”L'AMOUR DE TOI ME FAIT DANSER”by FAIZ ALI FAIZ
いつぞや、ブログで話題にした記憶があるんだけど、同じワールドミュージック・ファンと掲示板上などで知り合うと必ず、「どんな音楽が好きですか?ボクはセネガルとパキスタンしか聴きません」と話しかける御仁がいました。で、それから何か話題が進展するかと思いきや、それだけ言ってもう、その掲示板上には姿を現さなくなってしまったりする。
要するにこの人物、自分を「セネガルとパキスタンの音楽しか聴かないヒト」と認識してもらえばそれで十分、後のことはどうでもいいって考えの持ち主なんですね。なんなんだろうなあ?最初に発する「どんな音楽が好きですか?」ってのも、特に相手の嗜好に興味があるんじゃなくて、自分の宣言(?)のイントロみたいなものなのでありましょう。相手がなんと答えようと、それに対するリアクションやら会話の拡大なんてあったためしがないものね。
え~と、虚しい話題を何度も繰り返しても仕方ないですが、その人物が「ボクはセネガルとパキスタンしか聴きません」と宣言した際、そこが画像の貼れる掲示板だった時に、決まって貼っていったのが、巨大なヌスラット・ファテ・アリ・ハーンのステージ姿だったのでありました。かのパキスタンの宗教音楽、カッワーリーの巨人でありますね。
イスラム教はスーフィー派の宗教音楽、カッワーリーも濃厚な音楽で、ことにこのヌスラットの音楽はパワフルにして品格があり、作品としての出来上がりも精緻、ということで、ともかく聴き始めの頃は彼ばかり追いかけていたものでした、私も。
タブラと手拍子で打ち込まれる地を揺るがすビートに身をゆだねるも良し、音名をサ~リ~ガ~マ~♪と歌い上げる形でボーカルによるインプロヴィゼーションを繰り広げる様をまるでよく出来たジャズを聴くように楽しむも良し。ずいぶんCDも集めたものだなあ。
が、時は流れ、ヌスラットも故人となり、いつの間にか何とはなしにカッワーリーに耳を傾ける機会も、あまりなくなっていったのでした。たまに聞く気持ちを起こしても、プレイヤーに乗せるのはヌスラットの盤ではなく、かっては「なんか粗野だなあ」と、あまり評価していなかったワイルドなカッワーリー歌手、アジス・ミアンの盤だったりする。
ここのところ、ちょっと面白いといえば面白いのであって。聴きなれたものとなって行くうちに、芸術的な豊饒を感じさせるヌスラットよりも、より荒削りで下世話な感じのあるミアンの音楽に魅力を感じてしまうようになった。これはなんだ?
・・・いや、これも以前、ブログに書いたかな。結論はいずれにせよ出なかったんだけど。まあとりあえず閑話休題。
そんな次第で、やや疎遠になっていたカッワーリーを、再び情熱を持って聞く気にさせてくれた盤をご紹介。FAIZ ALI FAIZ なる中堅カッワーリー歌手が2004年に発表した”L'AMOUR DE TOI ME FAIT DANSER ”なる作品です。
もうモロに”わが師、ヌスラットに捧ぐ”となっている位で、確かにヌスラット調のカッワーリーを聴かせるんだけれど、その若さ(とはいっても実年齢はすでにチューネンではあるが)ゆえもあってか、なかなかに生々しい息遣いを感じさせる出来上がりとなっており、そのメリスマのかかったシャウトには、大いに血の騒ぐ思いがする。
なにやら、その汗臭い雰囲気からは、パキスタンの町の雑踏の人いきれなんかがリアルに伝わってくるのだ。芸術的完成度よりも、パキスタンの人々のラフな生活実感が、その音楽には脈打っているのである。こいつはたまらないね。
FAIZのアルバムは、もう10年位前になるのか、一枚買って持っていたんだけど、どこか若さゆえの生硬さを感じてしまい、正直言ってあまり乗り切れなくて手放してしまったものです。まあそれが立派におなりになって・・・などと間の抜けたセリフなど言ってみるのだが。
それにしても「パキスタンとセネガルしか聴きません」の御仁、今でも同じ事を会う人ごとに言っているのかなあ。まあ、余計なお世話だが。