校舎内にカメラ　熊本市教委、設置検討でアンケート実施へ　いじめ、性加害の抑止へ全国で加速　有識者「運用の厳格規則、合意形成が不可欠」

　学校現場でのいじめや体罰、性加害の抑止力として、校舎内にカメラを設置する動きが全国で出ている。熊本県外では、教員同士が盗撮した女子児童らの画像を交流サイト（SNS）で共有していた事件も発覚した。熊本市教育委員会も校舎内のカメラ設置を検討しているが、プライバシーの保護などクリアすべき課題は多い。

　愛知県や神奈川県などの複数の教員がSNSのグループチャットでつながり、教え子を盗撮した画像を共有していたとされる事件が6月に発覚し、学校現場に衝撃を与えた。これを機に各地で校舎内にカメラを設置する動きが加速した。

　愛知県みよし市は、性暴力の抑止を目的に、12ある全ての小中学校で校舎内にカメラを取り付け、来年4月から運用する。茨城県教委も県立高と中等教育学校計94校を対象に、29年度末までに教室の出入り口が見える廊下の天井に設置する。

　熊本市でも既に議論が始まっている。教員の不祥事やいじめなどの問題を有識者らが検討する熊本市教育行政審議会は今年3月、校舎内のカメラ設置について「検討が必要」と遠藤洋路教育長に答申。いじめや体罰などの事実確認が容易になることに加え、26年度施行の「こども性暴力防止法」を念頭に証拠を残せる手段の確保も理由に挙げた。

　関係者の受け止めは、さまざまだ。高校時代にいじめを受け、転校を余儀なくされた熊本市の男性（26）は「当事者同士で言い分が食い違う。客観的な証拠がないと事実が伝わらない。録画されていることを意識すると、相手を傷つける行動は取らなくなると思う」と強く賛成した。

　一方、小学生と中学生の子どもを育てる熊本市の母親は「校舎内にカメラを設置しても、校外やSNS上でいじめは起こるのではないか。カメラの設置場所や、誰が映像を管理するのかといった点で不安がある」と慎重だ。

　カメラ設置を巡っては、録画データの管理やプライバシー保護、映像流出のリスクといった課題が指摘されている。熊本市教育行政審議会は、モデル校を選定して運用方法を丁寧に検討するよう求めた。市教委は本年度中に子どもや保護者を対象にカメラ設置に関してアンケートをする予定で、「課題をどう解消できるのか慎重に議論を進める」としている。

　市教育行政審議会委員の末冨芳・日本大教授（50）＝教育行政学＝は「子どもを守るためにはカメラ設置は効果的で、死角がなくなるよう空き教室や廊下が望ましい。国が自治体を財政支援すべきだ」とし、「運用面の厳格な規則、児童生徒や保護者との合意形成は不可欠だ」と強調した。

　熊本県教委の学校安全・安心推進課は、県立の中高校、特別支援学校について「現時点で校舎内へのカメラ設置は検討していない」としている。（後藤幸樹、上野史央里）

　●学校の防犯カメラ　文部科学省が公表した2023年度実績で全国の設置率は64・6%。同省によると、不審者の侵入防止が主な目的で、設置場所は正門などが多いとみられる。熊本県教委によると、県立の中高校、特別支援学校を合わせた設置率は53%。熊本市教委の集計では市立の幼稚園と小中高校、特別支援学校の設置率は92%。いずれも校門や校舎の出入口など。