”The Best of Adlib Young Anim of Stargazers Fame ”
アフリカにおいて様々な土地で様々な形で息付くアフリカン・ポップスの古層を辿って行くと、つまりは”里帰りしたアフロ・カリビアン・ミュージック”という事になるようだ。
ヨーロッパから新大陸に渡った白人たちの文明とアフリカから連れて来られた黒人たちの文化とがぶつかり合って発生したカリブ海の音楽が、アフリカの地に持ち帰られ(?)て、人々に愛好されるようになった経緯など知りたく思うのだが、その話はここではすっ飛ばして。
西アフリカにおいて発生したと想像されるハイ・ライフ音楽などは、そのもっとも古い例と言えるのだろうが、それだけに良く分からないことも多く、昔々、ある雑誌で行われたアフリカンポップスに関する鼎談においても、「ハイライフって、良く分からない。現地の人に尋ねても、”あれもハイライフ、これもハイライフ”と、どれもハイライフ扱いになってしまう」などと、”お手上げ”の発言がなされていた。
音楽の形式としては、古いスタイルのカリプソがアフリカ風に変形したもの、という雑なくくりで想像していただければ良いと思うが。
このアルバムは、ハイライフ音楽が古くから盛んだったガーナで、1950~60年代においてハイライフ界の人気バンドだったスターゲイザースの歴史的レコーディングを集めたものだ。いきなりリーダーの芸名が”アドリブ”ヤング・アニムであるあたりが嬉しい。
針を落とすと(CDなんだが)聞こえてくる、リズミックに弾む、ややルーズなハモリのホーンセクションの響き。これこれ、こののったりまったりした手触りがハイライフの醍醐味だよなあ。などと和んでいると、トランペットやサックスのソロが始まったとたんに「え?」と驚かされることとなる。
いわゆるアフリカ風の旋律の中でジャズっぽくスイングしつつアドリブを決める、そのための方法論。それはたとえば渡辺貞夫が”ムバリ・アフリカ”期に盛んに行っていた演奏の軸となるものであるが、それはもうこの時点でほとんど完成されていた事を、このアルバムに収められた演奏が証明しているのである。
そいつは、半世紀近く前の演奏とは信じられぬほどのシャープな輝きを帯びていて、「いかすぜ、アドリブ・ヤング!」と声をかけずにいられない。いや、かけやしないけどさ、気持ちとしてそんな感じなのさ、凄いのさ、ハイライフという名のアフリカン・ジャズは。
高価で、弾きこなすにはそれなりの訓練が必要となるピアノの代わりにギターが使われ、それがハイライフをはじめとするアフリカの近代ポップスの個性となって行ったとはよく言われることである。
このアルバムで聞かれるギターの、トロッと甘く、それでいて切れ味の鋭いフレージングも捨てがたい魅力がありで、奏者の名が不明であること、まことに残念と言わずにいられない。
やあ、こんな音楽が普通に街角に溢れていた50~60年代の西アフリカの空気って、どれほどの熱気を帯びていたんだろう。ドキドキするよなあ。