「ふむ……。思ったより重かったな、これ」
ふらりと寄った旅商人の宿泊地にて猫のような見た目ながら2足歩行で歩く人物が売っていたそれをしげしげと見つめる。ずいぶんと前から売られていたのは知っていたがまさかタダで貰える物とは予想外だった。それなりに力を付けた今だから良かったが、これは中々の重量がある。私が彼らに命を拾われたばかりの頃にこんな物を貰っていたらプチの如く重さで*ぷちゅっ*となっていたのは想像に難くない。
「それが目的か……?重さで圧死したところで落としたアイテムや所持金を掠め取る算段という訳か?」
流石ノースティリスの住民だ。油断ならない。彼の評価を改める必要があるかもしれない。
「あー、その顔を見れば分かるぞ。お前またおかしな事を考えているだろう」
あの2足歩行の猫の狡猾さに感心していると声をかけられた。彼は…。
「ロイテルか。いやなに、どこの商人も逞しいのだなと感心していたんだ」
「本当か…?それにしてはあまりに間抜けな……まぁそれはいいとして、その無駄にでかいのは一体なんだ?見てるだけで吸い込まれそうなんだが」
彼の名はロイテル。私の命の恩人に紹介され知り合った。今は私の友人でもありパートナーでもある。最近ちょっとした不幸があって莫大な借金を背負わされる事となった。かわいそうに。
「これはムーンゲートと言うらしい。なんでも異世界のような所に通じているらしいぞ?」
「異世界ぃ?屋台の商人でももう少しまともな売り文句を付けるぞ。そんなあからさまに怪しい物、買う前に気付くだろ普通」
君が言えたことではないと思う。本当に。
口にすると現実逃避してまたオルヴィナに逃げる可能性があるので言わないでおくが。
「私もオレンや金塊が必要なら買う事はなかったさ。しかしタダで貰える物のようでね。折角だし貰えるだけ貰っておいたんだ」
「怪しさが更に増しただけじゃないか!……まさかとは思うがそのゲートを試す気か?」
「無論そのつもりだ。眉唾物ではあるが、万が一本物で異世界とやらに行けたら面白そうだろう?」
元手は一切かかっていないのだから惜しむ物は何もない。十中八九偽物……少なくとも異世界なんて所には通じていないだろうがそれでも新しい環境、あるいはネフィアを見つける可能性はあるかもしれない。そうなれば儲けものだ。
「お前のその行動力の高さには感服する。とてもじゃないが真似出来ん。したくもないがな」
まぁそれに助けられてる部分も大いにあるから何も言えないが……と独り言ちるロイテル。
そうだぞ君の借金も私が返してるんだからもっと感謝してくれていいぞ。
「という訳で早速だが出発しようと思う。いつも通り留守は任せる」
「任された。とはいえ、お前がよく分からんモンスターを高台に設置してるおかげで襲撃はめっきり来なくなったがな。……いやほんと何でだ?」
あらかじめモンスターを湧かせておけば新たに湧くことは無くなるという常識を知らんのかロイテルは。今までどうやって生きてきたんだ?運か?――まさか彼もエヘカトル様を信仰しているのか?それにしては金運が最悪すぎる気がするが……。
「間抜けな顔してないでさっさと行くなら行け」
「あぁ。……ロイテルよ。エヘカトル様はお前を見捨てるような事はしない。強く生きろよ」
「……は?」
そうして私はムーンゲートを潜り、しばらくすると浮遊感に包まれ、視界が白に染まり――――
***************
しばらくすると視界に色が戻ってきた――のだが。
「視界が開けても白いな……」
正確には床や壁が白で統一されている。この感じの建築様式、どこかで見た覚えがあるが……。
「そうだ、アクリ・テオラだ。あそこに少し似ている気がする」
ということはここはアクリ・テオラ近辺という事だろう。テーブルの上にはコンピューター等の機械類が置かれている。ほぼほぼ間違いなさそうだが、あまりにもがっかりすぎる。あそこの最寄りはヴェルニースだ。今の拠点とヴェルニースはテレポーターで繋げているから実質日帰り旅行のようなものだ。せめてノースティリスは出て欲しかったぞ……!
「はぁ……タダでものを貰って冒険をしようと言うのが浅はかだったか」
幸いにして勉強代は私の落胆だけだから安く済んだと考えるとしよう。とはいえこのまま帰るのも悔しいから外へ出てネフィアの一つや二つ攻略してから帰ろう。
そう思いながら扉の方へ向かうと――
「ここがシャーレの部室です」
という言葉を発しながら扉を開ける女性。当然、私も外へ出ようとしていたので目が合う。
「「――――」」
「――リンちゃん?どうかした?」
「誰がリンちゃんです――ではなく……!先生!下がってください!侵入者です!」
長い黒髪を携えた眼鏡をかけた女性――推定リンちゃんとやらは後ろに居たこちらも同じく黒髪の眼鏡を掛けた恐らくは私と世代の近そうな男性を背に庇いつつ拳銃を抜きこちらに向ける。
……もしやここはアクリ・テオラの中でも機密性の高い場所とかだったりしたのだろうか。だとすれば悪いことをしてしまったのかもしれない。よく考えるとアクリ・テオラっぽいとは思ったがあそこでこのような場所は見かけたことが無い。これに関しては完全にこちらの落ち度だ。
「貴方、何者ですか?先ほどの不良達とは違うようですが……。今までのは全て陽動だったのですか?してやられましたね……」
「あー……、なにやら誤解を生んでしまったようで申し訳ないんだが――」
「目的を話してください。目当てはやはり先生ですか?しかしなぜ貴方のような大人の男性が先生を知って……。――え?ヘイローの、ない、大人の、男性……?」
「……すまない。君が何に驚いているのかは分からないが、私がここに居るのは事故なんだ。よもやここがそこまで機密性の高い場所とは思わなくてね。非礼を詫びる」
「い、いえ……でもこれは一体どういう……」
……?彼女は一体何に対して動揺しているのだろうか。察するに男性である私に驚いている風に受け取れるが、さして珍しいものでもあるまいに。これが私がカオスシェイプ等の異形の種族であればまだ分かるが私はエウダーナ。彼女の特徴的な耳からして話に聞いたエレアだと思われるがそれ以外の見た目に大きな違いはないはずだが。
「リン?とりあえず彼と話をしてみたいんだけど、いいかな?」
推定リンちゃんに庇われていた男性が声を掛ける。しかし彼女は状況が未だ飲み込み切れていないのか考え込んでしまっているようだ。こうなれば私から彼に声をかけた方がいいか。
「失礼。先ほどこちらの女性にも伝えたが私がここに居るのは事故だ。あぁ、私は口が達者ではなくてね。出来ればそちらも砕けた口調で話してくれると助かる。貴方は…先ほど先生と呼ばれていたな。こちらもそう呼んで構わないかな?」
「うん、分かったよ。名前についてもそれでよろしくね。事故って言ってたけど、とりあえず事情を話せる範囲で構わないから教えてもらえるかな?」
ふぅ、さすがに成人越えてるだけあって落ち着いているな。山場は超えたか。さすがにこちらに非がある状況で殺して逃走するのは気が引ける。それに最近ルビナスの壁を掘ったばかりだからカルマを下げる様な真似は極力避けたかった。
「無論全て話そう。とはいえ語る事はそう多くはないがね」
そう前置きした上で私がアクリ・テオラに来るまでの経緯を話した。
「「…………」」
なにやら二人が黙りこくっている。信用されていないようだ。当然ではある。異世界に通じるゲートをタダで貰うなどあまりにあほらしすぎる。しかもそれが大外れでこんな機密性の高そうな所へ来ているのだから言い訳として最悪すぎる。
「――リン。キヴォトスにアクリ・テオラとかヴェルニースって場所、あるいは学校って存在してる?」
「いいえ。少なくとも学校名としては確実に存在しません。地域名としても聞いた事がないですね。どこかの企業の名前でしょうか……?」
キヴォトス?この場所の名前か?いやしかし……これだけアクリ・テオラに似ているにも拘わらずその名を知らないなんて事あるのか?もしやアクリ・テオラに似ているだけで実はノースティリスの外だったりするのだろうか。確かめてみるか。
「時に二人は、パルミアという街の名前を知っているだろうか?」
二人は顔を見合わせ、知らないと答える。……流石にノースティリスの民がパルミアを知らないなんて事は無いだろう。一応ミシリアなどの他の主要都市についても聞いてみたがやはり答えは否だった。
……決まりだ。私は今、ノースティリスの外にいる。
何にも考えず書きました。
続き誰かよろしくお願いいたします。