第8回「恥ずべきは客である」フランス社会の価値観が変わった 日本は?

聞き手・大貫聡子

連載「買春は暴力」⑧

 買春する側を罰する法律を2016年につくったフランス。売る側を被害者として保護しています。法律の意義と、それがもたらした社会の変化について、フランス在住のジェンダーと法の研究者、斉藤笑美子さんに聞きました。

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 フランスもかつては日本と似た状況でした。1946年に公娼(こうしょう)制度は廃止されましたが、日本の売春防止法と同じように、買う側を処罰せず、売る側にのみ勧誘罪が適用されていました。

 しかし、2014年につくられた「女性と男性の実質的な平等に関する法律」のなかで、女男平等を実現するための政策として「売買春との闘い」が位置づけられ、16年に買春処罰法が制定されました。

 「恥ずべきは客である」という価値の転換をしたことに大きな意義があると思います。そのため、長く売春の状況にあったサバイバーが売春の場で経験した暴力や被害を訴えることができるようになりました。

 性暴力とは何かを考える上でも画期的でした。これまで性暴力は他人の性的自由を侵害することが問題だと認識されてきました。一見したところ、性売買では売る側と買う側が同意しており、性的自由は侵害されていないように見えます。しかしフランスの法律は、女性差別が残る社会構造のなかで、「売る側と買う側の間にある力関係の不均衡を利用して支配すること、性行為をすることは暴力である」と真っ正面から認めたのです。

 日本はどうでしょうか。

 新型コロナウイルスの感染拡大が始まった頃、男性タレントがラジオで、「コロナが明けたらなかなかの可愛い人が、美人さんがお嬢(風俗嬢)やります。お金を稼がないと苦しいですから」と話して問題になりましたが、お金を払って性的な行為をすることを容認するような社会の空気が今も続いています。

 買う側を「見えないもの」にしている売春防止法も問題なのではないでしょうか。

 フランスはさらに進んでいます。18年には、「性的暴力および性差別的暴力との闘いを強化する法律」を制定し、路上などでしつこく誘ったり、性的なからかいをしたり凝視したりするなどのストリートハラスメントを処罰する性差別的侮辱罪を新設しました。

 法改正が社会の認識を変え、性差別に基づく暴力を可視化する動きは着実に進んでいるのです。

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 国は11月12日から25日まで「女性に対する暴力をなくす運動」を実施している。

●配偶者暴力相談支援センター ☎#8008(はれれば)

●性暴力・性犯罪被害者のためのワンストップ支援センター ☎#8891(はやくワンストップ)

 年齢や性別を問わず相談できる。

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この記事を書いた人
大貫聡子
くらし報道部
専門・関心分野
ジェンダーと司法、韓国、マイノリティー
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    杉田菜穂
    (俳人・大阪公立大学教授=社会政策)
    2025年11月17日15時35分 投稿
    【視点】

    生まれ持った特性や家庭環境、社会の偏見が複雑に絡み合うところに<売春させられる現実>や<売春せざるを得ない現実>があること、その現実を無気力にやり過ごしてきたような<売春のリスクにさらされている人>たちの支援に手が届いていないことに目を向ければ、ただ<売春のリスクにさらされている人>の自己責任を問うような声を相対化することができる。「買春は暴力」という見方は、売春のリスクにさらされることを未然に防ぐための方策を社会で考えるという視点が重要ではないだろうかという気づきにつながる。フランスの経験は、そのことを物語っている。

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