第4回「シカ発言」肯定、「支持層に刺さる」 高市氏周辺、結節点の保守

高橋杏璃 笹山大志

【連載】「自民党 保守のゆくえ」 第1回はこちら

自民党は15日、結党70年を迎えました。かつてない党勢低迷を前に、「保守」を意識した政治姿勢を強調する高市早苗総裁は、自民をどこへ導くのか。党員、政治家への取材を重ね、自民の今とこれからを探ります。

「撤回するわけには」 高市氏の強気、支える周辺

 「英語圏の方だが、行為に及んだ方に、注意したことがある」

 「撤回するわけにはいかない」

 自民党総裁選で、外国人観光客の中に奈良公園のシカを「足で蹴り上げるとんでもない人がいる」と発言した高市早苗首相。今月10日、衆院予算委員会で外国人の差別を助長しかねないとの指摘に反論したやりとりを目にして、当時の取材を思い返した。

 「シカ発言」があった総裁選告示日の9月22日、東京・永田町の参院議員会館の一室。かつての所属派閥が異なる数人の国会議員が集まり、総裁選の戦略を練っていた。いずれも高市氏を支持する議員だった。

 「シカ発言」は失言ではないか。こうした考えを出席者の一人に尋ねたが、首を横に振った。そして「あれはよかった。支持層に刺さるよ」と高市氏に伝えたことを明かした。

 高市氏が国会審議でも強気を崩さなかったのは、自身の周辺では発言に肯定的な見方が広がっていたことが影響しているのかもしれない。

 少数与党の石破茂首相は、野党との融和路線を打ち出すことで政権の延命をはかった。

 こうした対応は自民党員にとって「弱腰」と映り、不満につながったとこの議員は分析していた。「高市さんの強気な振る舞いは響いたはずだ」と言った。

 憲法改正、外国人政策の厳格化、対中国への強硬姿勢。首相となった高市氏は、こうした「保守的」な政策、政治姿勢を打ち出すことで、党勢低迷からの脱却を目指す。

 その政策の推進に向けて動く政権中枢。無役ながらも高市氏を支える周辺議員。そうした陣容から浮かぶ共通項の一つは、思想信条にある。

派閥解消、変わる党内の権力構造

 木原稔官房長官、古屋圭司選挙対策委員長らは、安倍晋三元首相が会長を務めた保守系議員連盟「創生日本」に高市氏とともに籍を置く。超党派の日本会議国会議員懇談会に参加する議員も少なくない。

 かつての自民では、議員同士を結びつけたのは派閥だった。新人議員は、各派の特徴、支持者の動向、時の権力者の出身派閥などを踏まえ、所属先を決めていった。

 権力構造にも影響を与えた。岸田政権下では、各派閥領袖(りょうしゅう)の岸田文雄氏、麻生太郎氏、茂木敏充氏が重要事項に関与し、「三頭政治」と言われた。

 残る派閥が麻生派のみとなった石破政権下では、党内実力者を軸に、互いを知るベテラン議員たちを閣僚に据えた。

 そして結党70年を迎えた自民。率いる高市氏が結節点として選んだ「保守」は、党内でも急速に存在感を強めている。

党員獲得数、上位に並ぶ保守系議員

 「保守層の出席者が多い講演などを多くやっているからだろう」

 10月初旬、2024年の党員獲得数の順位表が議員らに示された。「日本の尊厳と国益を護(まも)る会」代表の青山繁晴参院議員が4年連続で首位だったことを受け、ある閣僚経験者はこう解説した。

 順位に目を向けると、近年は実力者と目される森山裕前幹事長らとともに、保守的な立ち位置の議員名が目立つ。24年分は、高市氏が2位だったほか、高市内閣の閣僚で首相と思想信条が近い城内実経済財政相が8位、小野田紀美経済安全保障相が10位だった。

 こうした党員の動向を前に、高市氏は政権運営に対する自信を深めているのだろうか。総裁の立場からすれば、それも当然のことかもしれない。

 だが首相としては、国民全体を意識したかじ取りが欠かせない。党幹事長経験者は言った。「聞こえのよい勇ましいことばかりを言う政治がいいとは、私は思えない」

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この記事を書いた人
高橋杏璃
政治部|外務省担当
専門・関心分野
外交
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    隠岐さや香
    (東京大学教育学研究科教授=科学史)
    2025年11月17日17時0分 投稿
    【視点】

    高市政権は身近な支持者の方ばかり向いていて、国民全体の声を聞いていないのではないか。そうした懸念を感じ始めている。 現状では支持率は高いようだが、それは高市氏とその支持者の考え方をメディアが充分に伝えているわけではないという事態も影響していそうな気がする。たとえばこの記事にしても「保守」という言葉の使い方が、通常の意味からするとおかしい。わざと何かを曖昧にしようとしている様子がある。 語義の通りなら、「保守」の政治家とは現状維持を大事にする人々のことである。しかし、高市氏は「非核三原則」の見直しを急に提案するなど、日本のこれまでの戦後の歩みを否定して現状を変えようとしており、現状維持的ではない。記事にある「外国人政策の厳格化、対中国への強硬姿勢」もこれまで通りというよりは排外主義に近く、「極右」と読んだ方が実情に合っている。「憲法改正」については、その方向にもよるが、もしも戦前回帰が視野にあるとしたら「反動」という呼び名が相応しいだろう。 なお、こうした記事で括弧「 」がつくときは、「記者個人の信条ではなく、相手の主張するとおりに書いている」という含意のあることが多い。 実際に本文では「首相となった高市氏は、こうした保守的な政策、政治姿勢を打ち出すことで」ではなく、「首相となった高市氏は、こうした「保守的」な政策、政治姿勢を打ち出すことで」となっている。このように書くということは、記者の方々はこれらがいわゆる普通の保守の政策ではないことを承知しているのだろう。では何なのか? 括弧を付けて判断留保せず、そろそろ正直に記者ご自身の言葉で語る時期が来ているのではなかろうか。

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