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私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

コートジボアールでのクーデター

2025-05-27 18:38:01 | 日記

 フランスを先頭とする西欧諸国のコントロール下にあったコートジボワール共和国で画期的なクーデターが起こりました。前回のブログ記事「イブラヒム・オラトーレを殺すな」では、オラトーレが殺されないように祈りましたが、ふざけた少し乱暴な言い方をすれば、「もうオラトーレが殺されてもアフリカは大丈夫」です。アフリカ大陸全体が新しい精神に湧きかえっています。立ち消えになることは決してないと私は思います。

 コートジボワール共和国で発生した画期的なクーデターの話をする前に、少し昔の話をします。私はフランスの詩人で思想家のポール・ヴァレリーに傾倒していた過去を持っています。今はヴァレリーの思想家としての限界もわかるようになりましたが、相変わらず、好きです。その著作『ヴァリエテ**』(編集: 鈴木信太郎、佐藤正彰 人文書院、1966年)の中に、「精神の危機(桑原武夫訳)」と題する論考があります。それは次の文章で始まります。 

「われわれ、もろもろの文明なるものは、今や、われわれもまた死を免れぬものであることを知っております。」さらに、
「ところで、現代は次のような重大な質問を認めますーーヨーロッパは、あらゆる部門において、その優越を維持しうるだろうか。すなわち、現実においてそうであるところのものに、すなわち、アジア大陸の小さな岬になってしまうのだろうか。それともヨーロッパは依然として、そう見えているもの、すなわち地上世界に貴重な部分、地球の真珠、巨大な身体の頭脳であるだろうか。」 そして、さしあたりの結論として、
「われわれはさきに、人間の品質がヨーロッパの優越の決定要素に相違なかろうと暗示しました。私はその品質をこまかに分析することはできません。しかし簡単な分析によって、あくことなき活動力、強烈でしかも利害をはなれた好奇心、想像力と論理の厳密さとの見事な混合、悲観主義ではない一種の懐疑主義、諦めにおちいらない神秘主義・・・などが、ユーロッパの「精神(プシケ)」においてとくに顕著に働きつつある性格だということが解るのであります。」
 ここでヴァレリーは、明らかに、誤った、中途半端な結論に達していることが分かります。「プシケ」という言葉は、単に「心」あるいは「精神」を意味していると思います。明晰な思索を行うことに一生を賭けたポール・ヴァレリーが、ヨーロッパ精神の強烈な「悪」の部分に想いが及ばなかったという事は、今、振り返って考えると、不思議に、いや、不可解にさえ、思われます。

 五月初旬に起こったコートジボワールで起きた出来事は、上述した「ヨーロッパ精神」とは極めて異質の「プシケ」から発しています。その事は次の二つの YouTube の動画をよく見聞するとはっきり解ります。

https://www.youtube.com/watch?v=9beSHS3zk_8

https://www.youtube.com/watch?v=kv1NLeVOCR4
 
<藤永の注>動画の貼り付けがうまく出来なかったので上記のアドレスを使ってください。

 はじめの動画は、コートジボアール(昔は象牙海岸と呼んでいました)の元大統領オタラ(Ouattara)が将軍ドンビアが統率する自国の軍隊によるクーデターによって職を失った後で、軟禁状態のままで、自己反省を語ります。オタラ自身の発言ではなく、力強い女性解説者の声で、クーデターの進行と、オタラの心境と注目に値する真摯な反省が語られます。これこそ新生アフリカのプシケです。大変貴重な動画だと思います。
終わりに近い部分を理解することがとても大切です。

 YouTube にはいろいろな形でこのオタラの自己反省が報じられ、解説が行われていますが、その一つに付けられた日本語の解説は、次のように述べています:
「コートジボワールで起きた出来事は、単なるクーデターではありません。外国の支配に対する力強い抵抗の行為なのです。この緊迫感あふれる動画では、混乱や流血もなく軍が権力を掌握した際に起きた、驚くべき出来事を余すところなく明らかにします。捕らえられた大統領が、外国からの圧力、不正取引、そしてアフリカの自由の必要性について公に真実を認め、革命の象徴へと変貌を遂げる様子をご覧ください。これは、主流メディアがあなたに聞かせたくない物語です。新たなアフリカ意識の覚醒と、欧米諸国への警告を探る私たちの番組にぜひご参加ください。「いいね!」、シェア、コメントで、アフリカが未来を取り戻しつつあるというメッセージを広めましょう!最新情報を逃さずチェックしてください。これは単なるローカルな出来事ではなく、アフリカ全土で起こっているより大きな権力移行の一部なのです。」
 
 二番目の動画は、実際に軍を指揮して静かにクーデターを遂行した将軍ドゥンビアのスピーチです。英語がよくありませんし、モタモタして聞き取りにくいですが、これも新生アフリカのプシケです。新生したアフリカの息吹きに満ち満ちています。

大変なことが起こり始めました。世界史的に言って、21世紀最大の事件になるのではないでしょうか。

藤永茂(2025年5月27日)