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364 進化


「……ちょいとしんみりしてしまったな。食事を用意させよう」

「俺も貰っていいか?」

「ふん、特別にくれてやる」


 アリステアがわざと明るい声を出して立ち上がる。それにアースラースとフランが続いた。それぞれが空気を読んだ感じだな。


「誰が用意するの?」

「ゴーレムだ。料理も出来るタイプを用意しているからな」


 ゴーレムが作る料理? それは斬新だな。


「美味しいの?」

「……まあ、それなりだな」


 フランがアースラースに視線を向けると、その答えである。それなりと言ってはいるが、あまり美味しくなさそうだな。フランも敏感に感じ取ったらしい。


「今から用意するのは大変。これを食べればいい」

「ほう。作り置きを時空魔術で収納してあるのか? 良い使い方だ」

「ん。いつでも最高の料理を作りたてで食べれる」

「それにしても、こいつは美味そうだ」

「それはカレー、最強の料理」


 フランが取り出したのはカレー鍋だった。米の入った土鍋とカレー用の深皿も一緒にテーブルに並べる。


「このお皿にこれをこうして、こう」

「色合いはともかく、匂いがいいじゃないか。アタシも貰っていいか?」

「もちろん。あと、これとこれと、これを載せて、完成」


 フランがさらに追加で取り出したのは、最近お気に入りのトッピングだ。バルボラで発見して仕入れた福神漬けにそっくりな漬物と、カリカリに揚げたフライドオニオン、さらにゆで卵だった。


 アリステアたちもフランの真似をして、カレーをよそって恐る恐る口に含む。美味しいという言葉は聞けなかったが、気に入ったかどうかはそのかき込み具合を見れば分かる。むしろカレーを食べることに夢中になり過ぎて、言葉を発せないようだった。


 フランも、フランにカレーを超大盛でよそってもらったウルシも、無言でカレーをかき込み始める。しばらくの間、部屋の中にはカレーを咀嚼する音と、カチャカチャという食器とスプーンがぶつかり合う音だけが響いていた。


 わずか5分で、超特大のカレー鍋が空っぽになってしまったな。しかし、この魔獣肉をふんだんに使った特製カレーを惜しげもなく振る舞うとは……。フランはこの2人を大分気に入ったようだ。


 腹がくちくなったアースラースが自らの腹部をポンポンと叩いてげっぷを出す。うーん、下品だ。フランの教育に悪いぞ。あ、こらウルシ! げっぷを真似するんじゃない!


「ふぅ。美味かった。こんな美味いものを食べたのは久しぶりかもしれん」

「俺もだ。どこで仕入れたんだ?」


 ああ、どっかのレストランで買った物を仕舞ってあったと思ったのか。


「師匠が作った」

「ほう」

「師匠ってのは誰だ? フラン嬢ちゃんの師匠なのか?」

(師匠、いい?)


 フランがチラッと俺を見てくる。アースラースに俺のことを明かしたいようだ。やはり、こいつのことが気に入ったらしい。


『前から言っているが、フランが教えたいなら構わないぞ』

「ん。師匠」

「……は? その剣がどうした?」

『どうも。インテリジェンス・ウェポンの師匠という者だ。お見知りおきを』

「な、け、剣が喋ってるのか?」


 アースラースが椅子からずり落ちそうになりながら驚いているな。神剣の持ち主が何を今さらと思ったが、喋る剣を見たらそりゃあ驚くかね?


 その後は、フランとアリステアが俺のことをアースラースに説明した。お決まりの名前へのツッコミも済み、アースラースは興味深げに俺を眺めている。


 それにしても、想像した以上に俺を受け入れるのが早かった。やはり神剣の使い手だけあって、不思議な剣への耐性があるんだろうか。


「そうか……俺の狂鬼化を消し去ってくれたのが師匠なのか」

『多分、一時的にだけどな』

「いや、フラン嬢ちゃんにも言ったが、でかい恩義を俺は感じている。何かあれば手を貸すからな? 覚えておいてくれ」


 俺たちが考えている以上に、狂鬼化がアースラースの負担になっているのかもしれないな。本気で喜んでいるのが伝わってくる。


『なあ、神剣を見せてもらえないか?』

「ガイアをか? 別に構わないが」


 アースラースが脇に立てかけてあった大剣を持ち上げ、テーブルの上に載せる。名前は地剣・ガイア。本来の力を発揮するために封印を解くと、大地剣・ガイアという本来の名前と能力を取り戻すらしい。


 見た目は武骨な大剣だ。分厚い革の巻かれた、両手持ちをするのに十分な長い柄。特に彫り物なども施されていない、地味な長方形の鍔。


 刃は反りの無い真っすぐな、いわゆる西洋刀と呼ばれる形をしていた。最も厚い部分で30センチはありそうだな。斬るよりは叩き潰すことに重きを置いた、金属の塊だ。一切の飾りのない黒い鈍色の刀身が、凄まじい威圧感を放っていた。


 見た目はただの大剣。しかし、こうやって見るとその威圧感は圧倒的だ。間違っても、ただの大剣ではないと、誰でも理解できるだろう。


 俺も、見ているだけで何故か敗北感が湧き上がってくる。剣としての本能なのだろうか? 自分よりも遥かに格上だと、自然と理解できてしまったようだった。


 悔しいが、俺は準神剣。まあ、そう自称する程度は許されるだろう。そして向こうは正規の神剣。その差は大きい。


「……いつか師匠はこれを超える」

『フラン?』

「いまに見てる!」


 フランは悔しそうに、それでいてやる気に満ちた表情をしている。俺は妙に嬉しくなってしまった。フランが俺を信じてくれていることが、無性にうれしい。


『だな!』

「ならば、まずは調子を完全に戻さないとな」

「ん! お願い」

『お願いします』


 やる気が出てきた。スキルがどうなるのか不安ではあるが、やらねば今後も戦えないからな。


「では休憩も十分とれたし、作業場に戻るぞ」



 10分後。


「では開始する」

『ああ』

「ん」


 アリステアがそう宣言し、俺に魔力を流し込んだ。それが呼び水となり、作業台の上の魔法陣が輝き出す。


 同時に体の中から何かが湧き上がる感覚があった。そして、微かな痛みが走る。


『ぐ……』


 体が熱い。体の底から強く熱いものが湧き出してくるのが分かる。そして、俺の中で巨大な何かが蠢き出すのが理解できた。


『がは!』

「師匠!」

『……!』


 だめだ、フランに言葉を返そうと思っても、何もしゃべることができない。


 凄まじい苦痛。それと共に、俺の中で激しい力の奔流が起こり、魔力が暴れ出す。自分の中の何かが変化し、作り変わっていくのが分かった。自分が自分でなくなる――いや、自分が自分を保ったまま、違う何かに変わっていく。


 進化。


 自然とそんな単語が頭に浮かんだ。だからだろうか? 不思議と恐怖はなかった。むしろ高揚感と期待感が俺を支配している。


 この全身がバラバラになりそうな凄まじい苦痛も、そのために必要なのだと考えると、我慢できる。


『ぐかあああぁぁ!』



今週は3日に1度の更新になってしまいます。申し訳ありません。

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[一言] フランちゃんに心配されたい人生だった…
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