「教員による不祥事、中でも性犯罪が増えている」。そう思えてしまうほど、そうしたニュースを目にする機会が多い。2022年に児童生徒性暴力防止法が施行され、教員による子どもへの性暴力を防ぐ取り組みは強化されている。子どもへの性犯罪をはじめとする教職員による犯罪行為は、許されるものではない。だが、教員による犯罪は本当に増えているのだろうか。データを基に捉え直すことで、対策の考え方も変わってくるかもしれない。
【相談内容】
ニュースでは教員による不祥事や性犯罪は大きく報じられますが、実際に他業種と比べて多いのかは分かりません。その結果、世間では「教員は性犯罪が多い」という印象を持たれがちです。メディアが積極的に取り上げているだけではないかとも感じます。
公立中学校教諭の石本亮佑さん(仮名)、30代
関西地方の中学校で教員として働く石本さんは、インターネットで教員による不祥事のニュースを見るたびに、複雑な気持ちになる。
「教員による盗撮事件などが報じられると、教員全体がそういう人であるかのように見られている気がする。保護者から直接言われるようなことはないけれど、ネット記事のコメントを読むと、『そういう目的で教員になったのではないか』とレッテルを貼られているような気分になる」
言うまでもなく、大半の教員は誠実に職務に向き合っている 。しかし、こうした一部の教員による不祥事や犯罪が起きるたびに、学校現場では再発防止のための研修が行われ、何かしらの対策が追加される。教員はその仕事や立場から、子どもへの性犯罪が起きやすい。そのため学校現場では、教室の中で子どもと教員が1対1になるような場合、必ず外から見えるようにしているし、ハラスメント行為に対するコンプライアンス意識も高まっている。
「基本的に倫理観が高くて、実際にこれだけ気を付けているのに、他の職種に比べて本当に教員の性犯罪は多いのか。教員であるが故に批判のため報道で取り上げているのだとすれば、必要以上に学校不信を招いていることになるのでは」と、石本さんは疑問を投げ掛ける。
果たして、教員による犯罪は多いのだろうか。実際にデータを分析したことのある研究者に聞いてみた。
須藤康介明星大学教授(教育社会学)は、警察庁が毎年公表している「年間の犯罪」にある職業別の刑法犯検挙人数と、文部科学省の「学校基本調査」の教員数を基に、教員の犯罪率を算出。同じく「年間の犯罪」の年齢別の刑法犯検挙人数と、総務省の「人口推計」から求めた、25~59歳全体の犯罪率と比較したことがある。それによると、08~12年の5年間の教員の犯罪率は0.040%で、25~59歳の0.233%よりも顕著に低かった。
同じ方法で須藤教授に18~22年の5年間の犯罪率を出してもらったところ、教員の犯罪率は0.039%とほぼ変わらなかった。25~59歳の方は0.175%だった。罪種別に見てみると、教員の犯罪で多いのは粗暴犯と窃盗犯で、これは25~59歳全体と同じ傾向だ。
須藤教授は「教員の犯罪率が低いことは間違いない。一般の人々の5分の1程度だ。最近は教員による性犯罪のニュースばかりだが、教員の犯罪の内訳で多いのは粗暴犯と窃盗犯で、教員の犯罪イコール性犯罪というのは間違ったイメージだ」と説明する。
ただし、教員による性犯罪(わいせつなど)の検挙率に限ると、増加傾向にあるという。しかし、09年以降は年によって変動が大きくなっている(=グラフ)。前年に比べて検挙率が一気に高くなっている年もあるが、教員は入れ替わりが少なく、毎年ほぼ同じ集団であるため、検挙率が1年単位で大きく増減するのは不自然だ。
この背景として須藤教授は「教育界が性犯罪に敏感になり、同僚の見て見ぬふりが減ったり、被害者の泣き寝入りが減ったりした年があるのではないか」と見る。
直近のデータが気になるところだが、23年以降は法改正によって性犯罪の対象が広がった。このため、その前後の性犯罪の検挙率を比較することには、注意が必要だという。23年以降の増減の傾向は、今後数年間を待たないと分からないと説明する。
教員の犯罪が多くなっているかのようなイメージが広まっていることについて須藤教授は、教員の不祥事に限らず、メディアは問題がないときは報道せず、あったときのみ大きく報道する傾向があると指摘する。また、それに加え、多くの人にとって教員が身近な職業であることも理由として挙げる。
「学校教育を受ける中で、教員に良いイメージを持っている人も多くいるし、悪いイメージを持っている人も多くいる。これだけ多くの人から恩義も恨みも抱かれる職業は少ない。教員に対して悪いイメージを持っている人が教員の不祥事や犯罪の報道を目にすると、自分のイメージと相まって、あたかも犯罪を起こす教員が増えているかのような意味付けをし、他の人に拡散してしまうのではないか」と指摘する。
榊原禎宏京都教育大学教授(学校経営学)は、警察庁の「年間の犯罪」と文科省が毎年度公表している「公立学校教職員の人事行政状況調査」の結果から、「わいせつ行為等」によって懲戒処分となった人数を基に、00~19年度の教員によるわいせつ行為の発生率を推計した。
その結果、20年間の教員のわいせつ行為の発生率は0.010〜0.023%だった。23~60歳の全人口に占める「強姦」や「わいせつ」の検挙率と比べると、教員のわいせつ行為の発生率は全体よりも平均で1.49倍高かった。わいせつ行為の発生率は全体で見ても年々増加していたが、特に教員はその増加傾向が顕著だった。
榊原教授は、教員のわいせつ行為は勤務する学校の児童生徒が対象になるものばかりではないとした上で、「教員は子どもにとって教育的権力を背景にした優位な立場にある。進路や思春期の悩みなど、子どもの相談に乗ることも多い仕事なので、わいせつ的行為、さらには性犯罪が起こりやすいことは確かだ」と指摘。その一方で「数千人に1人という発生率をどう解釈するかは、議論の余地がある」と話す。
この発生率から言えるのは、わいせつ行為や性犯罪に手を染める教員は存在するが、どの学校にもそうした教員がいるわけではないということだ。暗数という表に出ていないケースもあるとすれば、実態と公表されているデータの間にはどうしてもずれが生じる。それらも踏まえると、教員によるわいせつ行為や性犯罪が多いかどうかを論じるのは難しい。
教員を含め子どもと接する業務に従事する人に対し、過去の性犯罪歴の有無を確かめる日本版DBSの導入など、近年、子どもを性犯罪から守るためにさまざまな対策が打ち出されている。それでも、教員のわいせつ行為や性犯罪を見つけ出すことは容易ではない。
榊原教授は「より重要なことは学校を風通しのいい職場にして、誰もがストレスをためにくく、コミュニケーションを活発にすることや、複数担任制など、一人の子どもにさまざまな教員が関わり、複数の目で見ていくような体制づくりに努めていくことだ」と、学校の組織づくりと教員のメンタルヘルスの面から、予防につながるアプローチの大切さを強調する。
◇ ◇ ◇
【取材メモ】
取材にあたり、伝え方が難しいテーマだと感じた。この記事の趣旨は、決して教員による犯罪を許容するものではない。しかし、より多角的に捉えていかなければ建設的な議論はできず、批判と「対症療法」 で学校現場は疲弊するばかりだ。そして、教員の犯罪を「多角的」に見るためには、今回の内容だけではまだ十分ではないかもしれない。今後も折を見て、さまざまな捉え方を提示していきたい。
◇ ◇ ◇
【キーワード】
児童生徒性暴力防止法 教員による子どもへの性暴力などを防ぐため、2021年に議員立法で成立した。わいせつ行為などで処分を受け、教員免許を失効した場合、その氏名や処分理由がデータベースに登録されることや、子どもなどから性犯罪被害の相談を受けたときは、学校や学校の設置者に通報することなどが定められている。
◇ ◇ ◇
「職員室では共有しにくいが、実は困っている事がある」「校内ではまことしやかに言われているけど、これは事実?」「前例や指?に従ってやっていたけれど、よく考えるとなぜ?」「こんな不正が行われているので、調べてほしい」などといった、読者の皆さんの情報提供や調査依頼に応えて取材する企画が『先生の特命取材班』です。情報の取り扱いには十分注意し、取材源の秘匿は厳守いたしますので、情報提供や、企画へのご意?などをお待ちしております。(「先生の特命取材班」情報提供・ご意見フォーム)