今年もほぼ当確と思われていたから驚きはなかった。ただ選手会投票で大谷翔平ではなく、フィリーズのシュワバーが選出されたのは、MLB内部に「倦んだ感情」が拡がりつつあることを表しているように思う。
別に大谷翔平の責任ではないが、ナ・リーグではあまりにも突出しているからだ。

2022年から大谷翔平は、MVP投票で得票している。
BBWAA（全米野球記者協会）の得票を見ながら追いかけよう。

2022年ア・リーグ

ヤンキースの30歳、ジャッジが62本塁打131打点16盗、率.311 OPS1.111、rWAR10.8と空前の成績、これに対してエンゼルスの28歳、大谷翔平は34本塁打95打点11盗、率.273 OPS.875ながら投手としても15勝9敗166回219奪三振、ERA2.33、空前の「規定打席、規定投球回数同時達成」しrWAR9.8を記録した。
今に至るも「二刀流大谷翔平」の頂点と言えるシーズンだったが、ジャッジもキャリアハイの成績を上げたために1位票の93.3％はジャッジに流れた。
これほどものすごいMVP争いは、今後もないのではないかと言えるすさまじい争いだった。

2023年ア・リーグ

この年、ヤンキースの31歳、ジャッジは故障のため106試合37本塁打75打点3盗、率.267 OPS1.019、rWAR4.6だった。これに対しエンゼルスの29歳、大谷は44本塁打95打点20盗、率.304 OPS1.066、初めてホームラン王を獲得。投手としては10勝5敗132回167奪三振、ERA3.14、トータルでrWAR10.0だった。2位のレンジャーズのコーリー・シーガーは33本塁打96打点2盗、率.327 OPS1.013、rWAR7.2だった。大谷は1位票満票を獲得。
ジャッジと言うライバルがいない中で、二刀流の大谷翔平には敵がなかった。ただこの年9月、右ひじ側副靱帯を損傷しトミー・ジョン手術とインターナル・ブレース手術を行い、投手としては2024年の全休が決定的になった。
このオフ、大谷翔平はFA権を行使し、ナ・リーグのロサンゼルス・ドジャースに移籍、10年7億ドル（当時のレートで約1014億円）と言う空前の大型契約だった。

2024年ナ・リーグ

ナ・リーグに移籍した30歳の大谷翔平は、右ひじ手術のリハビリ途上ではあったが、DHとしてフル出場。22年からナ・リーグもDH制を導入したが、これがなければ野手としての出場はない大谷のナ・リーグへの移籍は考えられなかった。この年、大谷は54本塁打130打点59盗、率.310 OPS1.036、ｒWAR9.2を記録。史上初の50-50を記録し、2年連続のMVPを獲得した。
2位のメッツ、フランシスコ・リンドーアは33本塁打91打点29盗、率.273 OPS844、ｒWAR6.9だったが大差がついた。
ただこの年、ア・リーグでは32歳のジャッジが58本塁打144打点10盗、率.322 OPS1.159、ｒWAR10.8を記録。もし同じリーグなら、大谷の数字は盗塁を除いてジャッジを下回っている。票は割れるだろうが、大谷のMVPは難しかったのではないか？

2025年ナ・リーグ

31歳の大谷は55本塁打102打点20盗、率.282 OPS1.014、投手として復活し1勝1敗47回62奪三振、ERA2.87で投打合わせ技でｒWAR7.7となった。打者として依然として好成績を挙げているが、WARは投打合わせ技にもかかわらず昨年よりも大きく数字を落とした。
2位のフィリーズのシュワバーは56本塁打132打点10盗、率.240 OPS.928、しかしDHのため評価は低くｒWAR4.7で大谷翔平が圧勝した。
ヤンキースから移籍したファン・ソトもｒWAR6.2であり、大谷にはかなわなかった。
ただア・リーグの33歳アーロン・ジャッジは今季も53本塁打114打点12盗、率.331 OPS1.144、ｒWAR9.7を記録。もし大谷がア・リーグにとどまっていたら、いかに「二刀流」でも今年のMVPはなかったはずだ。

現在のMLBにはアーロン・ジャッジ、大谷翔平と2人の傑出した選手がいる。もとはア・リーグで競り合っていたが、大谷はナ・リーグに移籍したことで、両雄がそれぞれのリーグで連続MVPになったということになる。
大谷のピークは「二刀流」としては22年、打者としては24年と言うことになろうか。今季は打者としては少しピークから下がったものの、高いレベルを維持している。このレベルをどこまでキープできるかが、今後の大谷翔平の課題になるだろう。