滅尽龍のシリオン 作:匿名
白祇重工の一同とパエトーンはその後無事に最後の知能重機フライデーを確保、めでたく会社の名誉は守られた。フライデーの証言から行方不明だった3台は失踪した前社長ホルスが関連するプロトタイプの重機からの応援要請を受信したことで自我が芽生えたことが一連の事件の原因と推測された。謎に包まれた前社長の行動にはどんな意味があったのか。幼くして裏切られたと感じていた現社長である実子、クレタは長い年月を経ても処理の出来ていない思いを抱えながらプロトタイプの捜索の為、ホロウの最深部に向かうことを決意する。
3台の知能重機をホロウに分散して配置し、それぞれがプロトタイプに向けて通信を行う。技術士とクマのシリオンの予測ではプロトタイプに余力は殆ど残されておらず、通信が確立することは無い、それでも極めて容量の低い自動応答ならかえってくるだろうとの読みで反応する方角を探す。
ホロウ内での大規模な通信はエーテリアスを呼び寄せるも社長の命令を無視して停止させること無く敢行する技術士。
「おい、グレース!おい…姉貴!」
会社を背負う者として中々本音をさらけ出せない小さな社長はあの時の喪失感を思い出し、彼女の元に走り出す。
風が吹いたような気がした、エーテリアス達が動きを止めて3台の知能重機は同時に声を上げる。
「「「救難信号を受信!」」」
エーテリアス達が1つの方向に逃げていく、こちらに目を向ける個体はいない。
「アイツ等、一体何してやがんだ?」
「場所の割り出しは終わってるよ!エーテリアスの進行方向!」
「全員、プロトタイプの地点へ急げ!エーテリアスを倒しながらだ!」
最早自動応答すらしなくなったプロトタイプへと分散していた白祇重工のメンバーは急行する。プロキシが座標を共有しているお陰で一直線に、更にガイドのように前方を走るエーテリアス共、このホロウの全員が1点に導かれるように走っている。
「何だったんだ今のは?」
いきなり大きなアラートを鳴らしたと思ったら力なくぐったりと地に伏せる白い重機をつま先でつつく、固い音が広場に小さく鳴るだけで反応は無い。男はただ封印されたものに興味があっただけで、広場の中央に設置された建物の中を覗いてみようと封印を施していた重機と瓦礫を退けただけだ。それだけでヒステリックを起こした重機を見ながら自分の数倍の高さの像の一部を地面に放り投げる。地響きが鳴り、次第に収まら…ない。遠くへと広がっていった地響きは全方向からこちらに戻ってくる。建物の上から目を凝らすと大量の何かがここに集まってきている、ホロウ内で動くものなど基本的にエーテリアスと決まっている。
「先ほどのアラートか…重機には邪魔されてばかりだな」
建物から飛び降り、地面に捨てた四角錐の瓦礫を半分の高さで割る。
「少し待ってろ」
太い部分で封印とやらを補強し、細い部分を脇に抱えて建物の上へ、一番近いエーテリアスの群れの先頭を睨む。
エーテリアスの背後を各々が持つ武器で間引きながら走り続けている。ハティなどの素早いエーテリアスには追い付けないまま広場に到着する。左右から他の部隊も合流し、薄くなったエーテリアスの壁の隙間から広場の中央に鎮座する白い機械が見える。
「見えた、プロトタイプだ!」
「社長!エーテリアスが先に着いちまう!」
「ベン!アタシを飛ばせ!」
若き社長が減速して後ろで汗まみれにになりながらドスドスと走るクマのシリオンの持つ建材に乗り、カタパルトの様に発射される。先頭のエーテリアスを叩き潰し、横の敵にも殴り掛かるが他の方向から先を行くエーテリアスには対処が出来ない。
咆哮が響く、エーテリアスのものではなく、知性を持つ者は本能から立ち止まる。
「この声は!」
ハンスが嬉しそうに声を上げるのと同じくして砲弾がプロトタイプに迫るハティを消し飛ばす。白祇重工は黒い影を見る、今しがた飛んできた瓦礫の上に降り立つ異形のシリオン、黒い翼を大きく広げ上体を反らしまた咆哮が周囲を支配する。流石にエーテリアスも男を無視する訳にはいかないのかプロトタイプから狙いを変えて群がる。この場全ての注意を引いた男は上空に高く飛び、身体を捻りながら地面に刺さる瓦礫に激突する。
「オレちゃんの後ろに!」
ハンスが身体を傾けて遮蔽を作り全員が避難した直後にエーテリアス達が切り刻まれる。衝撃で飛び散る瓦礫がエーテリアスの装甲を砕き、黒く尖った棘が細かく切り裂く、生き残ったエーテリアスもいるが重傷で動けない。半分地面に埋まっていた男が勢いよく体を起こし、死に体のものにとどめの棘が飛んでいく。
「ハンスか、奇遇だな。もう再就職したのか?」
災害が過ぎた後、唸るような声が遮蔽の外から聞こえる、好奇心でボンプが顔を出すと男がこちらを見ていた。
「ようネルギガンテ!そういうことや」
フレンドリーにハンスが話しかける、雑にショベルと拳を合わせて会話が続いているが、積み重なった情報を整理しきるのにはまだ時間がかかる。
「あの白いのもお前等の連れか?」
男に言われてプロトタイプの存在を思い出す、他の仲間に男の対応を任せて1人過去の遺産に対峙する社長とそれに付いていくボンプ。ハッチを開け中で見つけたのは銃創とプロトタイプの引渡書、何か事件が起きた事をはっきりと示す手掛かりだった。究明の責務に燃えてプロトタイプを回収し、仲間の所に戻ってきた社長が目にしたのは男が技術士に詰められている光景。
「キミねぇ、ウチの子供たちに傷をつけ過ぎ!何か恨みでもあるのかい?」
「あると言えばある」
「ちょっっと待てグレース!」
慌てて男から技術士を引き離してお互いの立場を説明して聞かせる。白祇重工所有の知能機械が怪我を負わせ、間接的に重機の確保に貢献、そして今プロトタイプの防衛に一役買ってでた男に万が一訴訟されるのはまずい。代わりにクマのシリオンが揉み手をしながら男に近寄ってきた。
「えっと、ネルギガンテさんでしたか?この度は初めまして、ウチの知能重機がご迷惑をかけたようで。あ、こちら名刺です」
ベン・ビガー、人事財務兼資産管理者。このナリで事務方か、見かけによらないな。
「そこまで気にしてはいない、思わぬ探し物も見つけたことだしな」
男がそう口にした時、広場中央の建物から手が飛び出し、藻掻くように動いた後上半身が出てくる。人型で成人男性と同じ位の身長、頭は機械のヘルメット的な物で覆われ縦に真っ直ぐ入っているライトはその存在の持つ大量のエーテルエネルギーを主張するかの様に虹色に光っている。
自由を得た化物が一番最初にしたことは赤い髪を持つ社長に急襲することだったが簡単に押し返されて、大した見せ場もないままハンスに拘束された。率直に言えば拍子抜けだ、もう長いことこのホロウにいて最終的な収穫がこんな一般の暴徒と変わらない気狂いだとは。ガッカリしながらハンスの足元で抵抗しようとしている化物に近付き観察する。他の面々も少し距離を取りつつ正体について考察していた所で化物が叫ぶ、この場のエーテルが激しく乱れる。
急激なエーテルの活性化で化物を中心とした広範囲に大きなエーテルの結晶が生える、白祇重工の者は下がって巻き込まれることはなかったが重機達は結晶の中でシグナルをロスト、ついでに男の姿も見えない。
結晶を突き破って出てきたのは鉄の怪獣。巨大なチェーンソーの右腕、左腕はドリル状のパイルバンカー、先端にショベルが付いた尻尾を振り回し蜘蛛のような脚が動く度に小規模な地震を起こす。怪獣の真ん中には船首に飾られる像のように人型の上半身が生え、頭の部分はコアとなって揺らめいている。
「重機を取り込んだ!?」
白祇重工の英知が力を合わせ牙を剥く、主導権は完全にあちらにあり腕の振り1つをとっても殺人級の威力に消極的になってしまう。ベンが注意を引く間にハンマードリルとネイルガンが怪獣の足を削るが自由に動く尻尾が攻勢を許さない。
「固ってぇなあ!」
肩部装甲が開きミサイルが飛来する、クレタがハンマーのアフターバーナーで急接近して打ち込まれた釘の上から脚の1本を破壊する。わずかに怪獣の動きが鈍るがまだまだ脚は残っている、尻尾が巨体と一緒に一回転薙ぎ払ってまた仕切り直しだ。
ショベルからエーテルのレーザーが発射され、アンドーが作業着をはためかせながらパイルバンカーの下まで逃げる。マガジンを交換し左から脇を狙うように撃ちながらグレースが距離を詰める。怪獣の両腕が駆動音を鳴らしながら左右の人間を潰そうと動くが標的に届く前に電磁グレネードが投げられ、感電により怪獣が一時的に停止する。
「任せたぞ、社長!」
遅れて正面に着いたベンが建材を無防備な怪獣に向けセットする。
「この高さなら!」
高く跳んでいたクレタが重力とハンマーの推進力でベンの建材を強打し建材に仕込まれている機構がその衝撃を熱に変えて前方に大爆発を起こす。
呻いて倒れ伏す怪獣だったがチェーンソーを打ち鳴らし天を仰いで叫びを上げる、コアは一層輝き傷を負った体は直っている。
「来るぞ!」
出力の上がった大質量の飛び掛かりに完全に反応することは出来ずにクレタはチェーンソーで殴り飛ばされる。助けに行こうにも過激さを増した敵から視線を逸らせない。もどかしさを感じながら猛攻を凌いでいると怪獣の様子が変化する。全身を使った攻撃は無くなり、両腕から片腕、最終的には攻撃が来なくなった。その場でぐるぐると回り始め何かに苦しんでいるようだった。
「どうなってやがる…」
「マスター、対象のエーテル反応に隠れてもう1つ生体反応があります」
「生体反応ってどういうこと!?」
怪獣の背中が盛り上がり、異常事態に備えていた皆が目にしたのは人の手が背中を突き破って出てくる、なんとも既視感に満ちた光景。上半身が続き、可視化される程に熱を持った荒い息が男の感情を雄弁に語り、赤く染まった眼光は落ち着き無く獲物を探している。登場の仕方は殆ど同じなのに周囲に与える印象は全然違っていた。
「ホ…ホラー映画…?」
何故だか目が離せない、1人の人間にここまでの感情を覚えるのは失礼かもしれない。小さくイアスが震えている。
ネルギガンテが声を上げる、言葉など発していなかったが何を言っているか分かるような気がした。