ニューヨーク市長選挙、急進左派マムダニ氏が当選 生活支援に支持
【ニューヨーク=溝渕美香】全米最大の都市、ニューヨーク市の市長選が4日に投開票され、民主党候補の急進左派ゾーラン・マムダニ氏(34)が当選した。同市初のイスラム教徒の市長が誕生することになる。トランプ米大統領はマムダニ氏の政治姿勢を敵視していた。新市長の任期は4年で2026年1月1日に就任する。
現職のアダムズ市長の任期満了に伴う市長選は、社会主義者のマムダニ氏と、無党派で出馬した前ニューヨーク州知事のアンドリュー・クオモ氏(67)、共和党候補で自警団創始者のカーティス・スリワ氏(71)が争った。
マムダニ氏は東部時間の4日午後11時半にブルックリン区のステージに立ち、勝利演説をした。
ニューヨーク市の労働者について「勇気と権力をつかみ、政治王朝を倒した」と述べた。「トランプ大統領を阻止できた。政治的な闇のなか、ニューヨークこそが光となる」とも語った。
マムダニ氏は生活費の高騰への対策や富裕層への課税を強調した。「トランプのような億万長者が課税を逃れることを許してきた腐敗文化に終止符を打つ」と主張した。そのうえで「200万人以上の賃貸住宅の値上げ制限、バスを高速かつ無料にし、保育援助を提供する計画だ」と表明した。
市長選では生活費高騰や治安対策が主要な争点となった。
マムダニ氏は物価高騰が続くなかで市民生活を直接支援する政策が評価された。賃貸住宅の値上げ凍結や市営バスの無料化、高所得者層への増税などを公約として掲げ、生活環境の悪化に不満を持つ若年層や労働者層からの支持を広げた。
米不動産サイトによると、24年のニューヨーク市内のワンベッドルームの家賃(中央値)は3350ドル(約51万円)と5年間で24%上昇した。
賃金は物価の伸びほど増えず、年収の半分を家賃に充てざるを得ない層が多い。貧困率も高く、民間調査によると年収中央値の半分以下である「相対的貧困」に陥っている割合は25%に上る。
クオモ氏はマムダニ氏の政策に不安を持つ保守派や経済界の支援を得たが、汚職問題に揺れるアダムズ市長が支持を表明するなど、既成政治の象徴とみなされた。セクハラ問題で州知事を辞任した影響も残り、信頼回復に至らなかった。
トランプ氏はマムダニ氏を「経験も実績もない共産主義者で、市は経済的にも社会的にも破滅に陥るだろう」と批判。同氏が勝利した場合は市へ政府資金の提供を中止すると脅しをかけた。26年の中間選挙で民主党の勢いが広がるの警戒しているとみられる。
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(更新)- 植木安弘上智大学名誉教授ひとこと解説
ニューヨークのアパート賃貸物件230万のうち約100万は家賃安定化の規制対象となっており、家賃の上昇が市の家賃理事会で決められていている。それ以外はマーケットで決まるため、極端に家賃が高くなっている。マムダニ氏は、家賃安定化住宅の賃貸上昇を凍結し、向こう10年で20万ユニットの家賃安定化の住宅を市所有の土地やビルを使って建設・修理しようとするもの。かかる費用は10年で1000億ドルで、7割を地方債の発行で、3割を現在の資金計画で賄う。課題は、インフレの中での賃貸上昇の凍結による住宅維持費や地方債での資金調達、富裕層への増税など。その成否は民主党の将来にも関わる。
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(更新) - 竹内舞子米国弁護士・経済産業研究所コンサルティングフェロー貴重な体験談
ニューヨーク市の住民としては、これから壮大な社会実験が始まるのかと、期待と警戒が入り混じる思いではないでしょうか。家賃の値上げ制限、市営バスの無料化、高所得者への増税といった公約は、いずれも市民が日々頭を悩ませている問題であり、バスや地下鉄の運賃は片道約500円、家賃も既に制限があるものの、更新のたびに数万円は上昇し、それでも貸し手市場で、借りるだけでも一苦労です。 改善すれば、暮らしやすくなるでしょうが、市営バスは既に財政難で、財源確保やサービスの質は課題です。不動産業界や高所得者層は規制を回避する手立ても講じるでしょうし、実現への道のりは容易ではなさそうです。
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(更新) - 慎泰俊五常・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役分析・考察
ナチスドイツが与党になった時代には、ドイツでは中道政党が過激派のナチスと共産党に議席を奪われていくという現象が起きていました(そしてナチスが与党になったタイミングで共産党は消された)。当時の背景は戦争賠償金に伴うインフレと生活苦でした。 トランプ氏やマムダニ氏個人というより、全体傾向として、なんとも嫌な感じがしています。
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(更新) - 鈴木亘学習院大学経済学部 教授分析・考察
マムダニ氏の公約にあるNYのアパートの家賃規制は、経済学者が昔から、ダメな政策の典型的な例として挙げる有名なものである。1960年代からある(もっと前かもしれない)経済学の代表的な教科書であったサミュエルソンの「経済学」にも記述がある。家賃規制をすると、たまたまその時にアパートに入っていた賃借人は恩恵を受けるが、オーナーたちはアパート経営の採算が取れず、アパートの供給を減らそうとする。そのために、新たにアパートに入ろうとする多くの人々が犠牲になる。また、既に入っている賃借人を追い出すために、アパートの管理、設備更新もしなくなるので、老朽化が著しく進む。政策失敗の歴史は何度でも繰り返されるのか。
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2025年11月4日のニューヨーク市長選に関連する最新ニュースや解説を掲載します。