”A Phyu Yaung Thanzin Nae Cherry Pyaw Tae Nya”by Poe Ei San
ともかく不思議な構造の音楽であるミャンマーのポップスである。聴き始めは「何だこれは?」と途方に暮れるばかりでどこからその世界に入って行ったら良いのか見当も付かなかったものだが、長い事付き合ってくると、分らないながらも、これは傑作であるとかあんまりそうでもないぞとか、これは好みだなあとか、それなりの評価のものさしが自分の内に出来てくるから可笑しい。
相変らず何がなんだかさっぱり分からないくせに、何を偉そうに「今回のは傑作だなあ」とか「これは俺の好みの出来上がりだ」とか言っていられるのか。
そんなわけで。摩訶不思議なるミャンマー・ポップスの中でもひときわ私には楽しく感じられるポーイーセン嬢のアルバムがまた手に入った。ともかく彼女の出すアルバムに外れはなし。今まで聴いてきた何枚かはすべて面白かった。これって凄いことだよ。
今回もアタマから幻惑。ますシロホン風の金属音がエキゾティックなフレーズを奏で、そいつに被る男たちの「エッ!ホッ!」とジャングル風(?)の掛け声。もうこの時点でどこの国の音楽か、まったく分からなくなっている。
そんなイントロに導かれて軽やかにポーイーセンが歌い出すのは、日本の戦前歌謡とデビュー当時の松田聖子のヒット曲を無理やり継ぎ合わせたみたいな奔放なメロディのポップな曲。いつの間にかバックの音はパーカッションと手拍子とひしゃげた音を出すキーボードだけになっている。間奏は、突然現われたディストーションのかかったエレキギターで。
どこからこんな音楽を思いついたんだと頭を抱えているうちに始まる2曲目は、実に安っぽいキーボード合奏とタンバリンのリズムだけの伴奏によるあっけらかんとした演歌であり、しかもここではポーイーセンは顔を出さずゲストの男性歌手がフルコーラス歌いきってしまう。
なんて調子でこの奇怪ポップス盤を紹介して行ったら疲れて仕方がないんでここまでにするが、なんなんだよ、これは?
ミャンマー伝統の不可思議音楽の土壌にしっかり足をつけながらも、その一方で積極的に欧米の(おそらく日本のものも)音楽も貪欲に自分の世界に取り込む彼女であるからして、その迷宮はますます深くなる。一曲のうちで世界一周してしまうような万華鏡状態の曲を歌いこなすかと思えば、次にはフォークギター抱えて中学校の昼休みに作りました、みたいなシンプル過ぎるフォーク調の曲を本気になってセンチに歌い上げてみせる。天然プログレの女王の証しここにありといえよう。
と、完璧に困惑させられながらも、ポーイーセン嬢が繰り広げる音の迷路に誘い込まれて迷子になる快感に今回も酔い痴れる私である。それは彼女の迷宮があくまでも明るい生命力に満ちた、ポップな光の迷宮であるからなんだろうなあ。もうポーイーセンには降参。どこまでも付いて行きます。
下の試聴はこのアルバム収録の曲じゃないんだけど、そしてこれは彼女の音楽の一面でしかないんだけれど、まあ、ポーイーセンの歌の雰囲気だけでも感じてください。