一昨日でしたか、新生日本代表チーム、いわゆる”オシム・ジャパン”の初試合の相手がトリニダート・トバゴであったこと、ワールドミュージック好きのサッカーファンとしては、なかなか血の騒ぐものがありました。
トリニダードといえば、いわずと知れた(なんか文章、変か?)カリプソの発祥地として音楽の世界では名をはせている次第で、また、人種構成なんかを見るにつけても、南米ながらかなりのアフリカ度の高さであり、どうしても贔屓目に見てしまいます。この間のワールドカップなども初出場ながらなかなかの頑張りも見せ、嬉しくさせてくれたものでした。
で、今回、私が注意してみたのは試合前の”国歌斉唱”のシーン。思えば、トリニダッドの国歌って、聴いたことがなかった。が、同じくカリブ海の島国、ドミニカ共和国などは、その国歌が同国特産のリズム、メレンゲで演奏されると聴いておりますし(これもまだ、聞く機会がないんだけれど)もしかしてトリニダッドも、素晴らしい聴きものの国歌を持っているのかも。期待はつのります。
式次第つつがなく進行しまして、さて、壇上に黒人の女性歌手が登り、アカペラで歌いだされるトリニダッドの国歌。
ありゃりゃ、なんだかマイナー調の哀しげな旋律で、おいおいそりゃないぜと気落ちしかけるのを見透かしたかのように(やっぱり文章、変か?)その歌は途中でパッと長調に転調しましたね。
ひょっとして、伴奏がついた場合はアタマの短調の部分はカデンツァで、長調に転調してからリズム・インと、そんな構造になっているんではないかと想像してみる。
で、とにかく転調後のメロディ、これがねえ、期待通りにカリプソの雰囲気漂うものであったのが嬉しかったのでありました。あくまでも陽気で、ちょっぴり甘さを含み、なによりグングンと太陽に向かって伸びて行く若木のような生命力を感じさせる。
もちろん、サッカーの国際試合のイベントに於けるアカペラによる歌唱なんで、かの国の国歌の全容ははかりしれないんですがね。もう一度、今度は伴奏つきで聞いてみたいものであります。
ところで。この、”カリプソの雰囲気漂う”メロディってのが昔から私は気になっていたんです。初期の、というのは1930年代とか40年代とかのレコーディングなんですが、その頃のカリプソを聴くと、バックの演奏はもろにジャズです。デキシーみたいな編成&演奏で、しかし、歌われるカリプソのメロディは、すでにカリブ海の香り漂う跳ね上がるようなラテンのノリを内包したものだった。
ここで、歌われるメロディと伴奏との間に、当然ながら矛盾が生まれる。その辺りが相当にドサクサな演奏を無理やりに成立させている感じで、奇妙な快感があり、面白がって何度も聞いたものでした、アメリカの研究家製作になる古典カリプソを集めたカセットなど手に入れた当初は。
でも、どうなんでしょうねえ。レコーディングという、いわば”公の場”においてはそのような形になっていたが、当時のライブの現場では。もしかして、それなりに歌のメロディとあまり齟齬のないバッキングがついていたなんて想像はどうでしょうね。で、そいつは当時、”アマチュアの演奏家による間違った伴奏”と認識されて、記録に残されることがなかった。だから現在の我々には知る由もない、なんて。
ここまで来るとSFの領域に入って来ますが。こんな想像をしてみたくなるくらい、当時のカリプソのメロディの完成度と、伴奏のピント外れとの落差は大きく、私には感じられるんですが。
なんて事を、アカペラで歌い上げられたトリニダッドの国歌と、それに付くのであろう伴奏を夢想しながら考えていたのでした。
(写真は、トリニダッドの国花、ヒナゲシ)