したよ!生徒に手は出さないよ!?確かに話を聞いたときはすごい特権だなとは思ったけども!」
「………………そうか」
「信じて!お願い!」
一連の会話の流れを理解し切れていないリンちゃんはキョトンとした顔をしながらもこちらへ質問を投げかける。
「ところで貴方はこれからどうされるおつもりですか?というか、ゲートを潜って来たと仰っていましたが帰りの手段はあるのですか?ゲートとやらは見当たらないようですが」
え?と思って私がこちらへ来た時の場所に目を向けると、確かにゲートが存在していない。
ゲートでの移動は一方通行だったのか。これ帰還の魔法か巻物が無ければ異邦の地に置いてけぼりだったんじゃないか?
「どうやらゲートは一方通行のようだ。だが魔法を使えば問題なく帰れるだろうから問題ない」
「え、魔法――ですか?」
「あぁ。――もしやキヴォトスにはモンスターだけでなく魔法すらも存在していない……のか?」
リンちゃんは戸惑いの表情を浮かべながら首肯する。
よもや魔法すらも存在していないとは。今日だけで一生分驚いたのではなかろうか。
「よかったらなんだけど、魔法を見せてもらう事は出来るかい?」
「あぁ、もちろん構わない」
先生からリクエストを頂いたので魔法を見せる事にしたが、何の魔法を見せるのが良いだろうか。
「では召喚魔法を使う事にしよう。――氷の具象」
別に魔法名を口に出す必要は無いがこうした方が彼らに伝わりやすいだろう。
こうして唱えた魔法により私の周りに浮遊した青いヒトダマの様な物体が現れた。
「うわっ、凄いね……。本当に出てきた」
「これは……ヒトダマ?触っても大丈夫でしょうか?」
「うむ、傷つけたりしなければ触るのは問題はないぞ。もし敵対していると見做されるとそいつに氷の彫像にされてしまうだろうから気を付ける事だ」
「――やめときますね」
少し脅かしすぎたか。召喚系の魔法はほとんど使う機会がないから動物召喚以外はロクに育っていない。攻撃されたとしてもキヴォトスの少女らはPV*3がとても高いらしいのでリンちゃんならば恐らくは問題ないとは思うが……万が一ケガをさせてもコトだしな。
「さて、私は一度帰ろうと思う。護身用の銃の用意をしたり手加減用の武器を見繕う必要がありそうなのでね」
このキヴォトスではどうやら銃を持たない人間は裸で街を徘徊する人間の数より少ないらしい。
自衛意識に関してはノースティリスより高いようだ。
しかもこんな平和な世界であっても野盗の様な存在は居るようで、こちらでは不良と呼称されていたが銃を持っていなければ不良に襲われる可能性が極めて高くなってしまうとのこと。ちなみに先生に野盗であるならば殺してしまっていいんじゃないかと聞いてみたのだが、なんとだめらしい。どうなっているんだこの世界。殺しに怯えすぎだろう。
「二人には世話になった。私はキヴォトスで珍しいアイテムを集めたり物見遊山と洒落込もうと思っている。もし珍しいアイテムがあれば是非私に紹介してほしい。こちらの世界の物と交換しようじゃないか。固定アーティファクトなら最高でおじゃるな」
「固定アーティファクト?が何かは分からないけどとりあえず珍しいものがあったら手元に置いとくね」
「物見遊山は構いませんが連邦生徒会長が失踪して以来キヴォトスの犯罪率が著しく上昇しています。心配ないとは思いますがお気をつけください」
「忠告感謝する。あまり大きな問題を起こさないように努力しよう。それでは、また会おう」
二人に一旦別れを告げ帰還の魔法を唱える。
しばらくすると視界が一瞬で切り替わり、馴染み深い景色が目に入った。
**********
「――という事があったんだ」
「なるほどな。どうやら我らが冒険者様は相当にお疲れらしい。あんな胡散臭いゲートが異世界に繋がってる訳無いだろうに」
事の経緯をロイテルに説明したらこれだ。全然信じてない。
挙句には早めに休むよう労われた。憐憫の目で。
もう少しゲートを利用して安全性を確立出来たらロイテルをゲートにぶん投げてやろう。
ささやかな復讐について考えるのは後回しにするとして、キヴォトス用装備を用意しよう。
まず持っていく銃はレールガンだ。5スロではあるがそれなりの拡張性がある。
レールガンの威力は高いが幸いにして私の銃の腕前は魔法使いが本職という事もありそれほど高くない。誤って一撃で殺してしまう事はないだろう。
本命は近接武器の方だ。倉庫に眠らせていた木刀を手に取り装備してみる。
これには特殊なエンチャントが付いており、これを装備した状態で敵を攻撃すれば殺す事無く気絶させる事が出来るのだ。残念ながら魔法や銃器などの遠距離攻撃には適用されないが、近接であれば殺してしまう心配は無くなるので私がキヴォトスで過ごす際の必需品と言っていいだろう。
これで利き手に★ラッキーダガー、反対の手には木刀を持ち背中にはレールガンを担ぐというおよそ魔法使いが絶対にしない装備が完成した。
いざ戦いになった時は基本的に近接で戦い、相手がちょっと強そうであればレールガンを解放しつつ、魔法は補助系と回復以外は基本自重する方向で行こう。まぁ、不良という名の野盗くらいしか危険は無さそうだし、私が戦う事は殆ど無いだろうがな。
「――貴方一体何者かしら?どうやってここに入ったのかも聞かせてもらいたいわね」
ははーん、さては面倒ごとだな?
イルヴァ豆知識
・固定アーティファクト
とっても貴重なアイテム。人によっては殺してでもうばいとる人もいるかもしれない。
・レールガン
6スロよこせ。