”To You Sweetheart,Aloha!”
ルイ・アームストロング、ビング・クロスビー、ドロシー・ラムーア、アンドリュース・シスターズ、ミルス・ブラザース、などなど、ジャズ=ポピュラー界の大御所連中のハワイアン・ネタ曲を集めたCDであります。
それにしても、これをどのような人たちが聞いて楽しむのか、はなはだ心もとない。ジャズ・ボーカルのファンにはゲテモノ録音集と感じられるだろうし、ハワイ音楽のファンにとっては、ハワイっぽさのまるで感じられない曲たちは、あんまり楽しめないのではあるまいか。結局、楽しめるのは私のような好き者だけ、となるのだが。
ここで”私のような”としかとりあえず書けないのが悲しい。なんとか”楽しめるのはワールドミュージック・ファンだけ”くらいに皆の音楽志向が変わって行ってくれると嬉しいんですが。
で、内容。冒頭に収められているルイ・アームストロングの数曲はしかし、そんな私でもちょっときついなあ。サッチモの、あの全音濁点つきの高血圧ズビズバ・ボーカルは、真夏に聞くのは暑苦し過ぎます。夏以外の季節に聞けば、”変格ジャズ”として、きっと楽しめますがね。”小さな竹の橋の下”とか”ココナツ・アイランド”とか。
実はこのCD、今日、隣町のアウトレットに行く途中の車中で初めて聞いたのだが、ビング・クロスビーも、そのような環境では苦しい。いかにも古めかしい二枚目ぶりで、夏の陽光の元では辛気臭いものでしかなく、なんてのは言いがかりだけど。そんな環境で聞く方が悪い。
ドロシー・ラムーア共々、ここら辺は夜中に自室でしみじみ聞くものでしょうねえ。アメリカ人にとっても、かの島々がまだまだ”夢のハワイ”だったころのエキゾチックな憧れが横溢する音楽世界であります。当時の南国幻想が風雅に展開されるのをグラス片手に楽しんだら、これはきっと良いでしょうねえ。
とか何とか言いつつ、若き日のアンドリュース・シスターズが始まったとき、「うわあ懐かしい、こりゃ、スリー・グレイセスだあ」と、昭和30年代の日本の女性コーラスグループの名など心中、叫んでしまったものだった。まあ、分かる人は反応してください(苦笑)
そういえば、こんな具合の「大人になりかけのオネーサンたちのコーラス」って、今ではもう、聞く機会もないものです。女の子のボーカルグループってのは皆、アイドル声でキャピキャピ歌うばかりでねえ。
いやでも、全体に”大人の音楽”って感じであります、こうして昔のボーカルものを聞くと。女性の歌声はどれも”奥様”の風格を漂わせ、と聞こえるんだけれど、リアルタイムではファンたちには”若いオンナノコ”の歌声に聞こえていたのかも知れない。そんな気がするんだが、どうですか?と訊ねて、答えを返してくれる年代の方がネット世界におられるんでしょうか、しかし。
そして、真打!と言う感じで登場するのが、ミルス・ブラザース。皆がアロハシャツを着てくつろいでいる所に、いきなりタキシードで、みたいな貫禄がある。この辺を聞いていると、ジャズ・コーラスとしての芸が確立されてしまっていて、時代も何も関係ありませんな。古いレコーディングを聞いているって感じはない。
ちょっと面白いのは、ハワイ風に声を裏返して歌うところがあるんだけど、その裏返り方がいかにも黒人のファルセットであるところ。まあ、彼ら黒人だから当たり前と言えばそうなんだけど、ハワイアンの歌唱法とはニュアンスが微妙に違う。違うけど当たり前の顔して押し切ってしまうところがお茶目に感じられます。まあ、そんな重箱の隅を突付くような聞き方、誰もしないけどさ。
これは先に書いたフラビリーのアルバムでも同じなんだけど、各曲、歌詞中に”貿易風”って言葉が頻出します。ハワイを歌う際のキィワードだったんでしょうね、当時の。
まだ、ハワイへの旅は主に船が使われていた、そんな時代のお洒落な言葉。もう忘れられてしまった、”貿易風”の思い出・・・