「ここは女性専用車両です」「日本人として恥ずかしい」 SNS投稿“3500いいね”が映す集団心理と都市交通の摩擦
安全確保の視点転換
女性専用車両をめぐる議論は、もはや「男性か女性か」という単純な対立の問題ではない。焦点に据えるべきは、「安全をどう設計するか」という問いだ。制度としての目的は明確であっても、その運用が社会的な摩擦を生んでいる現実を踏まえれば、求められるのは発想の転換である。 車内の監視システムを強化し、防犯の中心を人の判断からシステムに移すことは有効だろう。AIによる行動検知や映像解析が異常を早期に察知できれば、乗客同士の感情的な排除反応を減らすことができる。誤乗車への過剰反応や、場の空気によって形成される攻撃的な同調心理を緩和する効果も期待できる。人の正義感が過熱しやすい状況に、テクノロジーが冷静さをもたらす構図である。 制度の再設計も欠かせない。性別ではなく利用目的に基づく車両区分──たとえば「静穏車両」や「防犯強化車両」といった形での再編成は、痴漢防止という本来の目的を保ちながら、男女間の心理的対立を避けやすくする。名称や運用ルールの変更は些細に見えて、公共空間に流れるメッセージを変える。排除ではなく、安心を共有するための枠組みとして制度を再定義することができれば、利用者の安心感と鉄道会社の信頼性はともに高まるはずだ。 ただし、技術や制度だけで社会は変わらない。痴漢行為の重大性を周知する一方で、「疑わしきは罰せず」という法の原則を教育や研修の中で意識的に扱うことも重要だ。過剰な警戒や誤解を防ぐためには、相互尊重を前提とした社会的学習が欠かせない。学校教育や企業研修を通じて、公共空間でのふるまいを支える倫理を培うことが、長期的には交通空間の安全性を支える土台になる。 制度設計、技術、教育の三つを組み合わせることで、女性専用車両は単なる性別区分の場から、誰もが安心して移動できる公共空間へと進化できる。安全とは特定の誰かが守られることではなく、互いの不安を減らし合う仕組みとして設計されるべきものだ。いま私たちに求められているのは、対立を深めることではなく、共に安全をつくるという成熟した想像力である。
伊綾英生(ライター)