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メイキング・オブ・マイマイ新子

映画「マイマイ新子と千年の魔法」の監督・片渕須直が語る作品の裏側。

貴伊子が見つからない

2009年11月20日 12時03分24秒 | mai-mai-making
 さて、2008年9月21日(日)、今日から問題の貴伊子オーディション開始。

 福田麻由子による新子の台詞テスト録音は、すでに完了済み。
 子役の時期を脱して、演技力にいっそう磨きがかかってきた福田麻由子の相手役となれる人材。それでいて、比較的低めの音程で作られた福田・新子の役作りと対をなす以上、やや高めの涼やかな声であるのが望ましい。
 すでにペーパープランとボイス・サンプルで、ああでもない、こうでもないと、10代のタレント、女優の選別を繰り返してきた末でのことです。キャスティング・スタッフは、いきなり初日に40人の少女たちを揃えてきました。これだけサンプル数があれば、よしんばこの中に命中がなくとも、おおよそ必要とされている資質の方向性が客観的に浮き彫りになってくるだろう、という判断です。

 そこまで腐心していただいた上でこんなことをいうのもなんなのですが、これから決めなければならない貴伊子、シゲル以下の男の子たちはティーンエイジャーから選ぶことになるわけですから、オーディションのスケジュールは学校が休みの日主体になります。必然的に、われわれは休日なしになってゆきます。

 さて、初日の参加者は9歳から18歳までの女の子39人、プラス、本来の枠外なんだけどご本人の希望で24歳の声優1名。
 録音された新子の声とかけ合いをやってもらって、新子の声質とのアンサンブルを見つつ、演技を見る。すでに新子が自然な感じで成立しているので、いわゆる声優喋りだとマッチングが難しくなります。あまり力のこもった台詞回しだと、貴伊子らしさから外れてしまいます。

「ある程度か細くなくちゃならないんだよなあ、貴伊子」

 参加してくださった皆さんの力量の問題なんかじゃなく、あくまで、役のイメージとたまたま一致しているかどうかなのですから、難しい。しかも、貴伊子のパーソナリティは一面的ではない、いくつかの異なる表情が要求されます。オーディション用の台詞原稿も、三つくらい演技の質の違う場面を用意してありました。

「ひとり9歳の子いたね。『仮面ライダー電王』のコハナちゃんの子」
「松元環季ちゃん。声質の年齢感がちっちゃ過ぎですか?」
「リアル9歳なのになあ」
 6月のオーディションで、新子の妹・5歳の光子をリアルに4~7歳くらいの子役に演じてもらったら幼く聞こえすぎてしまった、という経験がありました。なので、9歳の新子を14歳の福田麻由子が演じるとき、光子は10歳前くらいがちょうどいいんだろうなあ、という感触は抱いておりました。
 ということで、光子=松元環季の線が急浮上。

 貴伊子は何人か候補を出しつつも、決定打出ず。
 この日は開始10時、終了20時。

 翌週の28日(日)、こんどは、男の子役のオーディション。
 シゲル、タツヨシの台本を用意して、28名。それに、貴伊子候補1名
 ここで、江上晶真(タツヨシ)、冨澤風斗(立川一平)、本城雄太郎(同級生)と出会うことができました。

 ここからしばらく、アフレコに備え、完成映像の編集作業に入ってあいだが開きます。フィルム完成に至るまでのスケジュールが出る。アフレコ初日は10月31日と決定されます。

 10月11日(土)、貴伊子オーディション。16時より、10名。
 10月13日(月)、貴伊子オーディション。3名。この日は平日なので、学校が終わった夕方に、制服姿のままの少女たちに来てもらって。

 10月19日(日)、アフレコ開始12日前。
 オーディションは今日で切り上げなくてはならないのというのに、貴伊子、シゲル、ミツル、四郎が欠のまま。
 どうするんだよ、という際どい雰囲気の中、この日は男子9名、女子5名。貴伊子はこれが最後の5人です。
 15時20分スタート、録音スタジオは18時まで借りてあります。
 西原信裕(ミツル)、中嶋和也(シゲル)、海鋒拓也(四郎)が次々と決定。男の子の方は調子が良い。
 しかし、貴伊子は17時過ぎても未定のまま。
「どうするの?」
「貴伊子役候補、もうあとふたりです」
「こんどの子、名古屋から来てます。水沢奈子」
「はい」
 ああ、ガラガラ荷物ひっぱて来てた子がいたっけ。

「お」
「あ」
「これ・・・・・・」
 この最後の土壇場で、『貴伊子の声』と出会えたとき、少し呆然となって考え込んでしまいました。
 あまり呆然としてたので、催促されてしまいました。
「監督、この子にもうひと台詞やらせてみたいんですが」
「うん」
 もう1シーン分だけ水沢奈子が演じる貴伊子の台詞を聞いてみる。モノローグのところ。
 もう一回考える。ここまで58人の貴伊子の声を聞いてきて、くたびれて自分の耳は鈍磨してしまってるのかもしれない。
「今のプレイバックできます?」
「新子の声とつないでみましょうか」
 録音された音声の編集が終わるまで待つ。
「はい。出します」
 もう一回聞いてみる。貴伊子が新子とふたりで喋ってる。ふたりそろってそこにいる。
「監督ぅ?」
 ええい、皆までいうな。すがるような目で見るな。こっちだって、もう決めてるんだから。

 水沢奈子に決めます、といったら、周囲のプロデューサー陣、キャスティング・スタッフから、救われたような大きな吐息が漏れたあの夕べ。
 オーディション最終日の最後のギリギリに起こった、奇跡的な出会い。

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