”Serenatas en Contrapuntos”by Hernan Gamboa
カリブ海に臨む南米の不思議音楽国ベネズエラを、ある面で象徴するような民俗弦楽器、”クアトロ”の巨匠、エルナン・ガンボアの2006年度作。完全に彼のクアトロのソロ演奏のみを聴かせる盤となっている。
クアトロというのは、まあ簡単に言えば大型のウクレレで、より金属的な音のする楽器、とでも思ってもらえばいいのだが、つまりはお馴染みポルトガルが大航海時代に地球のあちこちに残していった数多い音楽の種の実りの一つと言えよう。
楽器の構造の中に宿ったラテンの激情と、異郷からの楽器を愛で育んだ人々の足元に眠る新大陸の地霊の手触りとが相まって醸し出す、玄妙な弦の響き。それは至極簡単な構造の楽器ゆえ、逆にますますその謎を深めている。
ガンボアがここで用いているのは”ラスガプンテオ”なる奏法だそうな。要するにガッチャガチャと和音をかき鳴らす奏法であって、弦楽器に関しては、どちらかと言えば繊細な単弦の爪弾きを愛する当方としてはあまり好ましい奏法ではないのだが、さすが巨匠のレベルともなると、弦の掻き鳴らしも精緻を極め、退屈する隙などどこにもない。
実際、弦の上を滑る巨匠の指先はこちらの想像を遥かに超える想像力溢れる技を次々に繰り出し、意識せねばこんなに簡単な構造の弦楽器一本の演奏とは気がつけないだろう。
ましてやこの盤はセレナータ集、切ない想いを込めて紡がれたメロディばかりが収められているのだ。良くないはずがない。
この盤が彼のクアトロ奏者としての40周年記念盤でもある事も付け加えておくべきだろう。そのような盤の内容を彼はセレナータ集とし、かって音楽活動を共にした仲間たちに捧げる盤とした。つまり、かって人々がその胸中を去らぬ熱い思いに突き動かされ紡ぎ出したメロディ群の演奏を、過ぎ去った歳月への捧げ物とした。巨匠の心のレンズに映った、数々の人生の面影。
高度なテクニックによって研ぎ澄まされた甘美なメロディは、高度に昇華された感傷を歌い上げて尽きる事はなく、ついには天上に至る。そんな幻想が4本の弦の狭間から生まれては消えて行く。